司法試験平成29年民事訴訟法

司法試験平成29年民事訴訟法を解きました。

理由付けの部分で不十分な点があると思います。

他に何かおかしな点があれば、コメントにお願いします。

 

司法試験 論文過去問答案パーフェクトぶんせき本〈平成29年度版〉

司法試験 論文過去問答案パーフェクトぶんせき本〈平成29年度版〉

 

 

 

設問1

1.裁判所は、Aの証言から、Y代理人AXとの間で契約が締結されたとの心証が得られたとして、本件訴訟の判決の基礎としようとしているが、このような事実認定が可能であるか検討する。

2.裁判所による事実認定については私的自治の原則が及ぶため、証拠資料と訴訟資料の分離が行われ、当事者の主張した事実のみを基礎としてしか判断することはできないとされており、主張責任といわれている。

 この主張原則の対象となる事実とは主要事実を指し、権利発生、権利障害、権利消滅、権利阻止の基礎となる具体的な事実を指すとされている。

 本件事案において裁判所は当事者の主張していないY代理人AXとの間で契約がなされたとの事実をAの証言から認定しようとしているが、代理による契約を忍耐するためには授権行為、顕名行為と契約を行った事実の主張がなければならないとされており、これらは権利発生要件であるため、すべて主要事実であるとされている。

3.そのため、裁判所がY代理人AXとの間で契約が締結されてとの事実を認定するためには、XY当事者による主張がなければならず、これのない本件については、裁判所はY代理人AXの間で契約が締結されたとの心証が得られたとしても、このことを判決の基礎としてはならないといえる。

設問2

小問(1)

1XYに対して民法5491項に基づく贈与契約に基づく本件絵画の引渡しを求めていることから、訴訟物はXY間の贈与契約であるということができる。

2民事訴訟246条によれば、裁判所は当事者が申し立てていない事項について判決をしてはならないと定めており、この規定は、処分権主義を明確化した規定であるとされている。

 本件事案において裁判所は売買契約の成立と同時履行の抗弁を入れて判決しようとしているが、Xは売買契約について何らの申立も行っていない。

 よって裁判所はこのままでは「Yは、Xから200万円の支払いを受けるのと引き換えに、Xに対し、本件絵画を引き渡せ」との判決をすることはできないといえる。

3.そのため、Xとしては贈与に基づく請求から売買契約に基づく請求に訴えの変更を行わなければならないといえる。

 民事訴訟1431項に基づいて訴えの変更を行う場合、変更後の訴えを民事訴訟136条に基づいて提起し、民訴法1431項の要件を満たし、変更前の訴えの取り下げを行わなければならないとされる。

(1)そのため、X民事訴訟136条に基づいてXY間の売買契約に基づく本件絵画の引渡し請求をXY間の贈与に基づく訴えに併合提起しなければならない。

(2)訴えの変更を行うためには変更後の訴えについて請求の基礎に変更がないことと、口頭弁論終結前であることと、著しい訴訟手続きの地帯が認められないとのことが認められなければならない。

 本件事案における新たな訴えは、本件絵画に関する契約であることは同一であり、その性質が売買課贈与かという部分しか異なっていないということができる。そのため、請求の基礎に同一性はあるということができる。

 また、Yは口頭弁論終結前に訴えの変更を申し立てることが考えられ、さらにこの訴えの変更は、XYの契約の性質を変えるにすぎないため、著しく訴訟手続きを遅滞させることとなるとは認められない。

 よって、Xは訴えを贈与契約に基づくものから売買契約に基づくものに変更することができる。

(3)また、「200万円の支払いを受けるのと引き換えに」との引換給付判決が出されるためには民法533条に基づく同時履行の抗弁が主張されていなければならない。甲同時履行の抗弁とは権利抗弁であることから、引換給付判決を求める者が権利主張を行わなければならないとされる。

 したがってYが同時履行の抗弁を主張しなければ引換給付判決を下すことはできない。

小問(2)

1民事訴訟246条によれば、裁判所は当事者が申し立てていない事項について判決をすることができないと規定されているが、これは原則として請求原因についてのものであり、執行の条件である引換給付判決の条件には及ばない。しかし、代金債権というものが実質的に引換給付判決の条件の内容になっていること、当事者の主張しない条件を認めると当事者に不意打ちとなることから、民事訴訟246条の趣旨が及び、引換給付判決において、当事者の主張しない条件での引換給付判決は認められないということができる。

2.本件事案において、Yは本件絵画の代金額は300万円である旨主張し、Y200万円である旨主張していることから、裁判所としては本件絵画の時価相当額について200万円から300万円の範囲で決定しなければならないと解される。

 そのため、仮に裁判所が本件絵画の時価相当額が220万円であると評価すれば、「220万円と引き換えに」との引換給付判決を下すことができるが、時価相当額が180万円と評価される場合にはその通りに認定することができず、当事者の主張する金額の範囲内である「200万円の支払と引き換えに」との引換給付判決を下すことになる。

設問3

1YXに対し、本件絵画の売買代金200万円の支払いを求める後訴を提起したが、XXY間の契約は贈与契約であったとの主張を改めて行うとともに、仮に売買であったとしても代金額は200万円であることを主張しようとしているが、このようなXの主張が前訴確定判決の既判力によって遮断されないか検討する。

2民事訴訟1141項によれば、確定判決は主文に包含するもの、すなわち、訴訟物について発生するとされる。また、この既判力は前訴確定判決の内容と先決、同一、矛盾関係にある事実に及ぶ。

 本件事案において前訴確定判決は、「Yは、Xから200万円の支払いを受けるのと引き換えに、Xに対し、本件絵画を引き渡せ」とのXY間の契約が売買契約であったことを前提とするものになっていることから、後訴においてXY間の本件絵画に関する契約が売買契約であったことを前提として判断しなければならない。

 それにもかかわらず、Xはこの前訴確定判決の内容と矛盾する贈与契約の事実の主張を行おうとしていることから、前訴確定判決の既判力が及び、Xの贈与契約の主張は遮断されるということができる。

3.次に引換給付判決というものは執行の条件に過ぎないことから、民事訴訟1141項に基づく既判力は発生しない。

 そのため、Xはこの既判力の及ばない本件絵画の売買代金に関する主張をすることができるとも考えられる。

 しかし、Xの主張というものは前訴においてXが主張した金額よりも小さく、既判力が及ばないことを奇貨として、代金を減額させるという不当形成を行おうとしているということができる。

 そのため、Xの主張は民事訴訟2条の信義則を理由として遮断されるということができる。

4.したがって、裁判所はXY間の本件絵画の売買契約の成立およびその代金額に関して改めて審理・判断することはできない。