平成30年司法試験予備試験刑事訴訟法

平成30年司法試験予備試験刑事訴訟法を解いていきます。

 

刑事訴訟法

刑事訴訟法

  • 作者:小林 充
  • 発売日: 2015/05/01
  • メディア: 単行本
 

 

 設問1

1.警察官職務執行法2条1項によれば、何らかの犯罪を犯し若しくは犯そうとしていると疑うに足りる事情がある場合又はすでに行われた犯罪若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる場合に職務質問を行うことができるとされる。

 本件事案において、Pは甲のシャツのへそ付近が不自然に膨らんでいると認めているが、これは何か服の下に隠匿すれば、このように服が膨れ上がると考えられ、さらに、被服の下に隠しているのであるから、違法なものである可能性があったと考えられる。そのため、甲には犯罪を犯したと疑うに足りる事情があるということができる。

 そのため、警察官PQは甲に対して職務質問を行うことができる。

2.警察官職務執行法上の職務質問の目的を達成させるためには、所持品について質問をすることが不可欠であるということができる。そのため、警察官職務執行法2条1項の質問をする目的を達成する必要な範囲で所持品検査を行うことができるとされる。そのため、相手方の意思を制圧し憲法上保障された重大な権利を侵害する態様でなされたものでなく、その様な捜査を行う必要性、緊急性と信頼される利益の程度を比較して相当程度のものであるということが認められる場合には適法な所持品検査であるということができる。

(1)本件事案における①の行為は被服の上から甲の意思に反して触ったものであるが、このような行為は甲の意思に反するものであるといえるものの、被服の上から触るという身体に対するプライバシーを侵害する態様のものではないため、憲法上保障される重大な利益を侵害するものであるということはできない。

 また、このような行為を行ったのは、甲が危険物を隠しており職務質問を拒んだ際にPQに危害が及ぶことを防止する必要性のあったことと、違法なものを隠していない確認するためであるため、その様な行為を行う必要性があったということができる。さらに、被服の上から触り、その中身を除いたわけではないため、侵害される利益も触られるという多少の不快感に過ぎない。そのため、相当程度のものであるということができる。

 よって、適法な職務質問に付随した所持品検査であったということができる。

(2)本件事案における②の行為は甲のシャツの中に手を差し入れて中身を取り出すというものであるが、この際、Qが甲を羽交い絞めにして取り出すのを伏せくことを防止した上で、行っていることから、甲の意思に反する者であったということができる。また、被服の中のものを取り出すというのであるから、憲法35条によって保障された所持品についてのプライバシーを侵害したということができるため、重大な権利を侵害したということができる。

 そのため、②の行為は甲の意思を制圧し憲法上保障された重大な権利を侵害する違法なものであると認められる。そのため、適法な所持品検査であるといえない。

3.したがって、①の捜査は適法であるが、②の捜査は違法であるということができる。

設問2

1.刑事訴訟法上、将来の違法捜査の抑止の観点から、証拠の収集過程に重大な違法があり、将来の違法捜査の抑止の観点から証拠排除を行うことが相当であると認められる場合、証拠能力が否定される。

 本件事案における覚せい剤は上記の通り違法な所持品検査によって発見されたものであるため、この覚醒剤の証拠能力について検討する。

 この覚醒剤は、上記の通り甲を羽交い絞めにして、被服の下のものを取り出すことによって発見されたものであることから、刑事訴訟法218条の捜索差押の規定に違反してなされたものであるということができる。そのため、PQの行為には重大な違法があるということができる。しかし、PQはこのような刑事訴訟法218条の捜索差押の規定の潜脱を行おうとしてしたものではなく、違法捜査を行ったという事情の証拠隠滅を図ろうとした形跡もないことから、将来の違法捜査抑止のため、証拠能力を否定することが相当であるということは言えない。

 したがって、本件覚醒剤の証拠能力は否定されない。