平成24年司法試験行政法

平成24年司法試験行政法を解いていきます。

 

 

 設問1

1.行政事件訴訟法3条1項によれば、抗告訴訟の対象となるためには、行政庁の公権力の行使に関するものでなければならない。公権力の行使によるものであるといえるためには、法律に基づき、私人の権利義務又は法律上の地位を一方的に直接変更させるものであるといえなければならない。

 本件都市計画決定は、都市計画法13条に基づいて制定され、都市計画法20条1項によって決定されるものである。そのため、内部的な決定にとどまり、私人に対してなされるものではない。

 確かに、都市計画決定がされ、都市計画法54条によれば、都市計画決定がされ、都市計画事業認可がされた場合で、都市計画法53条の許可を与えた場合にのみ建築が許可されることから、都市計画決定がされたのみである場合には、建築制限がかけられるということが考えられるため、法効果があるといえそうである。しかし、都市計画決定の直接の法効果は建築制限ではなく、都市計画事業認可が期待されるということに過ぎない。さらに建築制限も都市計画決定による法効果ではなく、最初から規制されているに過ぎない。そのため、私人に対する直接の法効果もないということができる。

 したがって、都市計画法20条によってなされた本件計画決定に処分性は認められず、行政事件訴訟法3条1項にいう公権力の行使に当たるということはできない。

2.したがって、本件計画決定は抗告訴訟の対象となる処分に当たらない。

設問2

1.Q県は本件計画道路の区間又は幅員を縮小する変更を都市計画法21条に基づき行っていないため、この都市計画の存続が、都市計画法21条に反して違法であるか検討する。

 都市計画法21条によれば、都市計画法6条1項2項に基づいて行われる調査の結果又は都市計画法13条1項19号に規定される調査の結果都市計画の変更を行う必要が明らかとなった場合に都市計画の変更を行うことができるとされている。

 この都市計画の変更は、都市計画法21条の規定の通り必要な場合に行われるものであり、さらに都市計画という政策的な判断に基づいて行われるものであることから、行政庁に判断させることが適切であり、行政庁に要件裁量が認められる。

 そのため、Q県の判断が違法であるというためには、基礎となる事実について重大な誤認があり又は、考慮すべき事項を考慮せず若しくは考慮すべきでないものを不当に重視した場合であり、行政庁に認められる裁量権の範囲を逸脱し社会通念上相当とされない判断を行ったといえなければならない。

(1)本件事案において、Q県は1970年から5年ごとの調査を行っているものの、2030年には2010年比で40パーセントの交通需要の増加が見込まれると判断しているものの、都市計画法6条1項に基づく基礎調査によれば、1990年から2010年までの20年間に約20パーセントの交通需要の減少が発生しており、さらに、空洞化現象もみられることから、2030年に交通需要が40パーセント増加することは不可能であると考えられる。そのため、Qは基礎となる事実について誤認があるといえるそのため、本件計画決定は違法である。

 これに対して、Q県側は本件計画を進行させれば、本件区画に交通需要が戻るため、Q県側の推計に誤りはないと主張し、Qは基礎となる事実について重要な誤認を行っているとは言えないと反論する。さらに、Qとしては、道路密度が現状において1キロ平方メートル当たり4キロメートルを下回っているため、基準道路密度に違反するため、事実認定に誤りはなく不合理でもないため本件計画決定は適法であると主張する。

(2)そのため、Qの判断に著しい誤認はなく、Qに認められる裁量権の範囲を逸脱したということもできないため、Qが都市計画を変更せず、本件計画を存続させたことは適法であるということができる。

2.したがって、本件計画を存続させたQの判断は適法であるということができる。

設問3

1.PはQに対して損失補償を求めることが考えられるため、PのQに対しする損失補償請求が認められるか検討する。

 都市計画法都市計画決定による建築制限による損失について損失補償を行うよう定めた規定はない。そのため、憲法29条3項に基づいて損失補償を行うことができるか検討することになる。

 損失補償請求を行うことができるためには、行政庁の適法な行為によって、特別の損害を被ったといえなければならない。

 本件事案において、Pは都市計画法54条の反対解釈により都市計画決定がされた後都市計画事業認定がされるまで都市計画施設区域に建築物の設置ができなくなることから、マンション建築のための建設費用が無駄となり損失が発生するとしているが、都市計画法54条による建築制限は財産権の行使に内在する一般的な規制である。また、確かに、40年以上都市計画を変更せず、本件建物を老朽化させ、取り壊しを余儀なくさせるとともに、マンションの建築も禁止することにより、特別の損害を与えたとPから主張されるかもしれないが、これは、Pに対して個別に損害を与えることを意図していたものでないことから、本件都市計画決定の塩漬けが特別の損害を与えた事情になるということは言えない。

 よって、Pは特別の犠牲により損失を被ったということはできない。

2.したがって、PのQに対する損失補償は認められない。

 

以上