刑法事例演習教材 事例24

収賄に関する問題です。

 

刑法事例演習教材 第2版

刑法事例演習教材 第2版

 

 

 第一.甲の罪責

1.受託収賄罪の成否

 甲は丙よりB署の事件であるFに対する名誉毀損・信用毀損事件に対応するために丙から依頼を受けて100万円を受け取っているが、この甲の行為が刑法197条1項の受託収賄罪に該当するか検討する。

(1)刑法197条1項によれば、受託収賄罪が成立するためには、公務員であること、職務関連性、一般的職務権限の範囲内にあること、賄賂を収受したこと、請託のあったことが認められなければならない。

(2)刑法7条1項によれば、国または地方公共団体の職員を指すとされる。本件事案における警察官は地方公共団体の職員であることから、公務員であるということができる。

 警察法64条によれば、警察官の職務範囲について都道府県警察の警察官は当該都道府県警察の管轄区域内において職権を行うと規定されていることから、甲は東京都のA警察署管内だけでなく、B警察署管内の職務についても一般的職務権限を有すると解される。

 本件事案において甲はB署の事件であるFに対する名誉毀損・信用毀損の事件について捜査を進行させるために賄賂として100万円の小切手を受け取っていることから、職務に関連して賄賂を受け取ったということができる。

 また、この賄賂を受け取る際丙は、B署の事件について捜査を進めるよう甲に申し向けていることから、甲は請託を受けたということができる。

(3)したがって、甲には刑法197条1項の受託収賄罪が成立する。

2.詐欺罪の成否

 甲は丙のために動く気はないにもかかわらず、捜査を行うかのような言動をし、100万円の小切手を交付させているが、このような甲の行為が刑法246条1項の詐欺罪に該当するか検討する。

(1)刑法246条1項の詐欺罪が成立するためには、人に対する財物の交付に向けた欺罔行為があり、それによる財物の交付がなければならない。

(2)欺罔行為を行ったといえるためには、財物の交付の基礎となる重要な事実について欺罔行為を行ったといえなければならないが、本件事案において、甲は、丙のための操作を行う意思がないにもかかわらず、そのような意思があるかのように装っている。この行為がなければFに対する捜査が進行すると考えた丙は100万円の小切手を交付することはなかったのであることから、財物の交付にかかわる重要な事実について欺罔行為を行ったということができる。

 また、この甲の欺罔行為により丙は100万円の小切手を交付していることから欺罔行為による財物の交付があったということができる。

(3)したがって、甲には刑法246条1項の詐欺罪が成立する。

3.受託収賄罪の成否

 甲は丙に対して、逮捕されたくなければ100万円を支払うよう要求し、100万円を受け取っているが、この甲の行為が刑法197条1項の受託収賄罪に該当するか検討する。

(1)刑法197条1項によれば、公務員が職務に関し請託を受けて賄賂を受け取ったといえなければならないとされている。

(2)甲は警察官であるため、刑法7条1項の公務員に当たるといえる。

 また、丙の贈収賄について逮捕を行う権限というものは甲にも認められ、この隊をしないようにするため、丙から100万円を受け取っていることから、職務に関連して請託を受けて賄賂を受け取ったということができる。

(3)したがって甲には刑法197条1項の収賄罪が成立する。

4.恐喝罪の成否

 甲は、丙に対して逮捕されたくなければ100万円を渡すよう申し向け丙から100万円を受け取っているが、この甲の行為が刑法249条1項の恐喝罪に該当するか検討する。

(1)刑法249条1項によれば、人に対する恐喝行為とそれによる財物の交付がなければならないとされる。

(2)恐喝とは、人を畏怖させるに足りる暴行または害悪の告知を指す。本件事案において甲は、丙を逮捕する旨申し向けていることから、人を畏怖させるに足りる害悪の告知を行ったということができる。

 この恐喝行為によって丙は100万円を甲に現金書留で交付していることから、恐喝行為に基づく財物の交付があったということができる。

(3)したがって甲には刑法249条1項の恐喝罪が成立する。

5.よって甲には、収賄罪と詐欺罪、収賄罪と恐喝罪が成立するが、この収賄罪と詐欺罪、収賄罪と恐喝罪は一個の行為によってされていることからこれらはそれぞれ刑法54条1項の観念的競合に当たるということができる。

 これらの科刑上一罪の罪は刑法45条によって併合罪となる。

第二.乙の罪責

1.乙は丙から告訴状のお礼として丙から料亭で10万円分の供応を受けているが、この行為が刑法197条1項の単純収賄罪に該当するか検討する。

(1)刑法197条1項の収賄罪が成立するためには、公務員が一般的職務権限内にある行為について職務に関連し賄賂を受け取った場合単純収賄罪が成立するとされる。

(2)乙は警察官でなくなったため公務員でないといえそうであるものの、東京都C市の教育委員会の職員として勤務していることから、公務員であるということができる。

 告訴状の受理というものは警察官の職務権限の範囲の行為であり、これに関連していることから、一般的職務権限内の行為に関するものであるということができる。

 刑法197条1項にいう賄賂とは人の欲望を満たすに足りる利益であればよいとされるため、10万円分の供応は財物ではないものの、人の欲望を満たすに足りる利益であるため、賄賂に当たるということができる。

2.したがって乙には刑法197条1項の単純収賄罪が成立する。

第三.丙の罪責

1.丙は三度にわたって賄賂を交付しているがこの丙の行為が刑法198条の贈賄罪に該当するか検討する。

(1)刑法198条によれば、贈賄罪が成立するためには、わいろを供与したものに当たるといえなければならない。

(2)本件事案において丙は甲に対して二度、乙に対して一度上記の通りわいろを供与していることから、刑法198条の贈賄罪に当たる行為を行ったということができる。

2.したがって丙には三個の贈賄罪が成立し、刑法45条により併合罪となる。

 以上