司法試験平成28年刑事訴訟法

司法試験平成28年刑事訴訟法の問題を解きました

留め置きについて任意捜査か否か書く前に職務質問の適法性をかけていたり、刑事訴訟法295条1項の相当性に触れているとよかったように思われます。

他にも何かありましたらコメント欄にお願いします

 

平成28年司法試験 論文過去問答案パーフェクト ぶんせき本

平成28年司法試験 論文過去問答案パーフェクト ぶんせき本

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設問1

1P及びQは平成2771日午前1130分から午後430分までの5時間にわたって甲車の捜索差押えの執行や、甲に対する強制採尿のために甲を現場に留め置いているが、このような留め置きが刑事訴訟法1971項に基づく任意捜査として適法といえるか検討する。

2.任意捜査であるためには、強制処分であるといえてはならないため、強制処分に当たるかを検討する。

 刑事訴訟法197条但書によれば、法令に基づかない限り強制の処分をしてはならないとされているが、ここにいう強制の処分とは、相手方の意思に反して憲法上保障される重大な権利を侵害する処分のことを指す。

 本件事案において、P及びQは甲車の前後にパトカーを停車させ、甲車が容易に移動できないようにしたうえ、甲が車を降りて移動しようとするたびに両手を広げて進路を塞ぎ、甲の異動を制止することによって甲の移動の自由を制限している。しかし、この制限の程度というものは、甲を甲車から降りられなくしたり、甲の身体を拘束し、移動できないようにしたりするなど、逮捕と同程度まで、甲の移動の自由を制圧したとはいえないため、甲の憲法上保障される重大な権利を侵害したものということはできない。

 したがって、P及びQの項に対する留め置きは刑事訴訟法1971項但書にいう強制の処分には当たらない。

3.強制処分に該当しないといえても、任意捜査として適法であるといえるかが問題となるため検討する。

 刑事訴訟法1971項本文により任意捜査として適法であるといえるためには必要なものであると認められなければならず、必要な捜査といえるかどうかは相手方の制約される利益に比して、必要性緊急性があり、相当程度のものであるといえるかによって判断される。

 本件事案において、甲は、5時間にわたって現場に留め置かれているが、この留め置きの態様というものは、甲車による移動をパトカーで制限したうえで、甲が甲車を降りて移動しようとすると甲の身体を押し戻し、甲を運転席まで戻すというものであり、甲の移動の自由が相当程度制約されていたということができる。

 これに対し、警察官は甲車及び甲に対する捜索差押許可状の執行という目的があり、甲が移動してしまうと甲に対する捜索差押えが困難になってしまうという事情もある。しかし、甲は5時間という長時間にわたって移動を制約されており、さらに甲が弁護士から帰ってもよいというアドバイスを受け、移動したい旨告げていることから、甲は移動したい旨を強力に示していたということができる。また、交通渋滞のため到着までに時間を要したという不可抗力的な事情はあるものの、それでも少なくとも捜索差押えの執行のために4時間移動の自由を制約されていたといえ、制約の程度は非常に大きいといえる。そのため、Pらによる留め沖に捜索差押許可状の執行という目的とそのために必要性も認められるものの、そのために甲を5時間も留め置き、さらに、弁護士のアドバイスを受け現場を離れようとする効を現場に留めるために有形力を行使するということは相当でない。

4.そのため、Pらの留め置きは刑事訴訟法1971項本文に基づくものということはできず、違法な措置であるということができる。

設問2

1Sは下線部1のように初回接見に来たTに対し、接見指定を行っているが、このような接見指定が刑事訴訟法39条に基づく適法なものといえるか検討する。

2刑事訴訟法391項に基づく接見交通というものは憲法373項に基づいて認められる弁護人選任権の目的である適示に防御権の告知を受け、今後の訴訟活動の方針を受け、被告人の防御権を確保するという要請に基づくものであることから、接見交通権というものは最大限に認められなければならない。しかし、一方で、検察官らによる捜査の目的を達成するために必要な捜査というものが被告人に対してなされなければならないことから、刑事訴訟法393項本文に基づいて接見指定を行うためには被疑者の身柄を利用した操作が行われ又は行われるために被疑者の身柄を利用した活動が行われていなければならない。

 本件事案において、STから電話がかかってきた段階で、甲の弁解録取を行っており、甲の身柄を利用した捜査を行っていることから、甲の身柄を利用した捜査が行われているといえる。

 よって刑事訴訟法393項本文にいう捜査のための必要があるということができ、Sの行った接見指定は適法なものということができる。

3.次に接見指定を行うとしても、刑事訴訟法393項但書によれば、その内容が被疑者の防御権を不当に制限してはならないとされている。

 本件事案において、STに接見の時間を午前11時と指定しているが、この時間は子に対する弁解録取が完了し、甲の身柄がH警察署まで送られるまでにかかる時間として相当なものであることから、被疑者の防御権を不当に制限するものでないということができる。

 したがって下線部1のSの措置は刑事訴訟法39条に基づく適法なものということができる。

4.次に、Sは下線部2のように甲に対して取り調べを行う必要性が出てきたことから、取り調べを行うために接見指定を変更しようとしているため、このようなSの措置が刑事訴訟法39条に基づく適法なものといえるか検討する。

5刑事訴訟法393項本文に基づき接見指定を行うためには被疑者の身柄を利用した操作が行われまたは、被疑者の身柄を利用した操作のために措置が行われていると認められなければならない。

 本件事案における甲が自白をしようとしているため、甲に対する取り調べを行うということは、甲の身柄を利用した必要な操作であるということができるため、S刑事訴訟法393項本文に基づいて接見指定を行うことができる。

6.次に接見指定を行うとしても、その内容は被告人の防御権を不当に制限してはならないとされる(刑事訴訟法393項但書)

 本件事案においてSは接見指定を再び行いその内容を1時間半後に設定しているが、甲の接見というものは初回接見であり、しかも居間にも甲が自白をしようとしているという黙秘権を伝える必要性も高い段階で行われたものであることから、接見指定を当初の者から変更し、その内容を1時間半後に設定することは防御権の不当な制限になるといえる。

7.したがって、Sの下線部②の措置の内容は甲の防御権を不当に制約するため、刑事訴訟法393項但書に違反するものであるということができる。

8.よってS1の措置は適法であるが、2の措置は違法なものであるといえる。

設問3

1.検察官は乙が譲渡した者が覚せい剤であることを認識していたことを証明するために下線部3の項の供述から、乙には覚せい剤条との認識があったことを立証しようとしているが、これが伝聞証拠に当たり証拠能力が認められないといえるか検討する。

2刑事訴訟法3201項が公判廷における反対尋問を経ていない供述の内容の真実性を証拠とする供述証拠または書面の証拠能力を認めていないのは、人の供述過程においては人の知覚、記憶、叙述といった過程を経るため類型的に虚偽が入り込みやすいからであるとされる。

 本件事案において、検察官は甲供述に含まれていた乙の供述を内容とする供述から乙が覚せい剤条との事実を認識していたとの事実を立証しようとしているため、甲の供述は乙野公判廷における反対尋問の機会を経ていない供述内容の真実性を証拠とする供述証拠すなわち伝聞証拠ということができる。しかし、乙の供述というものは乙の内心に関わる事実の供述であることから、乙の知覚、記憶といった過程を経ておらず、伝聞証拠として証拠能力を否定すべき事情名がないということができる。

3.したがって、下線部3の供述は伝聞証拠ということはできず、証拠能力は否定されない。

設問4

1刑事訴訟法316条の17第1項によれば、弁護人は証明予定事実を明示しなければならないとされていることから、この証明予定事実として明示されていなかったにもかかわらず、公判廷において新たな主張を行い公判前整理手続が行われた意義を失わせたということができる場合には、刑事訴訟法295条1項に基づいて、供述の制限を行うことができるとされる。

2.本件事案において、公判前整理手続において乙及びUはアリバイ主張において丙方にいたと供述し、本件争点についてアリバイ主張が含まれないように整理されている。しかし、アリバイというものも、一応公判前整理手続において問題になっており、乙がアリバイについて公判前整理手続において曖昧にしか答えていないことからすると、乙が戊方にいたことを前提とする下線部4の弁護人の質問というものは新たな主張ということはできず、下線部4の質問が公判前整理手続を行った意義を失わせるものでもないということができる。

    3.したがって、下線部4の質問及びこれに対する供述が刑事訴訟法316条の171項に違反するとして刑事訴訟法2951項により制限することはできないということができる。