刑法事例演習教材 事例33

今回の問題は、放火罪と緊急避難に関する問題です。

僕は、問題の検討に当たって、耐火性建造物については、一区画ごとに判断されるのか、建物全体で判断されるのかという点について検討していませんが、書けるとよかったように思えます。

 焼損の意義のところで、耐火性建造物について検討していますが、この検討は必要なのか疑問です。

刑法事例演習教材 第2版

刑法事例演習教材 第2版

 

 

 

 

1.現住建造物放火罪

 刑法1081項の現住建造物放火罪が成立するためには、①現住建造物に対して、②放火し、③焼損させ、④公共の危険を生じさせたといえなければならない。

(1) 刑法108条にいう現住建造物とは、犯人以外の人が現在住居し、住居として使用する現実的可能性のある建物を指す。

 本件事案におけるDマンションは、Aの父親が所有するもので、205号室はAが使用し、また、事件当日もBCと共に使用していた建物であることから、Dマンションは現住建造物であるということができる。

(2) また、放火させる行為とは、火を放つことであるが、本件事案において、甲はストーブの灯油を室内に転がっていた衣類にかけて、ライターで火をつけて、その衣類を壁に投げつけているため、甲は放火行為を行ったということができる。

(3) 焼損したといえるためには、火が媒介物を離れ、独立して燃焼を開始したといえなければならないとされる。この基準は耐火性の建造物であったとしても変わらないものの、その独立して燃焼を開始したことについて公共の危険を発生させたか否かを考慮しなければならない。

 本件事案におけるDマンションは、耐火構造の建築物である。そのため、焼損に際して公共の危険も考えなければならないところ、甲は火のついた衣類をマンションの一室の壁に投げつけ、火を壁に燃え移らせているため、甲の法科行為によって独立して燃焼を開始させているといえる。また、本件事案において、このように火を燃え移らせることは、Dマンションの新建材の燃焼により、有毒ガスを発生させ、外廊下に面した各室の北側のふろがまの排気口から有毒ガスを他の部屋に侵入させる恐れがある。そのため、このようにマンションの壁面を焼損させることは公共の危険の発生につながるものであり、甲は公共の危険を発生させたものということができる。

(4) したがって、甲は刑法1081項の現住建造物放火罪に該当する行為を行ったといえる。

2.緊急避難

 刑法371項の緊急避難が成立するためには、①自己の身体に対する危険が現に存在しているか、間近に差し迫っているものといえ、②避難行為として避難を行い、③その避難行為のほかに害を避ける手段がなく、④その避難行為に相当性が無ければならない。

(1) 緊急避難状況にあったといえるためには、危険が現存し又は差し迫った状態にあったといえなければならない。

 しかし、本件事案において甲はA,B,Cによる性的暴行がなされることを予期しているものの、A,Bがさらなるターゲットを探してマンションから離れ、Cもマンションわきの自動販売機でたばこを買い、タバコを吸うために屋外に出ていたことから、甲の身体に対する危険は現在または間近に差し迫っていたものということはできない。

(2) したがって緊急避難は成立しない。

3.誤想避難

 刑法38条にいう罪を犯す意思とは違法な構成要件に対しる認識を指し、この認識が欠ける場合に、刑法381項による責任阻却を規定したものということができる。

(1) 本件事案において甲は、見張りのCがマンションの室内にいると予見していることから、闘争した場合、Cによって力づくで連れ戻されるなどの暴力行為がなされ、身体に対する危険が生じる恐れが間近にあったということができる。

(2) 緊急避難が成立するためには避難行為として避難行為を行う必要があるが、本件事案において甲はDマンションの一室から逃げるために火をつけ、Cの注意をそらし、そのすきに逃走するためにこのような放火行為を行ったのであるから、甲は避難目的で避難行為を行ったということができる。

(3) 緊急避難が成立するためには、その避難行為のほかに手段がなかったといえなければならないとされる。

本件事案において、甲は南京錠をかけられた猿轡のため声を出すことができず、警察に連絡することもできない状態にあり、更に壁をたたくなどしても、Cに気づかれるおそれがあったことから、甲が避難行為をするためには火を放つしか方法はなかったということができる。

(4) また、避難行為には相当性が無ければならないとされる。

 本件事案において、逃走するために火を放つ行為は、他数人の生命、身体、財産に害を生じさせる危険のある行為であることから、相当性を欠くものといえる。

(5) したがって、甲の認識として、刑法372項の過剰避難に該当する事実の認識しか有していなかったということができる。そのため、刑法382項によって、軽い罪である過剰避難によって減軽された範囲で処罰されることになる。

4.したがって甲は現住建造物放火の罪責を負い、刑法382項によって、過剰避難によって減軽された範囲で罪を負う。