平成23年司法試験民法

平成23年司法試験民法を解いていきます

 

 

 設問1

小問(1)

1.CはBに対して民法703条の不当利得返還請求として、請負代金に相当する利益を得ているとして2500万円の支払いを求めているため検討する。

 民法703条の不当利得返還請求を行うためには、①他人に損失を及ぼしたことと、②利益を受けたこと、③法律上の原因のないことと、④因果関係が認められなければならない。

 本件事案において、Cは内装工事の残代金が未払いとなったまま、Aが倒産したことによって残代金が回収できなくなり2500万円の損失を被っているということができる。

 また、Bは内装工事の済んだ甲建物をFに1億6000万円で売却することによって、元の甲建物の売値が1億円であったのに対して6000万円の利益を余計に受けている。

 この価格の上昇は、内装やエレベーターの工事がCらによってなされたことによるのであるが、この工事に関する契約はBが行ったものでないため、Bが利益を受けたのは法律上の原因に基づかないものであるということができる。

 民法703条の因果関係が認められるためには、契約を全体としてみて利益を受けたといえなければならないが、CがAとの間で請負契約を締約し甲建物を引き渡したことによって、AだけでなくBも利益を受けたため因果関係もあるということができる。

 したがって、CはBに対して民法703条に基づく不当利得返還請求として2500万円の支払いを求めることができるといえそうである。

2.しかし、本件事案において、契約を全体としてみた場合、CからAに甲建物が引き渡され、AからBに甲建物が引き渡されたとの事情はないため、因果関係がないということができる。

 そのため、CはBに対して2500万円の不当利得返還請求をすることができない。

小問(2)

 1.次にCはFに対して民法422条に基づく債権者代位の行使としてAF間の敷金返還請求権を行使し、自己への支払いを求めているがこれが認められるか検討する。

 民法423条1項に基づき債権者代位権を行使するためには、債権を有していることと、第三債務者に対する債権が存在していることと、保全の必要性がなければならない。

 本件事案においてCはAに対して請負代金の残額2500万円の支払い請求権を有している。

 また、民法622条の2第1項によれば、敷金の趣旨で金銭が賃借人から賃貸人に差し入れられた場合で、賃貸借契約が終了した場合敷金の返還を請求することができる。また、民法605条の2第1項による賃貸人の地位の移転が発生した場合、不動産の譲渡人と譲受人との間で敷金についての合意をすることができるとされる。本件事案において、AはBとの間で賃貸借契約を締約するにあたり敷金を差し入れており、BはFに甲建物を譲渡するにあたり、敷金返還債務の譲渡を行っていることから、Fが敷金返還債務を承継したということができる。また、AF間の賃貸借契約は解除されていることから、賃貸借契約は終了したということができる。

 さらに、Aは無資力となったことから民法423条1項の保全の必要性が発生したということができる。

 したがって、CはAのFに対する敷金返還請求権を代位行使し、2500万円の支払いを受けることができる。

2.これに対して、Fは敷金のうち、1200万円はAのBに対する賃料債務の未履行のため、当然充当されたことを反論として主張することが考えられる。これによって、AのFに対する債権は1300万円まで減額されている。

3.したがって、CはFに対して1300万円の限度で敷金返還請求権を行使することができる。

設問2

1.GはFに対して債務不履行を理由としてGF間の本件債券売買契約を解除し、債務不履行に基づく損害賠償請求を行うことを民法542条1項1号に基づいて請求することが考えられる。

 民法542条1項1号によれば、債務の全部の履行が不能である場合に催告によることなく契約を解除することができるとされている。

 本件事案において、FはGとの間で将来債権であるFがAに対して有する平成23年1月分から12月分の債権を回収することをAF間の賃貸借契約を解除することによって不能としていることから、FはGに対して債権を移転する義務を有しているにもかかわらず、債権の移転義務を果たしていないということができる。

2.したがって、民法542条1項1号に基づいてGはFに対して契約の解除を主張することができる。

 設問3

小問(1)

1.まず、HはDに対して民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求を行うことが考えられる。

 民法709条によれば、損害賠償請求をするためには、故意または過失によって他人の権利又は法律上保護された利益を侵害したといえなければならない。

 本件事案において、Hはエレベーターの揺れにより転倒することにより右足を骨折するほどの重傷を負っている。DはAとの間で請負契約を締約するにあたり、ボルトを十分に占める義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、エレベーターをゆれさせたということができる。

 したがって、DはHに対して過失によってけがを負わせ損害を与えたということができるため、Hは民法709条に基づいて損害賠償請求をすることができる。

2.次に、民法717条1項本文に基づき甲建物の占有者であるAに対して損害賠償請求を行うことが考えられるため、検討する。

 民法717条1項本文によれば、工作物の占有者に対して損害賠償請求をするためには、土地の工作物の設置について瑕疵のあることとそれによって損害を被ったことが認められなければならないとされる。

 本件事案における甲建物は土地の工作物である。また、瑕疵があるというのは工作物の設置について通常有すべき安全性を欠いたことを指す。本件事案において、甲建物のエレベーターは通常揺れることはないにもかかわらず、ボルトのしまりが不十分であったために揺らしていることから、通常有すべき安全性を欠いたということができる。

 また、Aは甲建物の賃貸人として甲建物を占有していることから、民法717条1項本文にいう占有者に当たるということができる。

 これに対して、Aは必要な注意を行ったと主張することが考えられるものの、Dの工事の後ボルトが締まっているか確認していないことから、民法717条1項但書によって注意義務を尽くしたと主張することはできない。

 したがって、HはAに対して民法717条1項本文に基づいて損害賠償請求を行うことができる。

3.もし、HのAに対する損害賠償請求が認められなかった場合、民法717条1項但書に基づいて甲建物の所有者であるFに対して損害賠償請求を行うことが考えられる。

 この場合、先述の通り甲建物の通常有すべき安全性を欠いていることから、Fに対して無過失責任を追及することができる。

小問(2)

1.民法722条1項類推適用により、Hの身体機能の低下を理由として過失相殺を行うことができるか検討する。

 被害者の素因を理由として過失相殺を行う場合、疾病にわたらない場合、特段の事情のない限り過失相殺の事情として考慮することはできないとされる。

 本件事案におけるHの身体機能の低下というものは加齢によって生じたものであり、疾病ではない。また、考慮すべき特段の事情もない。

2.したがって、民法722条1項類推適用により過失相殺をすることはできず損害賠償額は減額されない。

以上