司法試験平成28年刑法

平成28年司法試験刑法の問題を解きました

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平成28年司法試験 論文過去問答案パーフェクト ぶんせき本

平成28年司法試験 論文過去問答案パーフェクト ぶんせき本

  • 作者: 辰已法律研究所,西口竜司,柏谷周希,原孝至
  • 出版社/メーカー: 辰已法律研究所
  • 発売日: 2017/04/01
  • メディア: 単行本
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第一.乙の罪責

1.乙は甲と住居侵入及びV宅での強盗について共謀したうえでその計画に従ってV宅への侵入及び、Vへの財物強取のための暴行を行いVを死亡させているため、乙に甲との共謀共同正犯による住居侵入及び強盗致死罪が成立するか検討する。

(1)刑法60条により共同正犯が成立するためには二人以上共同して犯罪を実行したといえなければならないが、後述の通り、甲と乙は共同して犯罪を行ったということができる。

(2)刑法130条の住居侵入罪が成立するためには住居に住居権者の同意なく侵入したことが認められなければならない。

 住居とは、人が起居寝食の用に供する建物のことを指すが、V宅というものはVが起居寝食の用に供する家であるため、住居に該当するといえる。

 また、乙は強盗目的でV方に侵入しているが、強盗目的の立ち入りというものはVの推定的意思に反する目的であり、住居権者たるVが同意するとも考えられない。

 したがって乙は、刑法130条の住居侵入罪に該当する行為を行っているということができる。

(3)刑法240条の強盗致死罪が成立するためには財物の強取に向けられた相手方の意思を制圧する程度の暴行・脅迫が行われ、人が死亡したといえなければならない。

 本件事案において乙はVにナイフを突きつけ脅し、なおも金庫のある場所を言わなかったVの顔を蹴り、右足のふくらはぎをナイフで一回刺しているが、これは、金庫の中の金を奪うために情報を聞き出す過程でなされたものであるため、刑法2361項にいう財物の強取に向けられた行為であるということができる。また、このような乙の行為によって、Vは「いう通りにしないと、さらにひどい暴行を受けるかもしれない。」と考えて強い恐怖心を抱き、金庫の場所を答えていることから、乙のいうことに従わざるを得ない状態に陥っているため、乙の暴行は、Vの反抗を抑圧する程度のものであったということができる。

 また、刑法240条の死亡結果というものは、強盗の機会に発生したといえなければならないが、強盗の機会であるといえるためには、強盗の行為から発生したといえる関係にあればよい。本件事案において確かにVの死亡は乙がVへの暴行を行ってから3時間後のことであるものの、乙の行為から発生したということができるため、強盗の機会のものであるということができる。

 さらに、乙の暴行とVの死亡結果との間には因果関係がなければならないが、因果関係があるといえるためには実行行為の危険が結果に現実化したといえる関係になければならない。本件事案においてVは乙の暴行から3時間後に脳内出血が原因で死亡しているが、この脳内出血の原因となった行為は乙がVの顔面を蹴ったことによるものである。この乙の顔面を蹴るという行為は、頭の損傷により人を死亡させる危険性の高い行為であるため、乙の暴行にはVを死亡させる危険があったといえ、これによってVは死亡している。

 したがって実行行為の危険が死亡の結果に現実化したということができるため、因果関係もあるということができる。

 乙には強盗致死罪が成立する。

2.したがって乙は甲との共同正犯によって住居侵入罪と、強盗致死罪を犯したということができ、この二罪は刑法541項後段によって牽連犯となる。

第二.甲の罪責

1.甲は乙にV宅に侵入し、強盗を行うことを指示し、乙に住居侵入と強盗致死を実現させているが、これらの罪を警報60条により負うかが問題となる。

(1)刑法60条によれば、共同正犯としての罪責を負うためには二人以上共同して犯罪を実行したといえなければならないところ、計画に関与したに過ぎない者も複数人で謀議を行い、その謀議に従って各人の犯罪を実行したということができる場合、共同して犯罪を実行したということができるため、共謀共同正犯としての罪責を負うとされる。

 本件事案における甲は暴力団組織の組長に次ぐ立場の者であり、乙は自身の配下の者であったことから、乙は甲の指示に従って行動することが予定されていた者であるということができる。また、甲は乙に対して具体的にV宅で強盗を行うよう指示し、更にその計画の達成のために、現金3万円を渡し、ナイフなど必要なものを買ってくるよう指示していることから、甲と乙はV宅での犯罪について謀議を行ったということができる。また、乙はこの項の指示に従って、ナイフを購入し、V宅での犯罪を実行していることから、謀議に基づいて各人が犯罪を行ったということができるため、甲と乙は共同正犯による罪責を負う。

(2)これに対して、甲は乙がV宅に向かい、V宅前に到着した段階で、V宅での犯罪をやめるように指示している。

 刑法60条によって共同正犯として処罰されることになる根拠は正犯者の行為に因果性をもたらしたことであることから、共同正犯の関係から離脱したというためにはこの因果性を遮断したといえなければならない。

 本件事案において、甲は乙がV宅前に到着したところでやめるよう指示を出しているため、乙は甲の指示に従い、やめることが考えられるといえそうではあるものの、甲は強盗のために現金3万円を渡し、乙はこの現金でナイフを購入しており、甲の指示と乙の実行の間の因果は断ち切られていないといえること、また、乙は、V宅に現金があるとの情報などを得たことにより心理的に犯罪を実行する意思が助長されているといえることから、心理的因果性もやめるよう指示されたのみでは断ち切られていないということができる。

 したがって甲が乙にやめるよう指示した後も乙の行為について因果性を有しているということができ、V宅での犯罪について甲は共同正犯としての罪責を負う。

(3)これによって乙は住居侵入と、強盗致死を発生させている。これに対し、甲は強盗致死の結果発生を予期していなかったことから刑法381項により責任阻却されるとの戸の主張を行うことが考えられるものの、強盗罪の結果的加重犯であるため、刑法381項但書によって責任阻却がされない。

(4)したがって甲は乙との共同正犯による住居侵入罪と強盗致死罪の罪責を負い、刑法541項後段により牽連犯となる。

第三.丙の罪責

1.丙はV宅に侵入し、Vの現金を奪っているが、丙に住居侵入罪と乙との共同正犯による強盗致死罪が成立しないか検討する。

(1)刑法60条の共同正犯が成立するためには犯罪を共同して実行したといえなければならないところ、丙はVに対する暴行に関与していない。また、丙が暴行の事実を認識し犯罪に関与していたとしても、因果性がさかのぼって認められるわけではないため、丙は乙の暴行についてまで共同正犯としての罪責を負わず、V宅でおつと接触してから後について京都同正犯としての罪責を負う。

(2)丙は単独でV宅に侵入しているが、V宅というものは、Vが起居寝食の用に供する建物であり、Vの同意なく立ち入っているため侵入したということができる。

 したがって、丙には刑法130条の住居侵入罪が成立する。

(3)刑法235条の窃盗罪が成立するためには他人の財物を不法領得の意思の下、不法に占有を移転させたといえなければならないが、丙はVの財物であるVの現金を自己の者とするために乙と殿にカバンの中に入れて持ち出しているため、他人の財物を不法領得の意思の下、不法に占有を移転させたということができる。

 したがって丙は乙との間で窃盗罪の範囲で共同正犯の罪責を負う。

2.よって丙には住居侵入罪の単独犯と乙との共同正犯による窃盗罪が成立するが、刑法541項後段により牽連犯として科刑上一罪となる。

第四.丁の罪責

1.丁はV宅に侵入しているため、住居侵入罪の罪責を負う

2.丁はV宅で、本件キャッシュカードを見つけポケットに入れているため、窃盗罪の罪責を負うか検討する。

 窃盗罪が成立するためには、他人の財物を不法領得の意思の下、不法に占有を移転させたといえなければならない。

 本件事案において丁は、Vの財物である本件キャッシュカードを金品を得るためにポケットに入れていることから不法領得の意思の下で不法に占有を移転させたということができる。

 したがって、丁に窃盗罪が成立する。

3.丁はVに気づき強い口調でキャッシュカードの暗証番号を教えるように言い、キャッシュカードの番号を聞き出しているが、このような丁の行為が刑法2362項の強盗罪に該当するか検討する。

 刑法2362項により罪責を負うためには、相手方の反抗を抑圧する程度の脅迫を行い、財産上不法の利益を得たといえなければならない。

 本件事案において丁は血を流して横たわっているVを発見し、Vをにらみつけながら、暗証番号を教えるよう申し向けているが、Vは乙から暴行を受け非常に強い恐怖心を抱いている者であるため、丁のように強い口調で暗証番号を聞き出すと強く畏怖することが考えられる。また、Vは丁の様子に強い恐怖心を抱いていることから丁の行為はVの反抗を抑圧する程度の脅迫行為であったということができる。

 次に丁はVから暗証番号を聞き出しているが、通常、このような情報というものは座三条の利益ということはできないものであるが、キャッシュカードの暗証番号が得られると、預金が得られるおそれが高まるため、実質的に預金債権が得られたのと同様の状態となる。よってキャッシュカードの暗証番号の情報は財産上の利益ということができる。したがってVからこの情報を聞き出した丁は財産上不法な利益を得たということができる。

 したがって、丁は刑法2362項の強盗罪の罪責を負う。

4.丁は自己の預金した者でない現金を下ろすためにX銀行Y支店に立ち入っているが、この銀行は人が看守する建造物であり、X銀行の者の推定的意思に反して立ち入っているため、刑法130条の建造物侵入罪の罪責を負う。

5.丁はATMから現金一万円を引き出しているが窃盗罪の罪責を負うか検討する。

 刑法235条の窃盗罪が成立するためには他人の財物を不法領得の意思の下、不法に移転させたといえなければならない。

 本件事案におけるATMの中の一万円はX銀行の管理する財物であるため、他人の財物であるということができる。

 また、丁は一万円を引き出しているが、これは現金を得るためのものであるため、不法領得の意思の下に行われたということができる。

 丁は、ATMから現金を引き出しているが、他人の現金を引き出すということは銀行の意思に反するものであることから、丁が現金を引き出す行為はX銀行の意思に反した占有移転ということができる。

6.したがって丁には住居侵入罪、強盗罪、窃盗罪、建造物侵入罪、窃盗罪が成立する。このうち住居侵入罪と窃盗罪は刑法541項後段により牽連犯となり、住居侵入罪と強盗罪も刑法541項後段により牽連犯となることから、住居侵入罪、窃盗罪、強盗罪は科刑上一罪となる。また、建造物侵入罪と窃盗罪も刑法541項後段により牽連犯となり、科刑上一罪となる。

 これらの科刑上一罪となった罪が刑法45条により併合罪として扱われる。