司法試験平成29年刑法

私法試験刑法の答案を書いてみました。

死者の占有など書けてない部分などがありますが、間違いなどあれば、コメントにて指摘をお願いします。

 

司法試験論文全過去問集〈6〉刑事系刑法

司法試験論文全過去問集〈6〉刑事系刑法

 

 

 

第一.甲の罪責

1私文書偽造

 甲は、Cの求めに応じて売上票用紙の「ご署名」欄にAの名前を記載しているが、この項の行為が刑法1591項の私文書偽造罪に該当するか検討する。

2.刑法159条の私文書偽造罪が成立するためには、①行使の目的のあること、②他人の署名を利用すること、③義務もしくは事実証明に関する文書に対して行うこと、④偽造することが認められなければならない。

(1)本件事案において、甲は、Aのクレジットカードの利用という行使の目的を有しており、Aという他人の署名を利用している。また、Cの売上票用紙というものは、誰が商品を購入したかという事実をクレジットカードの信販会社であるBに証明するためのものであるため、事実の証明に用いる文書であるといえる。

(2)私文書偽造罪にいう偽造とは文書の作成名義人の同一性を偽ることである。

 本件事案において、甲は、A本人が自署すべき署名欄にAの名前を記載しているため、文書の作成名義人の同一性を偽ったといえる。確かに、Aは甲にクレジットカードを貸していることから、自署させることを認めていると解される余地はあるが、本件クレジットカードは会員である名義人のみが利用できるものであり、誰かに代理させることのできる性質のものではないため、Aは甲に名義の利用を許諾することができない。

(3)したがって、甲には私文書偽造罪が成立する。

2.私文書行使罪

 刑法161条の私文書行使罪が成立するためには偽造された文書を認識可能な状態に置いたことが認められなければならないところ、甲は、「ご署名」欄にAの名前を自署した文書をCに手渡し、Cに認識可能な状態においているため、文書を行使したということができる。

 したがって甲には私文書行使罪が成立する。

3.詐欺罪の成否

 甲はAのクレジットカードを用いて、X及びYを得ているが、このような公の行為に刑法2462項の詐欺罪が成立するか検討する

 刑法2462項の詐欺罪が成立するには、人を欺いて、財産上の不法の利益を得たことが認められなければならない。

 本件事案において、甲は、Aのカードを正当な権限なく使用することにより、Bに対して、Aによるクレジットカードの利用があったかのように偽り、Bをクレジットカードの利用があったと錯誤に陥らせている。そのため、Bに対する欺罔行為を甲が行い、Bを錯誤に陥らせたということができる。これに対して、甲は、クレジットカードの利用についてAから許諾を得ていたことを主張すると考えられるが、だれがクレジットカードの利用者であるかという事実は、クレジットカードの利用者の信用にかかわる重要な事柄であり、さらに、本件クレジットカードについては会員である名義人のみが利用できることとなっていたことから、甲がAのクレジットカードの利用について許諾を受けていたとしても、Bに対して重要な事実について偽ったということは変わらないのであるから、甲は、Bを欺いたということができる。

(2)また、甲は、これによって、XYの売買代金債務を負うことを免れているため、財産上の不法な利益を得たということができる。

(3)したがって甲には詐欺罪が成立する。

4.背任罪の成否

 甲は、Aから10万円の限度でのクレジットカードの利用についての許諾を受けたにもかかわらず、60万円分の利用を行っているが、このような甲の行為が、刑法247条の背任罪に該当しないか検討する。

(1)刑法247条の背任罪が成立するためには、①他人のために事務を処理する者であること、②図利加害目的のあること、③背任行為を行い、④財産上の損害を与えたとの事実が認められなければならない。

(2)本件事案において、甲は、Aから許諾を受けてクレジットカードを利用する者であることから、他人のために事務を処理する者であるということができる。また、甲は、腕時計Yを購入する目的であったことから、図利目的も認められる。

 確かに、Yの購入目的は交際相手にプレゼントする目的であるものの、このような関心を引くための利益は甲に帰属するため、第三者に利益となる場合ではなく、甲の図利加害目的を否定することにはならない。

(3)甲はAより10万円の限度でクレジットカードの利用が認められていたにもかかわらず、60万円分も利用しているため、背任行為があったといえる。

(4)9月分の決済によってA60万円の損害を与えているため、甲はAに対する財産上の損害を加えたということができる。

(5)したがって甲には背任罪が成立する

5.殺人未遂罪の共同正犯の成否

 甲は、乙とAに対して体当たり、及び押さえつける行為を行い、乙がAを石で殴ったことによりAを失神させ、鼻から血を流させているが、このような公の行為が乙との傷害罪の共同正犯に該当するか検討する。

(1)刑法60条の共同正犯が成立するためには、二人以上共同して犯罪を行ったと認められなければならない。

 本件事案において、甲は、乙とともにAを止めるということを目的として、Aに体当たりを行うなどしていることから、甲と乙は共同して、Aへの暴行を行っているということができる。そのため、甲と乙は、共同正犯としての罪責を負う。

(2)刑法203条の殺人未遂罪が成立するためには、刑法43条本文により殺人の実行に着手してこれを遂げなかったことが認められなければならない。

 本件事案において、乙が用いた石は、直径10センチメートル重さ800グラムほどの重い石であり、人の枢要部たる顔面に向けて力を込めて殴っているが、このくらいの重さの石というものは、人を殺害するのに十分な質量があり、さらに力を込めていたことから、Aを殺害できる程度の危険な行為を乙は行っていたということができる。

 しかし、乙は、Aを死亡させるに至らせていないため、甲と乙は刑法203条の殺人未遂罪に当たる行為を行ったということができる。

(3)したがって甲と乙には殺人未遂罪の共同正犯が成立する。

6.正当防衛の成否

 刑法361項によれば、正当防衛が成立するためには①急迫不正の侵害が存在すること、②自己または他人の権利を防衛する目的のあること、③やむを得ずした行為であることが認められなければならない。

(1)急迫不正の侵害が認められるためには、侵害が現在のものとなっているか、近接していることが認められなければならない。

 本件事案において、Aは甲に殴りかかっていることから、侵害は現在のものとなっていたということができる。

(2)また、防衛の意思がなければならないところ、甲は自らの身体を守るために、行為に及んでいるため、防衛の意思は認められる。

(3)やむを得ずにした行為といえるためには相当程度の行為であるといえなければならない。

 本件事案において、甲は乙とともに体当たりをし、押さえつけ、石で殴っているが、このような行為を二人で行うことは、Aの動きを制圧するのに十分とされる限度を超えているため、相当性を欠く行為であるということができる。

(4)したがって、甲に正当防衛は成立せず、過剰防衛しか成立しない。

7.相当性の誤信

 甲は乙がAを石で殴った事実を認識していないため、相当性についての認識が欠け、刑法381項により恋が欠けることも考えられる。

(1)刑法38条にいう罪を犯す意思とは違法な構成要件事実の認識を指すところ、正当防衛についての相当性についても、罪を犯す意思が欠けるものとして故意が阻却される。

(2)本件事案において、甲は、乙がAを石で殴ったとの事実を認識していないため、石で殴ったとの事実について故意が阻却される。そのため、甲が乙とともに体当たりを行ったことについて相当性があるかを判断しなければならないが、Aは身長170センチメートル体重65キログラムのやせ型の者であり、甲は身長165センチメートル体重70キログラムの者、乙は、身長175センチメートル体重75キログラムの者と、Aの体格に比し甲と乙は、しっかりした体格の者であると認められる。そのような者が2人してAに体当たりをし、押さえつけていることから、甲乙の側が優勢といえる。しかし、甲・乙の押さえつけた箇所は、Aが死亡するような箇所ではなく、子の押さえつけによってAに傷害を及ぼすような場所でもないことから、相当程度の行為であったといえる。

(3)したがって、甲の行為は、刑法381項により故意が欠けるといえる。

8.窃盗罪

 甲は、Aの財布を持ち出しているが、このような公の行為に窃盗罪が成立するか検討する。

(1)刑法235条の窃盗罪が成立するためには、他人の財物を窃取したといえなければならない。

(2)Aの財布というものは、Aの財物である。

(3)窃取したといえるためには、不法領得の意思の下、不法に占有を移転させたといえなければならない。

 本件事案において、甲は、財布の中の現金を得るために財布を盗んでいるが、財布自体については不法領得の意思を有しておらず、現金のみについて経済的用法に従って利用処分する意思を有していたことから、現金4万円についてのみ窃盗罪の客体になる。また、甲は現金4万円を自分の物としていることから、4万円の占有を不法に移転させたということができる。

(4)したがって甲は4万円について窃盗罪が成立する。

9.罪数

 したがって甲には、私文書偽造罪、同行使罪、詐欺罪、背任罪、窃盗罪が成立し、このうち、私文書偽造罪と、偽造文書行使罪は刑法541項後段により牽連犯となり、偽造文書行使罪と詐欺罪は刑法541項後段により牽連犯となる。この犯罪とその他の罪は、刑法45条により併合罪となる。

第二.乙の罪責

1.殺人未遂罪の共同正犯

 乙は甲とともにAを押さえつけ傷害を負わせているが、このような乙の行為について、甲との殺人未遂罪の共同政変が成立するか検討する。

(1)乙は甲とともに、Aを押さえつけ、石でAを殴っているが、本件事案において、乙野用いた石は、殺傷能力のある人をしに至らしめる危険のある物であったため、乙は殺人罪の実行に着手したものといえる。しかし、その目的を達成していない。

(2)乙は甲と共同して犯罪を実行しているため、共同正犯であるということができる。

(3)よって乙には、甲との殺人未遂罪の共同正犯が成立する。

2.正当防衛

(1)刑法361項により正当防衛が成立するためには、①急迫不正の侵害が存在し、②防衛の意思が存在し、③やむを得ないで行ったといえなければならない。

(2)急迫不正の侵害とは、侵害が現在または間近に差し迫っていることを指す。本件事案において、甲がAに殴られそうになっていたため、甲に対する急迫不正の侵害が存在しているといえる。

(3)また乙は、甲を守るという意思の下行為に出ているため、防衛の意思があったといえる。

(4)しかし、乙の行為は押さえつけられているAを石で殴るというものであり相当性を欠くものであったといえる。

(5)したがって、乙には正当防衛が成立せず、刑法362項の過剰防衛が成立する。

3.窃盗罪の共同正犯の成否

 乙は甲とともにAの財布を持ち出しているため、検討する。

(1)刑法235条の窃盗罪が成立するためには他人の財物を窃取したといえなければならないとされる。

(2)本件事案におけるAの財布はAの財物であるということができる。

(3)しかし、乙には財布を盗む意思すなわち不法領得の意思は存在しないため乙に窃盗罪は成立しない。

4.したがって乙には甲との殺人未遂罪の共同正犯のみが成立し、刑法362項により減軽される。

以上