『バルカンー「ヨーロッパの火薬庫」の歴史』を読みました

久しぶりのブログの更新となってしまいました、私は、暑さでダウンしてしまう日が多々あって大変です。

 今週読んだ本はマーク・マゾワー著『バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史』(中公新書)です。

バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史 (中公新書)

バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史 (中公新書)

 

 

 この本は、バルカン半島に戦争や、民族紛争をもたらしたものとは何なのかということをバルカン半島の歴史を追いながら解き明かしていく内容となっています。本書によれば、バルカン半島に戦争や、民族紛争をもたらしたものは「国民国家」「民族主義」であるとしています。

 

ここで、バルカン半島の歴史を振り返っておきます。

バルカン半島はかつて、オスマン帝国領で、正教キリスト教徒という帰属意識のもと共同体が存在していたのですが、ヨーロッパによるナショナリズムの輸出と、近代化の必要性から、バルカン半島に国家を作ろうとするようになった。

しかし、国民国家建設を作るためには、一つの民族によるものでなければならないが、バルカン半島にはキリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒による集団や、ブルガリア人、セルビア人による集団などが入り乱れた環境にあったため、ある民族を国民とする国家建設が容易ではない状態となっていた。

そのため、バルカン半島内の同一民族を得るための紛争や、国境線の線引きの未解決の土地をめぐる紛争が発生した。

このような民族紛争は、冷戦の時代に共産主義の輸入によって先鋭化することがなくなってはいたものの、1990年代に共産主義体制が崩壊することにより、ナショナリズムが再燃し、再びユーゴスラビア紛争や、コソヴォ紛争などの民族紛争が起こる状態となってしまい、現在も民族間の紛争が絶えない状態にある。

以上のような歴史をたどってきたとのことです。

 

本書を読んでみて、自分は、かつてひどい誤解をしていたことがあったと反省をするようになりました。それは、平和の実現のためには国境を引ききってしまうべきだと考えていたことがありました。(とある大学の後期試験の入試の過去問で、このような解答をしたことがあります)しかし、バルカン半島の歴史を振り返ってみると、戦争が起こり、沈静化していない原因は国民国家形成のための民族対立にあり、むしろ国境を引くことは戦争の原因になってしまうということを思い知らされました。本書でも、1853年のオーストリア外務大臣の発言を引用して、端的に「民族の境界線に従って新しい国家を建設するという主張は、あらゆるユートピア的計画の中で最も危険なものだ」と述べています。

しかし、現在の世界は、僕がかつて思っていた「ユートピア的計画」を追い求めるような世界になっているのではないかと考えてしまいます。なぜなら、EUによる国際統合形成の拒否やアメリカによるメキシコ人追放計画、日本の極右による在日韓国人の追放運動といった民族間の対立をあおり、ある一定の民族、人種のみによる国内秩序形成の運動が起こってしまっているからです。ですので、いま私は、平和のためには寛容な精神が必要ではなかろうかと考えています。

 

バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史 (中公新書)

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ところで、本書にはミドハト憲法、19世紀のルーマニア憲法について言及があったので、それらについて考えさせられたことについて述べておきます。

ミドハト憲法イスラム教を国教とする内容の憲法であったため、民族間の紛争をあおる結果となってしまった歴史があります。日本の憲法には憲法20条の規定があり政教分離を定めています。この政教分離の規定はさまざまな宗教が混在する国家であるからこそ意味のある規定であると考えさせられました。そこで、日本の状況をみてみますと、日本の宗教団体としては仏教団体、神道団体、キリスト教団体、その他新興宗教団体など多様な宗教が混在する国家であることに思いが至ります。つまり、日本はさまざまな宗教が混在する国家であるため、政教分離の規定を持つにいたったのではないかと考えさせられます。

また、本書によれば、19世紀のルーマニア憲法ユダヤ教徒に新国家の市民権を与えないことにしていたためルーマニア内の民族間の対立をあおってしまったという歴史があります。日本国憲法は、人権規定について、その性質に反しない限りあらゆる人に保障されるけれども、国民の要件は国籍法で定めるという制度になっています。そのため、国籍法の運用次第では日本国民としての人権保障を受けられない人が出てくる制度になっています。そのため、この点に人権保障の不十分な点があるのではないかと考えさせられます。

 

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