平成24年司法試験民法

 

平成24年司法試験民法を解いていきます。

 

 

 設問1

小問(1)

1.Fは自己に甲土地の所有権があることを主張しようとしているが、この主張が認められるか検討する。

(1)売買契約を理由として土地所有権を主張するためには、売買契約成立の事実と権利自白の成立した所有権者からの承継の事実を主張しなければならない。

 本件事案において、AとBは1990年11月15日に甲土地売買契約を締約していることから、売買契約がされたということができる。

 また、甲土地はCの所有していた土地であり、この点についてEの主張と合致しているため、Cの元所有について権利自白が成立しているといえる。

 相続による所有権取得を主張するためには、民法882条による人の死亡の事実と、民法886条以下の相続人に該当することを主張しなければならない。

 本件事案において、Cは1985年4月に死亡し、Cの相続人であるDは1988年7月に死亡している。民法887条1項によれば、Dの相続人は唯一の相続人であるDの子Bである。そのため、Bは甲土地の所有権者であるということができる。

 そのため、甲土地所有権はBからAに移転したということができる。

(2)買主の地位を相続したというためには、民法882条の人の死亡の事実と、民法886条以下の相続人に当たることを主張しなければならない。

 本件事案において、Aは2003年に死亡しており、Aの相続人は唯一の子Fであるため、民法887条1項により相続人の地位にあるということができる。

 そのため、FはAの売主の地位を相続しており、Fが甲土地の所有権を取得したと主張することができる。

(3)しかし、これに対して、Eは自己もCの相続人であるため、Eも甲土地の所有権の2分の1の持ち分権を有していると主張する。

2.そのため、Fの主張は甲土地所有権2分の1の範囲でしか認められないといえ、Fの主張は完全には認められない。

小問(2)

 民法162条1項によれば、20年間の占有を理由とする時効取得を認めるためには、占有の開始の事実と占有開始から20年後の占有の事実、民法145条による時効の援用の事実を主張しなければならない。なぜなら、民法162条の主張のうち、民法186条1項によれば、占有者の占有について所有の意思と善意、平穏、無過失は推定されるためである。

 本件事案において、Fの父親であるAは1990年11月20日に甲土地を柵で囲み看板を立てることにより占有を開始し、その20年後である2010年時点においても占有していたことが認められる。そのため、占有の開始の事実と占有開始から20年後の占有の事実は認められる。また、口頭弁論期日においてFは事項の遠洋を行っていると考えられることから、民法145条の時効の援用もあったということができる。

 これに対する反論として、Eは民法186条1項に基づき自主占有でないことを主張することが考えられる。下線部は、このEの抗弁に対する否認として、売買契約に基づく自首占有であることを主張するために用いられるものであるということができる。

 したがって、下線部の事実は、抗弁に対する否認として用いられる。

設問2

1.GはHに対して寄託契約を理由として、和風だし1000箱の引き渡しを求めているが、この主張が認められるか検討する。

 民法657条1項の寄託契約が成立し、寄託物の引き渡しを求めるためには、寄託契約の成立の事実が主張されなければならない。

 本件事案において、GとHとの間に和風だし1000箱の寄託契約が成立していることから、GはHに対して和風だしの引き渡しを求めることができる。

 しかし、寄託契約書3条1項によれば、この寄託契約の性質はFとの混合寄託であるとされていることから、民法665条の2第1項の混合寄託契約に当たる。民法665条の2第3項によれば、混合寄託の場合で寄託物の一部のものが滅失した場合、寄託した物の割合に応じた寄託物の返還ができるとされている。

 本件事案において、Hの倉庫内にEの和風だし1000箱と共に保管されたGの1000箱の和風だしは、盗難により1000箱滅失している。そのため、民法665条の2第3項の寄託物の一部滅失が発生したということができる。

 そのため、Gの返還請求の範囲は民法665条の2第3項により、500箱の範囲に限定される。

2.よって、GはHに対して寄託契約に基づいて500箱の返還を請求することができる。

設問3

1.FはHに対し民法415条1項に基づき債務不履行に基づく損害賠償請求を行っているため、この請求が認められるか検討する。

(1)民法415条1項による債務不履行に基づく損害賠償請求が認められるためには、契約の成立の事実と不履行の事実、因果関係と損害発生の事実の主張がなければならないとされる。

 本件事案において、FはHとの間で山菜おこわに対する民法659条の無償寄託を行ったということができる。

 そのため、民法659条により、自己に対するものと同一の注意義務を負うとされているが、Hは丙建物に山菜おこわを保管するにあたって、施錠を忘れており、この施錠忘れが原因となって盗難が発生したということができる。したがって、Hは自己のものに対するものと同一の注意義務を果たしていなかったということができる。

 これによって、Fは山菜おこわの価格の分の損害を被るとともにFQ間の売買契約が解除されたことについての損害が発生しているということができる。

 しかし、民法416条1項によれば、損害賠償請求の範囲は通常の損害である場合その範囲の損害について賠償することができ、同条2項によれば、特別の損害である場合、当事者がその損害を予見できた場合にその損害についての賠償を求めることができるとされている。

 本件事案において、Fが山菜おこわの寄託をHに行わせた当時山菜おこわはFの料亭の顧客の土産物として利用しようとしていたことが認められるから、百貨店で山菜おこわが売れなくなるということは通常の損害であるということはできない。また、特別の事情によって発生した損害であってもその事情について契約時に当事者が特別の事情について予見できたといえなければならず、FH間の寄託契約の当時FQ間の売買契約は影も形もなかったということができる。確かに、FはHに対して山菜おこわがQ百貨店で取り扱われるようになったという連絡を入れているものの、これは、契約締約後の事情であるため、この事情に左右されない。

 したがって、損害賠償を求めることのできる範囲は山菜おこわの滅失分に限られ、Q百貨店での販売機会の消滅による損害は含まれないということができる。

2.したがって、FはHに対して、山菜おこわの滅失分について民法415条1項の債務不履行に基づく損害賠償請求として主張することができる。

 以上