平成25年司法試験刑事訴訟法

平成25年司法試験刑事訴訟法を解いていきます。

 どこかに別の答案もあった気もしますが、最新版として上げておきます。

 

 設問1

第一.逮捕①の適法性

1.刑事訴訟法213条によれば、現行犯人であれば、逮捕状なくして逮捕することができるとされている。現行犯人といえるためには、刑事訴訟法212条1項の現行犯人に当たるか、刑事訴訟法212条2項の準現行犯人に当たるといえなければならない。なぜなら、無令状でよいとされているのは現行犯人であるならば犯人性に間違いはないと考えられているからである。

(1)刑事訴訟法212条1項の現行犯人と認められるためには、明白性、時間的場所的密接、逮捕の必要性が認められなければならない。また、現行犯人に当たるか否かは個々の犯人ごとに判断される。

(2)本件事案において甲が逮捕されたのは、H公園から800メートル離れた路上であり、離また、20分後のことであるため、時間的にも犯罪発生から時間的場所的にも密接しているということができ、甲の特徴はWからの通報で聞いた人物の特徴と一致するうえ、着衣に血がついていることから、甲はVの殺害にかかわった犯人であることが明白に分かるということができ、明白性が認められる。

 さらに、刑事訴訟法143条の3によれば、被疑者が逃亡するおそれがなく、罪障を隠滅するおそれがない場合には逮捕の必要性は認められないとされているが、甲の被疑事実はVに対する殺人に関するものであるため、甲は重大な犯罪を逃れるため、証拠隠滅を図る可能性があり、着衣の血なども洗い流すなどすることにより隠滅が容易であるため、証拠隠滅の容易性もあるということができる。そのため、逮捕の必要性もある。

 したがって、甲を刑事訴訟法212条1項の現行犯人と認めることができ、刑事訴訟法213条に基づき無令状で逮捕することができる。

2.よって無令状で行われた逮捕①は適法ということができる。

第二.逮捕②の適法性

1.刑事訴訟法213条に基づき無令状で逮捕するためには、刑事訴訟法212条1項又は2項の現行犯人と認められなければならない。

(1)刑事訴訟法212条1項の現行犯人と認められるためには、現に罪を行いまたは罪を行い終わったものであることが要求されている。このようなものを要求するのは現行犯人と認められ、無令状で逮捕することができるのは、犯人性に誤りが生じるおそれが小さいためである。

 現行犯人として適法に逮捕できるか否かは明白性、時間的場所的近接性、逮捕の必要性によって判断される。

 本件事案における乙は、Wの通報内容にあった犯人の特徴と一致するうえ、血もついておらず、罪を犯したと認めるべき客観的証拠がない。確かに、乙はVを殺害したと自供しているものの、現行犯逮捕として無令状で逮捕することができるとされたのは、犯人性に誤りがないためであるから、明白か否かは客観的に判断されなければならないため、単にそのような被逮捕者からの供述があるだけでは足りない。

 したがって刑事訴訟法212条1項の現行犯人と認めることはできない。

(2)刑事訴訟法212条2項によって準現行犯人と認められるためには、明白性に代えて刑事訴訟法212条2項各号のいずれかに該当していることと、時間的場所的近接性があり、逮捕の必要性が認められなければならない。

 本件事案における乙の身体には血などが付着していないことから2項各号の事情はないということができる。そのため、準現行犯とも認められない。

 確かに、乙が甲との共同正犯者であり、甲の身体には血痕が付着しており、乙が甲の近くにいることから刑事訴訟法212条2項3号の身体を共犯者の身体にまで拡張して認められれば良いと解し、甲の身体に血液が付着していることから刑事訴訟法212条2項3号に当たると解するとの主張もあるが、この解釈は、刑事訴訟法212条2項各号の定めが刑事訴訟法212条1項の明白性に代えて規定されたものであるということを無視し、客観的に明白性を欠く者に対しても逮捕を認めるものであるため、この見解は採用しない。

 したがって刑事訴訟法212条2項の現行犯人とも認めることができない。

2.よって乙に対する逮捕②は刑事訴訟法212条に基づかない違法な現行犯逮捕であるということができる。

第三.差押えの適法性

1.刑事訴訟法220条1項2号によれば、逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときであり逮捕の現場において行われる場合には、捜索差押えを行うことができるとされている。また、逮捕の際の必要な処分として被疑者の名誉を害し、その場で捜索差し押さえをすることが適切でない場合、最寄りの交番に同行させることができ、これによって捜索差し押さえを行った場合にも刑事訴訟法220条1項2号に基づく適法な捜索差押になるとされている。なぜなら、この場合でも、被疑者の身体という場所は逮捕の現場として同一性を残しているからである。

(1)本件事案において先述の通り甲は適法に逮捕されている。

 また、甲を300メートル離れた交番に連れて行こうとしたのは、学生の集団が通りかかり甲らを取り囲んでいるためである。なぜならこのような場合、甲は好奇の目で見られ、名誉を害することになることからである。また、一台の自動車が同署を通行できなくなっていることから、交通の安全を確保するため、どく必要があり甲らを移動させる必要性が発生しているためである。そのため、Pは必要な処分として最寄りのI交番までの任意同行を開始したということができる。

 その過程で甲はポケットの中の携帯電話を落とし、ているため、刑事訴訟法220条1項2号に基づく必要な処分として携帯電話の差し押さえを行うことができる。被疑者の身体の物を落とした場合で、落としたことが明らかな場合、落とした先でも逮捕の現場と同一の身体であることは認められるからである。

(2)したがって、刑事訴訟法220条1項2号に基づき携帯電話を差し押さえることができる。

2.よってPによる差押えは刑事訴訟法220条1項2号に基づく適法なものであるということができる。

設問2

1.実況検分調書の証拠能力

(1)刑事訴訟法320条1項によれば、公判廷外での原供述の内容の真実性を証拠とする証拠は刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠として証拠能力が否定される。

 本件実況見分調書は司法警察員Pの作成したものであり、公判廷外のPの供述内容を証拠とする書面であるということができる。

 したがって刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠に当たる。

(2)刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠に当たる場合であっても、刑事訴訟法321条3項の検証の結果を記載したものに当たれば、その内容の真正を証明することにより伝聞例外として証拠能力が認められる。この検証として実況見分が含まれるとされている。なぜなら刑事訴訟法321条3項が検証の結果を記載した書面に伝聞例外を認めたのは事実の内容を客観的に記載した書類であれば誤りが入り込む余地が小さいと考えたからである。そのため、調査結果を記載した実況見分調書についても検証と同様に誤りが入り込む余地が小さく、刑事訴訟法321条3項によって証拠能力が認められる。

 本件事案において、Pの作成した実況見分調書は実況見分の内容を記載した書面であることから刑事訴訟法321条3項の検証の結果を記載した書面として証拠能力が認められる。

(3)したがって、実況見分調書全体は真正に作成されたことを証明することによって証拠能力が認められる。

2.別紙1の内容が伝聞証拠となるか検討する。

(1)伝聞証拠に当たるといえるためには、公判廷外の原供述の内容を証拠とする証拠に当たるといえなければならない。

 本件実況見分調書の写真というものは、Wの犯行再現状況であり、この写真から犯行が行われた事実を証明しようとしているのであるから、Wの供述内容を証拠とするものであるといえる。したがって、刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠に当たるといえる。

 また、別紙1の供述部分についても、Wの供述から犯行があったこと自体を証明しようとしているのであるから、Wの原供述の内容を証拠とする証拠に当たるということができる。

 したがって別紙1は伝聞証拠に当たるということができる。

(2)刑事訴訟法321条1項3号の状況がなければ伝聞例外とは認められないものの、Wの署名はない。

(3)したがって、別紙1の証拠能力は刑事訴訟法320条1項により認められない。

3.別紙2の内容が伝聞証拠となるか検討する。

(1)伝聞証拠に当たるといえるためには公判廷外の原供述の内容を証拠とする証拠に当たらなければならないとされている。

 別紙2の写真は司法警察員が犯行状況を目撃することができるか確認するために撮影したものであるため、写真の内容自体を証拠とする証拠ではない。そのため、写真は伝聞証拠に当たらないということができる。

 また、別紙2の供述部分については、この記載からWが目撃することができたかを証明しているのであるから、Wの原供述の内容を証拠とする証拠にはなっていない。

(2)したがって伝聞証拠に当たらず証拠能力が認められる。

以上