令和元年司法試験刑法

令和元年司法試験刑法を解いたので、ブログに上げておきます。

正直事後強盗のところはうまくかけているようには思えません。

他にもおかしな点があればコメント欄にお願いします。

 

刑法基本講義 総論・各論 第3版

刑法基本講義 総論・各論 第3版

 

 

 

設問1

1.キャッシュカードに対する詐欺罪の成否

(1)刑法2461項の詐欺罪が成立するためには、①財物の交付に向けられた欺罔行為と、財物の交付がなされたといえなければならない。

(2)財物に向けられた欺罔行為が存在するといえるためには、財物の交付のために重要な事項について錯誤に陥らせるおそれのある行為を行ったということがいえなければならない。

 本件事案において甲は、Aに対し、金融庁の職員を名乗り、キャッシュカードを確認する必要があること、キャッシュカード等を証拠品として保管してもらう必要があるため、甲に渡すよう告げている。この甲の行為というものは、Aが犯罪に利用されたキャッシュカード等を証拠品として出さなければならないかのようにキャッシュカード等の処分のために重要な事項について錯誤に陥れるような言動をしていることから、甲のAに対する欺罔行為が認められる。

(3)また、Aは甲の行為に応じてキャッシュカードとメモを交付していることから、財物の交付があったということができる。

(4)したがって甲には刑法2461項の詐欺罪が成立する。

2.窃盗未遂罪の成否

(1)刑法243条の窃盗未遂罪が成立するためには、刑法235条の他人の財物に対する窃取の実行に着手してその目的を遂げなかったということがいえなければならない。この実行に着手したということができるためには、結果発生に密接関連した行為を行っていたといえなければならない。

(2)本件事案において、甲はATMに行き、キャッシュカードを挿入して現金を引き出そうとしているものの、口座が凍結されていたため、引き出すことができていないが、暗証番号を知っている者がATMにキャッシュカードを入れると、口座凍結等がされていない限り、その場で、何ら障害もなく現金を引き出し、現金の占有を移転させることができるため、甲は現金窃取の実行に着手していたということができる。

(3)しかし、甲は口座凍結により現金を引き出すことができていないため、その目的を達することができていないということができる。

(4)したがって甲には刑法43条本文により刑法243条の窃盗未遂罪が成立する。

3.よって甲には詐欺罪と窃盗未遂罪が成立し、刑法45条により併合罪となる。

設問2

1.乙に事後強盗罪の共同正犯を認める場合

(1)刑法60条によれば、二人以上共同して犯罪を実行した場合に共同正犯としての罪責を負うとされる。

 本件事案において乙は、甲がショルダーバッグを取り返されないようにするため、強迫を行っているが、先行行為者の甲の行為を後行行為者乙が利用して犯罪を実行しているため、後行行為者乙の行為は先行行為斜光の行為と一体となった行為と評価できるため、乙に承継的共犯を認めてよく、乙は甲とともに事後強盗行為全体を行ったものと評価することができる。

(2)また、刑法238条によれば、窃盗が財物を得て取り返されることを防ぐ目的で、脅迫行為をした場合には事後強盗罪が成立するとされる。

 本件事案において、甲とともに行動する乙が甲の窃盗未遂を認識しつつ、甲のショルダーバッグを取り返されることを防ぐ目的で脅迫行為を行っていることから、乙には甲との事後強盗罪の共同正犯が成立する。

2.乙に脅迫罪の限度で共同正犯を認める立場

(1)刑法60条の共同正犯が成立するためには、共同して犯罪を実行したといえなければならないところ、共同正犯としての罪責を負う根拠は正犯者と因果を共にしたことに認められる。また、因果はさかのぼることはないため、承継的共同正犯は認められないことになる。

 本件事案において乙は、甲が窃盗未遂罪を侵し逃走している段階で甲とともに脅迫していることから、乙は脅迫行為についてのみ甲と因果を共にしたということができる。

 そのため、乙と甲の共同正犯は乙が強迫した段階にのみ認められる。

(2)刑法222条の脅迫罪が成立するためには、人を畏怖させるに足りる害悪の告知が行われなければならないとされる。

 本件事案において、乙はナイフを持って「離せ、ぶっ殺すぞ。」とCに申し向けていることから、Cの身体に対してCを畏怖させる害悪の告知を行ったということができる。

(3)したがって、乙には刑法60条、222条による甲との脅迫罪の共同正犯が成立する。

設問3

1.緊急避難

 まず、刑法371項の緊急避難の主張が考えられる。緊急避難が成立するためには①他人に対する現在の危難が存在していること、②避難意思のあること、③補充性、④相当性が認められなければならない。

(1)本件事案において、Dに対して甲がナイフを取り出し、ナイフの刃先をDの胸元に突きだすという行為を行っていることから、Dという第三者の身体に向けた現在の危難が発しているということができる。

(2)また、丙はD根の危難を避けるための行為として行っているのであるから、避難意思はあるということができる。

(3)さらに、丙の執りえる唯一の手段はボトルワインを投げることであったことから補充性を満たし、女性である丙の行為はナイフを持った男性に対する行為として相当なものであるということができることから相当性を満たす。

(4)したがって、丙の行為は緊急避難ということができる。しかし、助けるべきDにボトルワインを当てる行為というものを避難行為と認定するには難があるうえ、甲に対する暴行罪に対する犯罪阻却事由とならず、結果として、正当な行為を行った者に対する犯罪阻却がなされないとの難点もある。

2.誤想防衛

 刑法361項の簿英状況にあると誤信して、相当な行為を行った場合、刑法381項の罪を犯す意思が欠けるとして、誤想防衛が成立する。

(1)本件事案において、丙は、Dが不正の侵害を行っていないため、刑法361項に基づいて正当防衛を主張することはできない。

(2)しかし、丙は、Dの不正の侵害を誤信し、急迫不正の侵害があると誤信している。

(3)また、丙は防衛意思のもと相当程度の行為を行っているといえる。

(4)したがって、刑法381項により、丙の行為は故意が阻却され犯罪不成立となる。

 しかし、多少賀的であるか味方であるかという点で誤信を論じるのは相当でないうえ、過失による行為とも評価されうる以上、誤想防衛によって刑事責任を丙が負わないと判断されるためには難点があるということができる。