刑法事例演習教材 事例3

刑法事例演習教材事例3の自分の解答を上げておきます。

この答案は、今のところ不作為の幇助について答案が練られていない気がしているので、その点は、今後の課題にしておきます。

 

刑法事例演習教材 第2版

刑法事例演習教材 第2版

 

 

 

第一.甲の罪責

1傷害致死罪の成立

(1) 刑法205条の傷害致死罪が成立するためには、傷害行為を行い、人を死亡させたといえなければならない。

(2) 本件事案において、甲は、平成231220日Bに暴行を加えており、Bの意識を失わせているため、甲は傷害行為を行ったといえる。

 また、同年1221日午前3時頃、Bは脳機能障害によって死亡しているが、この死亡結果は、甲の傷害によって生じた硬膜下出血等によって発生したものであるため、甲の傷害行為とBの死亡との間には因果関係があるといえる。

(3) よって、甲には傷害致死罪が成立する。

2殺人罪の成否

(1) 刑法199条の殺人罪は、人を殺した場合に成立するものであるとされているが、この規定は、人を殺したという犯罪の結果発生についてのみ規定したものであるため、不作為犯を予定している。

(2) そのため、不作為の殺人が成立するためには、作為義務のあること、作為可能性が認められ、かつ、期待された作為を故意に行わなかった場合でなければならない。

 本件事案において、甲はBと同居するBの母親であり、Bを監護する義務を民法820条により負う者であるといえる。また、甲はBに傷害を加えた後、乙から病院に連れて行った方がいいと言われたのにもかかわらず、乙に自身に任せるように述べているため、甲はBに発生する結果について引受け、排他的に支配したといえる。そのため、本件事案において甲はBに対して救命活動を行う作為義務を有していたといえる。

 また、甲の住居から車で10分程度の場所には治療設備の整った総合病院があり、救急車を呼べばすぐに治療が可能な状態であったというのであるため、作為可能性もあったといえる。

 にもかかわらず、甲はBに対して、救命活動を行わず、救急車を呼ぶという期待された作為をBは死亡してしまうかもしれないとの未必の故意を持ったまま行っていない。

(3) 甲の不作為とBの死亡との因果関係であるが、Bは傷害に伴う脳機能障害によって死亡しているが、この五死亡結果を発生させた危険は、甲の傷害行為によって発生したものであり、甲の不作為によるものではないため、因果関係があったということはできない。

(4) したがって、甲には殺人罪が成立しない。

3.よって、甲は、刑法205条の傷害致死罪一罪のみを負う。

第二.乙の罪責

1.甲との共犯関係

(1) 刑法60条の共同正犯が成立するためには、犯罪を共同して実行したという必要があるが、乙は甲がBに暴行を加えるというところを見て見ぬふりをしていたBが気を失ってからは、Bの様子を気に掛ける様子を見せているため、乙は甲とともにBに傷害をしたと評価できる行為を行っていない。

 そのため、刑法60条の共同正犯は成立しない。

(2) 次に、刑法62条の幇助を検討する。刑法62条にいう幇助とは、犯罪の結果発生を心理的または、物理的に助ける行為のことを指す。

 本件事案において、乙は甲がBを殴ることに関してみて見ぬふりをしたり、Bが気絶してからも、自室に戻り、甲がBに暴行を加え、それによって死亡することを物理的にも、心理的にも助けているため、幇助行為を行ったといえる。そのため、乙は、刑法62条の幇助を行ったということができる。

2傷害致死罪の幇助

(1) 先述の通り、甲はBに対し、暴行を加え、死亡させているため、傷害致死罪にあたる行為を行っている。

(2) 刑法62条による幇助が不作為の形態で成立するためには、結果発生回避のための作為義務を負うものであることと、作為可能性が認められることと、作為義務違反による幇助を行ったと認められる場合でなければならない。

 本件事案において、乙は、甲及びBと同居するものであり、このBに対する暴力を平成23年から見てきているため、甲の暴力を阻止する立場を排他的に支配していたということができる。そのため乙は甲のBに対する暴力を阻止する作為義務を負うものであったということができる。

 また、乙は、これまで、甲の暴力を発見した際、甲にやめるよう言ったところ、甲はBを殴るのをやめているため、甲のBに対する暴力を阻止する作為可能性はあったということができる。

 それにもかかわらず、平成231220日に甲がBを殴るのを阻止せず、見て見ぬふりをしているため、作為義務に違反した行為があるということが言える。

(3) また、このように乙が見て見ぬふりをしたことにより、甲はBに対する暴行を行うことについて、心理的、物理的に助けられたといえる。この不作為とBへの障害の発生とそれによる死亡の結果の発生が生じたといえるため、甲の不作為は、結果発生に対する因果性があるということができる。

(3) したがって、乙には傷害致死罪の幇助犯が成立する。

3.よって乙には傷害致死罪の幇助犯一罪のみが成立する。