令和元年司法試験刑事訴訟法

令和元年の司法試験刑事訴訟法を解いてみました。

本件基準説と、別件基準説の違いを問題にしなくても書けるようですが、僕はこのように書いてみました。

何か気になる点があれば、コメントにお願いします。

 

刑事訴訟法 第5版 (有斐閣アルマ > Specialized)

刑事訴訟法 第5版 (有斐閣アルマ > Specialized)

 

 

 

設問1

小問1

1Pは平成31228日に、甲を本件業務上横領の被疑事実で通常逮捕し、勾留しているが、この逮捕勾留が別件逮捕、勾留に当たり、憲法31条に基づいて制定された刑事訴訟法205条に違反し、許されないものといえるか検討する。

2別件逮捕勾留については、専ら本件についての取り調べを行う目的で、別件についての逮捕勾留を行った場合、本件について一罪一逮捕一勾留の原則が及ばなくなることから、取り調べをすました後に、本件についての嫌疑が判明し、逮捕勾留をすることが可能になる。このようになると、本件について刑事訴訟法205条に規定される勾留期間の厳格な定めを潜脱し、実質的に、刑事訴訟法205条の勾留期間を超えて本件についての嫌疑を理由に勾留してしまうため、憲法31条に基づいて制定された刑事訴訟法205条に違反して許されないということができる。

 本件事案において、Pらは、本件業務上横領事件について通常逮捕を行っているものの、この逮捕は、本件強盗致死事件で甲を逮捕するには証拠が不十分な状況でなされたものであり、本件業務上横領事件も、甲の所属していたX社社長に対する供述を得られたことから、捜査を開始したといえるものの、この事件というものは被害額も3万円と少額であり、社長も世間体などから本来被害届の提出すなわち、捜査の開始を望んでいない者であったことから、本件捜査を行う必要もなかった事件であるということができる。さらに、本件業務上横領事件の証拠というものも、領収書もなく、Aから入金されたことを裏付ける帳簿類も見つからないというものであったことから、本来、逮捕起訴し有罪判決を得ることも困難な事件であったといえるほどであった。また、甲を逮捕勾留した後も、強盗致死に関する取り調べの時間が業務上横領について取り調べる時間の2倍と長時間であることから、業務上横領についてはほとんど取り調べの必要がなかったものと評価することができる。

3.したがって、本件業務上横領を理由とする逮捕勾留は本来必要のないものであることから、警察は専ら本件強盗致死事件について取り調べを行う目的で、本件業務上横領での逮捕勾留を行ったものということができる。

3.下線部①の逮捕勾留は、憲法31条に基づいて制定された刑事訴訟法205条に違反した違法なものということができる。

小問2

1.これに対して、別件について逮捕勾留の要件と必要性が備わっていれば、本件についての捜査の目的とした逮捕勾留であっても違法ではないとする見解もある。

2刑事訴訟法1991項によれば、罪を犯したと疑うに足りる相当な理由がある場合で、刑事訴訟規則143条の3に規定される逮捕の必要性が備わっている場合に、裁判官の発付した令状に基づいて通常逮捕することができるとされている。

 本件事案において、X社に対する聴取の結果、甲が横領を行ったことが発覚していることから、甲には罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があるということができる。また、甲の犯したとされる犯罪も刑法253条の業務上横領罪という重大な犯罪であることから、逮捕の必要性もあったということができる。また、Pらは裁判官の発付した令状によって逮捕しているものであるから、甲はPらによって刑事訴訟法199条に基づいて適法に通常逮捕されたということができる。

3.また、刑事訴訟法203条に基づいて勾留されるためには①適法な逮捕が存在し、②被疑者について刑事訴訟法601項柱書の罪を犯したと疑うに足りる相当な理由がある場合で、③同法601項各号のいずれかの要件を満たし、④交流を行う必要性のあったといえる場合でなければならない。

(1)本件事案において、甲は適法に逮捕されており、平成3131日時点でX社社長の被害届、事情聴取から、甲が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由が存在している。

(2)また、甲はアパートで単身生活している無職の者であることから、他人を気にせず、自由に移転、転居することのできる者であり、甲の銀行口座に30万円を有していることから、逃走資金も十分にあるということができる。そのため、甲には刑事訴訟法603号にいう逃亡すると疑うに足りる相当の事由が存在しているということができる。

(3)また甲の本件業務上横領の被疑事実については帳簿等も、十分な資料もない事件であること、専ら甲のみが業務上横領の事実について問いに話をしていないことから、甲を勾留し取り調べる必要があったということができる。

(4)したがって、下線部①における甲の勾留は刑事訴訟法203条に基づき適法なものであったということができる。

4.したがって、甲に対する下線部①の逮捕勾留は適法なものということができる。

5.また、刑事訴訟法2061項によれば、やむを得ない事情によって10日間の勾留の時間制限に従うことのできなかった場合には、10日間の勾留を行うことができるとされている。

 本件事案において、検察官Rは平成31310日に勾留延長を行っているが、このように勾留延長を行ったのは甲が平成31310日に至っても黙秘を続けていたというやむを得ない事情によるものであることから、刑事訴訟法206条に基づき効を勾留することができる。

6.したがって、下線部①の逮捕勾留及びこれに引き続く平成31320日までの身体拘束は適法ということができる。

7.しかし、この見解というものは本来身体拘束というものは謙抑的にすべきという憲法31条の趣旨を反映した刑事訴訟法205条の趣旨に反するものであることから、とりえない見解ということができる。また、勾留の必要性として取り調べの必要性を含むものであることから、憲法38条によって保障される黙秘権を危うくしかねない取り調べ受忍義務を正面から認めることになるので、憲法381項の趣旨に照らしても取りえない。

設問2

1.検察官は公訴事実1の甲にX者に対する業務上横領の訴因から、公訴事実2の甲のAに対する詐欺へ訴因変更を行うよう裁判所に請求しているが、このような訴因変更は刑事訴訟法312条に基づいて可能であるか検討する。

 刑事訴訟法3121項によれば、裁判所は公訴事実の同一性を害しない限度すなわち公訴事実についての基本的事実の同一性を害しない限度において訴因変更を行うことができるとされている。また、公判前整理手続を経ている場合には、これに加えて、新たの事実の主張を行い、刑事訴訟法316条の2以下に規定された公判前整理手続の趣旨を没却しかねないような不意打ちを当事者に与えるものであってはならないとされる。

3.本件事案において、公訴事実1から公訴事実2への訴因変更を行っているが、この訴因というものは甲がAから得た3万円に関する事実の点で共通しており、それに対する評価として業務上横領であるか詐欺であるかという違いしかないため、基本的事実についての共通性があるということができる。

 また、公判前整理手続において弁護人と検察官は本件業務上横領の公訴事実について争っておらず、弁護人からも甲の集金権限についての主張もされていないことから、検察官が訴因変更を行うと公判前整理手続において公訴事実を確定させた趣旨が没却され、弁護人にとって公判前整理手続を行った趣旨が没却されかねないような不意打ちを与えることになる。

4.したがって、裁判所は下線部②に従って訴因変更を行うことはできない。