公法系訴訟実務の基礎 第四章

公法系訴訟実務の基礎の医療行政に関する問題の僕の答えを置いておきます。

解説的には行政調査を拒否する「正当な事由」について検討してほしかったようですが、法令の解釈(憲法適合的解釈)としても難しいかなあと思いました。

 

公法系訴訟実務の基礎

公法系訴訟実務の基礎

 

 

 

設問A

A1

 被告を国として、請求の趣旨は、「厚生労働大臣は、原告に対し指定取消処分をしてはならないことを命ずるとの処分を求める」と記載する

 本案主張として

 国は、健康保険法78条に基づいて平成X812日付で出頭を命じた第5回監査への出席を正当な理由なく拒んだことを理由として健康保険法80条及び81条に基づいて保健医療機関の指定の取消及び保険医の登録の取消しを主張しているが、本件事案においては、健康保険法78条にいう療養の給付に関して必要があると認められる場合には当たらない。

 なぜなら、K厚生局の監査担当者は、架空請求の疑いの根拠としている患者8名のうち少なくとも7名について情報の正しさに疑問を持っているにもかかわらず、期日設定を行おうとしているが、このような情報の正しさ、行政調査方法の適切さに問題があり、正しい調査結果が得られないため、調査を打ち切るべきであるのにもかかわらず調査を行うのは、調査の必要性が認められない場合に当たる。

 そのため、健康保険法781項にいう調査の必要性が欠けるにもかかわらず、違法な調査を行っているため、健康保険法80条及び81条の指定取り消し処分の要件の欠ける違法な指定取り消し処分を行おうとしているといえる。したがって厚生労働大臣は原告に対し指定取り消し処分をしてはならない。

 

A2

 厚生労働大臣は、仮に原告に対し指定取消処分をしてはならないことを命ずる処分を求める。

 申し立ての理由として

 このような指定取消処分がおこなわれた場合、健康保険法76条によって健康保険証の利用ができなくなり、患者が他の病院に流れ、病院の経営が立ち行かなくなること、さらに、健康保険法653項によって再指定が5年間行われなくなるという不利益も受けることから、不安定な経営が5年程度の長期間続くことになることが認められる。

 指定が取り消されることによって保険医療機関及び保険薬局の指定並びに保険医及び保険薬剤師の登録に関する政令1条及び2条、並びに5条に基づいて指定取り消しについての情報公開が行われ、委員としての信頼を失うという不利益も認められる。

 以上の原告の被る不利益というものは償うことのできないほど重大なものである。

 さらに、原告の主張には理由があり、さらに、原告に対する仮の差止を行っても公共の福祉に反するとは認められないため、裁判所は厚生労働大臣に対し原告に対する指定取り消し処分の仮の差止を命ずることができる。

 

 

A3

健康保険法80条及び81条により指定取消処分を行うためには、健康保険法781項に基づいて行われる調査が適法であること、この調査を相手方が拒んだことの事実が必要である。

 本件事案において、Lクリニックの患者である4名に聴取調査をしたところ、レセプトに記載されているような投薬や注射はされていないとの回答が得られたことから、Lクリニックが架空請求を行ったとの合理的な疑いが存在している。

 また、このような合理的疑いに基づいて第5回の監査期日を指定したにもかかわらず、Lクリニックの関係者は出席を拒んだため、Lクリニックには調査を拒んだとの事実が認められる。

 したがってK厚生局によるLクリニックに対する指定取消処分は適法であるといえる。

 

A4

 被告がのちの取消訴訟で、指定取消処分の理由を監査不出頭の事実から架空請求の事実に変更した場合、処分が同一性であり、既判力により妨げられないかが問題となる。

 本件事案において、行政庁は、健康保険法78条の調査に応じないという804号及び、812号違反の理由から、健康保険法72条違反を理由とする801号若しくは3号、及び811号違反の理由に変更しようとしているが、この変更は根拠となる違法事由が異なるため、処分の同一性が認められるものではないということができる。

 したがって、処分に同一性はなく、処分後の取消訴訟において処分理由を変更すること自体は可能であるということができる。

 そのため、Lクリニックとしては、架空請求の事実は認められないことを主張することになる。