刑法事例演習教材 事例8

今回も事例演習教材の僕の答案をこちらにも上げておきます。

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 あと、前回の答案についてコメントありがとうございます。お叱りの言葉も、お褒めの言葉も有り難く受け止めておきます。

刑法事例演習教材 第2版

刑法事例演習教材 第2版

 

 

 

第一.甲及び乙の罪責

1.暴行罪

(1)刑法208条にいう暴行とは、人に向けられた不法な物理力の行使をいう。甲は一人でAを手拳で殴打するという不法な物理力の行使をしている。

(2)よって、甲は刑法208条の罪責を負う。

2.監禁致死傷罪

(1)刑法60条の共同正犯が成立するためには、犯罪を共同して実行したといえなければならない。本件事案において、甲と乙は、Aが車から逃げ出したところで、共同してAを追跡し、捕まえ、二人でAの身体をつかんで車のトランクに無理矢理押し込んでいるため、甲と乙は共同して犯罪を実行したということができる。

 甲と乙は共同正犯の罪責を負う。

(2)刑法220条の監禁とは、人を一定の空間に閉じ込め、人の移動の自由を奪う行為を指す。

 本件事案において、甲及び乙は、車のトランクという一定の空間にAを閉じ込め、Aの移動の自由を奪っているため、甲と乙は、刑法220条の監禁行為を行ったということができる。

(3)刑法221条の監禁致死傷罪が成立するためには、監禁行為または監禁状態から人の死亡又は傷害という結果を発生させたといえなければならない。

 このことは、監禁行為または、監禁状態から人の死亡又は傷害を発生させるとは、因果関係があることを指すが、因果関係があるといえるためには、実行行為の危険が結果に実現したといえるものでなければならない。

 本件事案において、甲及び乙はAを自動車のトランクに入れ監禁しているが、車のトランクは人を脱出不可能にさせる場所であり、また、トランクは通常人が乗ることを想定したつくりになっていないため、他の座席などと比べて頑丈でない。そのため、車のトランクに人がいる状態で追突事故が発生した場合、トランクが凹損し、人が死傷する危険を発生させる。また、甲及び乙が自動車を停車させた場所は、車道の幅員が7.5mの片側1車線の道路であり、自動車の交通も予想される場所であったことから、自動車の追突事故が予想される場所であったということができる。

 甲と乙は、Aをトランクに押し込め、そのような場所で停車しているため、甲及び乙は追突の危険及び、これによるAの死傷の危険を発生させたということができる。また、このような状態で、甲及び乙は丙の運転する自動車との追突事故を発生させ、Aに頭部座礁の障害を発生させているため、甲と乙の監禁とAへの傷害の発生には因果関係があるということができる。

 また、Aは頭部座礁の障害を負った後、E病院に運び込まれ、脳死判定がなされ確定した後、Fの承諾とG医師の人工呼吸器の取り外しによって死亡している。このことから、Aの死亡は甲及び乙の危険とは無関係の危険から発生しているといえるため、甲及び乙の監禁とAの死亡との間に因果関係はない。

(4)従って、甲及び乙は刑法221条の監禁致傷罪の共同正犯の罪責を負う。

3.罪数

 よって甲は刑法208条の暴行罪と刑法221条の監禁致傷罪の共同正犯の罪責を負い、刑法45条により併合罪となる。

 また乙は、刑法221条の監禁致傷罪の共同正犯の罪責のみを負う。

第二.丙の罪責

1.自動車の運転により人を死傷させる甲の処罰に関する法律5条によれば、自動車の運転上必要な注意を怠り、人を死傷させた場合には、自動車運転過失致死傷罪の罪責を負う。

(1)このような過失犯が成立するためには、実行行為として、結果回避義務違反行為があり、責任要素として予見可能性があったといえなければならない。

 本件事案において、丙は自動車を運転する際に、前方を注視していないという前方注意義務違反の行為を行っており、その結果Aに障害を与えている。そのため、丙には結果回避義務違反の行為を行ったということができる。

 次に丙はAの不詳の結果について予見可能であったか検討する。丙が自動車を運転していた道路は、車道の幅員が7.5mの片側1車線の道路であり、ほぼ直線で見通しの良い場所であったことから、前方を注視していれば、乙の自動車を発見することができたということができる。しかし、この追突事故によって障害結果の発生したAはトランク内という通常人が乗車することが想定されていない場所におり、丙もAについて具体的に予見できたとは考えられない。

(2)したがって、丙は結果予見可能性が無く、自動車運転過失致死傷罪の罪責を負わない。

2.よって丙は無罪