平成22年司法試験憲法

平成22年司法試験憲法を解いていきます。

 

 

 設問1

第一.生活保護の申請却下についての主張

1.XはY市のXに対する生活保護の申請却下は憲法25条に違反するとして違法無効なものであると主張する

2.憲法25条1項によれば、国民には生存権として健康で文化的な最低限度の生活を営む権利が保障されていることが宣言され、憲法2項によれば、国家の義務として社会福祉や生活保障、公衆衛生について向上させるよう宣言がされている。というのも、生存権は国家の財政事情を無視して保障されるものではなく、その財政事情に応じて政策的に決定されるものであると考えられているためである。

 しかし、健康で文化的な最低限度の生活というものはその時の財政事情によって左右されるものとはいえ、法律によって具体化することも可能であると考えられるため、生存権を具体化した法律があり、その法律によって下される処分が健康で文化的な最低限度の生活を保障するという観点から明白に不合理である場合、その処分は憲法25条に違反する違法なものになると解される。

 本件事案において、XはY市内にあるインターネットカフェに寝泊まりしている者であるが、Y市は生活保護法19条の居住地や現在地にインターネットカフェが該当しないためインターネットカフェに寝泊まりするXに生活保護を認めないと判断している。しかし、生活保護法3条によれば、この法律により保証される最低限度の生活は健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならないとされていることから、憲法25条の生存権を法律によって保障することを内容としていると認められる。

 そうすると、生活保護法19条の居住地や現在地は国民の生活を健康で文化的な最低限度の生活を維持するように解釈されなければならない。

 生活保護法19条1項1号、2号は生活保護を申請する者は住居を失っていることがありえ、このように住居を失ったものに対しても健康で文化的な最低限度の生活を保障するために生活保護を与えなければならないと考えられることから少なくとも現在地についてインターネットカフェなどの一時的な居住スペースについても含まれると解釈すべきものと考えられる。にもかかわらず、Y市は居住地にも現在地にもインターネットカフェは含まれないと健康で文化的な最低限度の生活を保障するうえで明白に不合理な解釈を行い、それに基づきXの生活保護申請を却下していることから、Xに対する生活保護申請の却下処分は憲法25条に違反する違法無効な処分であるということができる。

3.したがって、Xに対するY市の生活保護申請却下処分は憲法25条に違反する違法なものであるということができる。

第二.10月に行われた衆議院議員選挙においてXが選挙権を行使できなかったことについての主張

1.Xは住民登録が抹消された年の10月に行われた衆議院議員総選挙において選挙権を行使することができなかったことはXの憲法15条1項、3項、43条1項において保障される参政権を侵害する違法なものであるとして国家賠償法1条1項に基づいて損害賠償請求を行うことが考えられるため検討する。

2.憲法15条1項によれば公務員を選定し、及びこれを罷免することは国民固有の権利であること、憲法15条3項によれば、公務員の選挙については、成年者による普通選挙によること、憲法43条1項によれば、両議院の議員は選挙された議員によって構成されることが規定されていることから、憲法はこれらの規定により国民に選挙権を保障しているものと解される。

 この選挙権は憲法1条によって保障される国民主権を実効たらしめるものであることから、選挙に不公正をもたらすものであると認められない限り、保証されなければならないと解される。

 公職選挙法21条1項において住民基本台帳に記録されているものに限定してしか選挙権を認めない規定となっているため、住民基本台帳に記載されないホームレスに対しては選挙権を認めないこととする運用になっており、国民の選挙権が公職選挙法21条1項により制約されているということができる。

 そのため、公職選挙法21条1項が合憲であるといえるためには、このような者に選挙権を認めないことが選挙に不公正をもたらすと認められること又はやむを得ない必要性が認められその手段も合理的で必要最小限度のものであると認められる場合でなければならない。

 ホームレスが選挙権を行使したとしても選挙の公正は害されないためホームレスが選挙権を行使することは選挙に不公正をもたらすものであると解することはできない。また、ホームレスに選挙権を認めないやむにやまれぬ必要性はなく不合理であると考えられることから、公職選挙法21条1項は憲法15条1項、3項、43条1項に違反する違憲な法律であると解される。

3.したがって、国は公職選挙法21条1項によりXの選挙権を侵害しているということができ、更に7年前から改正が要請されていたのであるから少なくともXの住民登録が抹消された10月に行われた衆議院議員総選挙においてXに選挙権を認めないことは違法であったということができるため、Xは国に対して国家賠償法1条1項に基づき損害賠償請求をすることができる。

設問2

第一.生活保護の申請却下に対する主張

1.憲法25条1項によれば、健康で文化的な最低限度の生活を保障することを国の責務であると宣言していると解され、憲法25条2項によれば、健康で文化的な最低限度の生活を保障するために社会保障を行うことを国の責務であると宣言していると解されることが認められるものの、健康で文化的な最低限度の生活は生存権を具体化する法律によってある程度具体化できると考えられることからすると、憲法25条の規定を具体化する法律があり、その法律によって下される処分が健康で文化的な最低限度の生活を保障する観点から著しく不合理な場合にその処分は憲法25条に違反する違法なものとなると解される。

 生活保護法3条によれば生活保護法は健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならないとされていることから、生活保護法は憲法25条の生存権を具体化する法律であるということができる。

 そうすると生活保護法19条は健康で文化的な最低限度の生活を保障するよう解釈されなければならないものの、Y市の主張するように居住地にも現在地にもインターネットカフェが含まれないと解釈すると、ホームレスとなった者は生活保護を受けることができなくなるため、健康で文化的な最低限度の生活を営むことができなくなると認められる。確かに、Y市の主張するようにY市の財政上の問題からホームレスに対して生活保護を認めないようにすべきであるとの事情はあり、財政事情を考慮すべきことからすると居住地にも現在地にもインターネットカフェが含まれないと解することは不合理でないと考えられるが、このような解釈はホームレスとなった者の生存権を無視し、実質的にホームレスに生存権を認めないようにするものであるため、このような解釈をとることはできない。

2.したがって、Y市のXに対する生活保護申請却下処分は違法無効なものであると認められる。

第二.衆議院議員総選挙において選挙権を行使することができなかったことについての主張

1.憲法15条1項、3項、43条1項によれば、国民の選挙権が保障されているということができ、選挙権は選挙の公正を害するものであると認められるような事情が認められる場合を除き最大限に保障されなければならない。

 公職選挙法21条1項は住民基本台帳に記載されていないものについて選挙権を認めない運用をすることによってホームレスとなった者の選挙権を侵害している。

 そのため、この公職選挙法21条1項が憲法15条1項、3項、43条1項に違反し無効でないといえるためには、ホームレスに対して選挙権を認めることが選挙の公正を害すると認められるか選挙権を制限する必要やむを得ない事情がありかつその手段が合理的で必要最小限度のものであるということが認められなければならない。

 公職選挙法21条1項が住民基本台帳に載っている者に対してのみしか選挙権を認めないのはホームレスが選挙権を行使すると選挙の公正が害されるということにあるのではなく、現在地ごとに選挙権を与えることにより二重に選挙権を行使することを防ぎ選挙の公正を害しないことが目的であると解される。そのため、住民基本台帳に登録されていないものについて選挙権を認めない必要やむを得ない事情があるということができる。また、二重に選挙権を行使させないためには現在地などにより選挙権を行使することを防止するのが必要であるため、住民基本台帳に登録されていないものについて選挙権を認めない措置は必要最小限度のものであるということができる。

2.したがって、10月の衆議院議員総選挙においてXの選挙権を認めなかったことはXの選挙権を侵害するものではない。そのため、Xの国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求は認められない。