事例演習教材刑法 事例30

今回の問題は、共同正犯に関する問題です。

最高裁平成6年12月6日判決を題材にした問題なのですが、共同正犯の成立範囲を考えるうえで難しい問題を含んでいます。

 

刑法事例演習教材 第2版

刑法事例演習教材 第2版

 

 

 

1.共同正犯による傷害致死罪の成否

 刑法60条の共同正犯による刑法205条の傷害致死罪が成立するためには、共同して刑法205条に該当する行為を行ったといえなければならない。

(1) 刑法60条による共同正犯が成立するためには、犯罪を共同して行ったといえなければならないところ、甲と乙は、Aの髪からBの手を離させようとするために二人でそれぞれBの腕をつかみ殴るなどしているため、甲と乙は共同して暴行を行ったということができる。

(2) 刑法205条による傷害致死罪が成立するためには人を傷害し、死亡させたといえなければならない。

 本件事案において、甲はBの手を離させようとして、Bの顔面を強く殴り転倒させ、頭蓋骨骨折の傷害を生じさせている。

 また、B6時間後に頭蓋骨骨折に伴うくも膜下出血により死亡しているが、これは、甲と乙のBを頭部から点灯させるという人の頭に対し、重大な障害を生じさせる危険な行為から発生したものであり、しかも、のちの乙の暴行は腹部等に対して行われたものであることから、この乙の暴行とは無関係に生じている。

 そのため、甲と乙の第一暴行と、Bの死亡との間には因果関係があるといえる。

(3) よって、甲及び乙は刑法60条の共同正犯による刑法205条の傷害致死罪に該当する行為を行ったということができる。

2.正当防衛の成否

 刑法361項の正当防衛が成立するためには、①急迫不正の侵害の存在、②防衛の意思、③相当性が無ければならない。

 また、刑法60条の共同正犯は各人の構成要件的行為の拡大のための概念であるため、正当防衛の成否は各人について判断される。

(1) 急迫不正の侵害があるといえるためには、不法な侵害が現在のものになっているか、近接しているといえなければならない。

 本件事案において、BAの髪をつかみ付近を引き回すなどの乱暴を始めているため、Bに対して現在の不正の侵害が発生しており、この事態を甲も乙も認識している。

(2) また、甲も乙もBの手を離させるために行為に及んでいるため、防衛の意思はあったということができ、第一暴行は防衛のためのものであったということができる。

(3) 相当性を満たすためには、防衛のための行為が必要最小限度の者であったといえなければならない。この相当性は、防衛行為の結果のみから判断されるものではなく、専ら行為から判断されなければならないとされる。

 本件事案において、甲及び乙はそれぞれBに対して暴行を加え、その中で甲がBの顔面を右手で強く殴り転倒させているが、これらの暴行は酩酊している50代の人物に対するものとはいえ、Aの髪をつかみ乱暴を働いている者から手を離させるためのものであることからすると、手を離させるという困難な目的を成し遂げるためにはこのような暴行は必要なものであったということができる。また、甲も乙も武器を用いることなく、素手で対抗しているため、行為も最小限度の者であったといえる。確かにBは死亡しているが、このことは甲と乙の暴行の相当性を否定する事情にはならない。

(4) したがって、甲と乙には第一暴行に対する正当防衛が成立する。

3.共同正犯による暴行罪の成否

 刑法60条による刑法208条の暴行罪が成立するためには、共同して暴行を行ったといえなければならない。刑法60条の共同正犯が成立するためには共同して暴行を行ったといえなければならない。

(1) 刑法60条の共同正犯が成立するためには、共同して行為を行ったといえなければならない。

 本件事案において、乙はBに対して暴行を働いているものの、この乙の暴行はAに対する侵害がやみ、Bが転倒し、動かなくなった状態の時のものである。このような別個の行為であると評価される場合、新たに共同正犯が成立したといえなければ共同正犯は成立しないとされる。甲はBが転倒し、再び立ち上がる様子がないことから、現場から離れようとしていた。そのため、甲は乙とともにBに対して、再び暴行を加えようという意思はなく、また、実際に暴行に及ぶなどしていない。

 そのため、第二暴行について、甲と乙は共同して行ったといえず、乙の単独正犯であるということができる。

(2) 刑法208条にいう暴行罪とは人の身体に対する不法な物理力の行使を指す。

 本件事案において乙は、Bの腹部等を足蹴にしたり、足で踏みつけるなどの暴行を行っているため、乙はBの身体に向けた不法な物理力の行使を行っているということができる。

(3) そのため、乙は刑法208条の暴行罪に当たる行為を行ったということができる。

4.正当防衛

 刑法36条の正当防衛が成立するためには、①急迫不正の侵害が存在し、②防衛の意思の下防衛行為を行い、③それが相当程度のものであったと認められるものでなければならない。

 しかし、第一暴行によってBが転倒した後Bは動かなくなっており、Aに対する暴行もやんでいることから、現在の侵害も、侵害の急迫もあったとはいえない。

 よって正当防衛は認められない。

5.したがって、乙のBに対する暴行罪一罪のみが成立し、甲は無罪。

 

有斐閣判例六法 平成31年版

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