司法試験平成23年行政法

司法試験平成23年行政法を解いていく。

 

 

 設問1

1.行政事件訴訟法9条1項によれば、原告適格が認められるためには、法律上保護された利益を有していることが認められなければならない。また、法律上保護された利益があるか否かの判断に当たっては、行政事件訴訟法9条2項に規定されるような法令について注意を払わなければならないとされる。また、法律上保護された利益については、法令上公益を保護するにとどめず、個人の具体的権利利益についても保護していると解される場合についてはその法益についても保護されているとされる。

 本件事案においてX1,X2は法5条1項に基づく本件許可の取り消しを求めているため、検討する。

(1)まず、X1は場外発売場の営業によってS法科大学院の事業が妨げられるため原告適格があると主張することが考えられる。

 法5条1項によれば許可処分を行うためには、モーターボート競走法施行規則(以下「規則」という)11条の申請を行い、その申請が法5条2項に規定する要件に合致しなければならないとされる。また、法5条2項の要件を満たすか否か判断する際、規則12条1項各号に規定される事情が考慮されるとされている。

 規則12条1項1号によれば、場外発売上の位置は文教上の支障を来す恐れのないこととされており、この文教上の支障を来す恐れのない位置であることを要求したのは学校施設の業務を保護するためであると解される。また、規則11条2項1号によれば、場外発売場の周囲1000メートルの範囲の見取り図を申請の際に要求していることから、この周囲1000メートルの範囲内にある文教施設の業務を保護していると解される。

  本件事案におけるX1は場外発売場の予定地であるQ地点から400メートル先でS法科大学院を運営している学校法人であるため、このX1の業務は保護される範囲内にあるということができる。

 したがって、X1は法律上保護された利益を有しているということができるため行政事件訴訟法9条1項により原告適格が認められる。

(2)次にX2は場外発売場の営業によって生活利益が侵害されるため法律上の利益を有すると主張することが考えらえる。

 法5条1項によれば、許可処分を行うためには申請を必要としており、設置許可を受けるためには法5条2項の要件を満たさなければならないとされる。法5条2項の裁量基準である規則12条には周辺住民の生活などに配慮するよう定めた規定はない。そのため、周辺住民の生活利益は法律上保護された利益に当たらないということができる。

 したがって、X2の生活利益の侵害は法律上保護された利益といえないため行政事件訴訟法9条1項の原告適格は認められない。

2.したがって、X1は原告適格を有するものの、X2は原告適格を有しない。

設問2

小問(1)

1.Aに対する取消措置を受ける恐れを除去するため、行政事件訴訟法37条の4に基づく差し止め訴訟を提起することが考えられるため検討する。

 行政事件訴訟法37条の4に基づく差し止め訴訟を提起するためには、①なされる作用に処分性が認められ、②その処分に対する原告適格が認められ、③処分のなされる蓋然性があり、④重大な損害を生じる恐れがあるということが言えなければならない。

 

 しかし、このうち重大な損害が生じるおそれとは、のちに取消訴訟を提起することによっても回復困難な損害が生じる恐れのあることを指す。 本件事案において法59条に基づく取消措置がなされた場合、確かに場外発売場の営業の開始が遅れるものの、法59条に基づく取消措置の取り消しを求めて取消訴訟を提起することによっても営業の開始は可能であることから、重大な損害が生じる恐れはないということができることになる。

 また、要求措置を繰り返し出しているという状態にあるため、処分を行う蓋然性もないと主張される可能性もある。

2.また、AはAに対する要求措置に従う義務のないことの確認を求める訴えを行政事件訴訟法4条に基づいて提起することも考えられる。

  確認訴訟を提起するためには確認訴訟を求める訴えの利益がなければならず、その事実を確認することにより紛争を直接解決することができるといえなければならない。

 この場合、要求措置が現に取られていることからこの要求措置に従う義務のないことを確認する必要があり、この事実を確認することによって、この要求措置の違法性を確認するとともに、のちの取消措置についても違法性を主張することができるようになることから、紛争を直接解決することができるということが言える。

 そのため、AはAに対する要求措置に従う義務のないことの確認を求める訴えを提起することができるといえる。

3.そのため、確認訴訟による方が適法とされる余地が大きく、取消措置を受けないというAの希望にかなった実効性の高いものとなっているといえる。

小問(2)

1.国土交通大臣はAが要求措置に従う意思のないことを表明したため、この要求措置が法59条の取り消し事由に当たるとして法59条に基づいて取消措置命令を発しているが、この国土交通大臣の取消措置が適法であるといえるか検討する。

 法59条によれば、国土交通大臣は前条2項の規定による命令に違反した場合に取り消すことができるとされており、法58条2項によれば、命令に違反した場合や、命令若しくはこれらに基づく処分に違反した場合でなければならないとされており、通達に違反した場合については規定されていない。また、通達というものは行政庁の発する法的強制力のない通知であり、通達それ自体に違反しても法律違反とはならない。そのため、法58条2項は通達を含まないものとして文言解釈されるべきである。

 本件事案において、国土交通大臣は通達違反を理由とする要求措置違反を理由として取消措置を発しているが、これは、法59条の解釈を誤り違法な行政処分をした場合に当たるということができる。

2.したがって、国土交通大臣がAに対して行った取消措置は違法であるということができる。

設問3

1.憲法94条により自主条例を制定することができるとされているものの、法律の規定と矛盾抵触してはならないとされる。

 本件事案において、T市は①と②の条例を制定しようとしているため、検討する。

(1)条例①はT市の区域に勝舟投票券の場外発売場を設置しようとする事業者はT市長の許可を受けなければならないと規定するものである。この規定は場外発売場の適切な設置を求めるという法と目的を同じくしており同じ規定を条例上設けるというものであることから、法律の規定と矛盾抵触しているということができる。

(2)条例②は場外発売場の施設が周辺環境と調和する場合にその設置を許可するというものである。これは、T市の環境や景観を保護するものであると解されることから、法律とは異なった目的で場外発売場に対する規制を行うものであると解されることから、法律の規定と矛盾しないということができる。

(3)したがって、条例①は憲法94条違反となり適法に制定できない可能性があるが、条例②は憲法94条に違反せず、適法に制定できる可能性がある。

2.ほかの対策として、場外発売場を設置する基準として周辺住民の同意が得られたことを要求する規定を設けることが考えられる。この場合住民の利害を調整しつつ、実効性をもって事業者を規制することができるようになる。

以上