平成25年司法試験 刑法

平成25年司法試験刑法を解いていきます。

 

 

 第一乙の罪責

1.監禁罪の成否

 本件事案において乙は、Aをトランクに閉じ込めているが、このような乙の行為が刑法220条の監禁罪に当たるか検討する。

(1)監禁罪に当たるということができるためには、人を一定の空間から脱出不能にさせたということができなければならない。

(2)本件事案において乙は、Aをトランクという一定の空間に閉じ込めることによりAのトランクからの脱出を困難にさせていることから、乙はAを監禁したということができる。

(3)したがって、乙に監禁罪が成立する。

2.殺人罪の成否

 本件事案において乙は、Aの口をふさぎ、自動車のトランクの中に閉じ込め悪路を走行することにより車酔いを起こさせ、吐しゃ物により窒息死させている。この乙の行為が刑法199条の殺人罪に該当するか検討する。

(1)刑法199条の殺人罪が成立するためには、人を殺したといえなければならない。殺人の実行に着手したということができるためには、刑法43条本文によれば殺人の実行に着手したといえなければならない。殺人の実行に着手したといえるためには、人の死亡する客観的危険のある行為をしたといえなければならず、その行為が犯罪の実現のために必要不可欠であり、時間的場所的にも近接しており、特段の障害もないことが認められることが考慮される。

 本件事案において、乙はAの口をふさぎ、悪路を通って、本件採石場に向かい、採石場で自動車を燃やしてAを殺害するとの計画のもと行動しているが、Aは採石場に到着する前に死亡していることから乙がAの口をふさいだ時点で殺人の実行の着手が認められるかが問題となる。

 Aの口をふさぎということは、本件採石場にAを連行し、殺害するという観点から必要不可欠な行為ではないものの、本件採石場は乙がトランク内のAに気づいた地点から20キロメートル離れており、時間も1時間かかることから、時間的場所的にも近接しているということができる。口をふさげば、Aが助けを求めることも困難になることから、乙がAの口をふさいだ時点で特段の障害が発生することはなくなっていたということができる。さらに、口をふさぐという行為は、吐しゃ物を体内に残す危険のある行為であり、悪路を走行するという行為は、人を車酔いさせ嘔吐させる危険のある行為であるということができる。そのため、Aの口をふさぎ悪路を走行した行為は吐しゃ物によりAを死亡させる危険のある行為であるということができるため、Aの口をふさぎ、悪路を走行し始めた時点で乙は殺人の実行に着手したということができる。

(2)殺人罪が成立するためには、殺人の実行行為との間に因果関係がなければならない。因果関係があるか否かは、殺人行為の危険性が結果の発生に実現したかによって判断される。

 本件事案において、乙は、Aの口をふさぎ悪路を走行させていることから、吐しゃ物によりAを窒息死させる危険を発生させたということができる。それによって、Aは窒息死していることから、乙の実行行為の危険性がAの死亡結果に現実化したということができる。

 したがって、因果関係が認められる。

(3)刑法38条1項本文によれば、罪を犯す意思がない行為は罰しないとされており、罪を犯す意思とは違法な構成要件事実の認識を指すとされている。そのため、因果関係の認識についても必要であるものの、具体的因果の流れを認識している必要はなく、因果関係が存在するという事実の認識さえあればよいとされる。

 本件事案において、乙は、Aを悪路を走行させたことによって死亡させているが、乙は、Aが自動車ごと燃やされたことによって死亡したと認識している。そのため、乙としては、自己の放火行為によって死亡したことを認識しているため、自己の行為とAの死亡との間に因果関係があるとの事実を認識しているということができる。

 したがって、乙は罪となるべき事実を認識していないということはできない。

(4)よって乙には刑法199条の殺人罪が成立する。

3.建造物等以外放火罪

 乙は、B車に10リットルのガソリンをまき、丸めた新聞紙にライターで火をつけB車の方に投げ、B車を燃やしているが、このような乙の行為が刑法110条1項の建造物等以外放火の罪に当たるか検討する。

(1)刑法110条1項によれば、放火して建造物等以外を焼損させ、公共の危険を発生させた場合に建造物等以外放火の罪が成立するとされている。

 放火したということが言えるためには、点火したということがいえなければならない。本件事案において、乙はB車にガソリンをまき、新聞紙に火をつけ、B車に向けて投げていることから、放火したということができる。

 焼損したということができるためには、火が媒介物を離れ独立して燃焼を開始したということがいえなければならない。本件事案において、B車にはなった火は、ガソリンに引火しB車全体を炎で包ませていることから、日が媒介物を離れ独立して燃焼を開始するに至ったということができる。

 刑法110条1項にいう公共の危険とは、不特定又は多数人に対する生命または財産上の損害の危険のことを指す。

 本件事案において、乙は10リットルのガソリンをまいた自動車に炎を放っていることから、火が燃え上がり、ガソリンタンク等に引火することにより、爆発的に燃え上がり周囲に危険を発生させる可能性があるといえる。確かに、本件駐車場には砂利が敷かれており地面から燃え上がる危険はなく、燃え上がった炎の高さも5メートルほどしかないのに対して、隣の車両とは5メートル離れているため炎はほとんど届かないうえに、放火したのちに南東方向の風に変わったことから、火が燃え移り、公共の危険を発生させる恐れがなくなったといえそうであるものの、火を放った時点では北西方向に風が吹き、C車に向かって炎が流れる危険が発生しており、更にC車の荷台にはベニヤ板が三枚積まれていたことから、C車に燃え移り、ベニヤ板に火が付き、D車、E車に燃え移る可能性もあったということが言える。さらに、C車の側面をすすけさせていることから、乙のはなった炎はC車に届いたということができるため、C車に燃え移る可能性は非常に高かったということができる。そのため、C車、D車、E車に燃え広がり多数の財産に損害を与える危険を発生させたということができるため、公共の危険を発生させたということができる。

(2)したがって、乙には後述する通り甲との共同正犯による建造物等以外放火の罪が成立する。

4.よって、乙には監禁罪、殺人罪、建造物等以外放火の罪が成立し、刑法45条により併合罪となる。

第二.甲の罪責

1.監禁罪の成否

 甲はAをトランクに閉じ込めることによりAの脱出を困難にさせているが、このような甲の行為が刑法220条の監禁罪に当たるか検討する。

(1)刑法220条の監禁罪が成立するためには、一定の空間に人を閉じ込め脱出不能にさせたということが言えなければならない。本件事案において、甲は睡眠薬を飲ませたうえで、トランクに閉じ込めていることから、脱出を困難にさせたということができる。

(2)したがって、甲には刑法220条の監禁罪が成立する。

2.殺人未遂罪の成否

 甲は、Aに睡眠薬を飲ませていることから刑法43条本文により刑法203条199条の殺人未遂罪が成立するか否か検討する。

(1)刑法43条本文によれば、未遂犯が成立するためには、犯罪の実行に着手してこれを遂げなかったといえなければならない。犯罪の実行に着手したか否かは客観的危険の有無によって判断される。

 本件事案において、甲はAをB車もろとも燃やすことによりAを殺害しようとしておりそのために睡眠薬を飲ませているが睡眠薬を飲ませる行為はこの計画を実行するうえで必要不可欠なものであり、Aを殺害する場所も2時間ほど自動車で走らせた場所にあることから時間的場所的近接性も認められる。さらに、Aを眠らせてしまえば計画を実行できることから特段の障害もなくなるということができる。したがって、睡眠薬を飲ませる行為にAを死亡させる客観的危険があったということができる。

 しかし、Aはこの計画通りに死亡していないことから犯罪の結果は実現していない。したがって犯罪を遂げなかったということができる。

(2)よって、甲には殺人未遂罪が成立する。

3.建造物等以外放火の罪の成否

 甲は乙にB車を本件駐車場で燃やすよう指示し、実行させているが、このような甲の行為が刑法60条の共同正犯による刑法110条1項の建造物等以外放火の罪の共同正犯に当たるか検討する。

(1)刑法60条によれば共同正犯であるといえるためには、犯罪を共同して実行したといえなければならないとされている。共謀によって共同して実行したということが言えるためには、複数人で謀議をなし、その計画に従って各人の犯罪を実行したということが言えなければならない。本件事案において、甲は乙放火を具体的に指示し、乙に放火を実行させていることから、甲と乙は建造物等以外放火の罪についての謀議をなしその謀議にしたがって犯罪を実行したということができる。

 したがって、甲と乙は共同正犯としての罪を負う。

(2)先述の通り、建造物等以外放火の罪は成立している。しかし、B車は甲の自己所有の車であるため、刑法110条2項の建造物等以外放火の罪が成立する。

(3)甲には公共の危険の認識がないため、刑法38条1項によって故意が阻却されるかが問題となる。

 放火の罪について公共の危険の認識は不要とされていることから、甲が公共の危険について認識していなくとも、罪となるべき事実についての認識を欠くことはなく、刑法38条1項によって故意が阻却されることはない。

(4)よって、甲には乙との共同正犯による刑法110条2項の建造物等以外放火罪が成立する。

4.殺人罪の成否

 甲は事情を知らない乙にB車を放火させる過程において、Aを死亡させているが、甲に間接正犯によるAに対する殺人罪が成立するか検討する。

 間接正犯が成立するためには間に入った責任なきものを道具として扱ったということがいえなければならない。しかし、本件事案において、乙は、実行の途中で、Aを認識しているため、責任なきものということはできない。したがって、間接正犯は成立するとは言えない。

 しかし、乙に対する指示は刑法61条1項の教唆ということが言えるため、甲には殺人罪の教唆犯が成立する。

5.罪数

 よって、甲には監禁罪と殺人未遂罪、殺人教唆、建造物等以外放火の罪が成立し、刑法45条により併合罪となる。

 以上