司法試験平成28年知的財産法 第2問
司法試験平成28年知的財産法第二問を解きました。
引用の抗弁など、書けていない論点があります。
他にも何か気になる点がありましたら、コメントにお願いします。
設問1
1.小説Cについての主張
XはYに対し、著作権及び著作者人格権の侵害を理由として、著作権法112条に基づく差止請求と損害賠償請求を行おうとしているが、可能であるか検討する。
(1)著作権侵害があったといえるためには、著作物性が認められ、著作者に著作権が帰属しているといえ、著作権侵害行為がなされたといえなければならない。
(2)著作権法2条1項1号によれば、著作物性が認められるためには、思想又は感情を創作的に表現したものであり、学芸の範囲に属するものでなければならないとされる。特に二次的著作物の場合、新たに創作を加えた部分に著作物性が認められなければならない(著作権法2条1項11号)。
本件事案において、XはAの小説aを日本語訳した小説bを完成させているが、大部分は直訳であることから、この直訳した大部分は、新たな創作を加えたものといえず、著作物性が認められない。一方、Xが日本人にわかりにくい英語の表現や、各場面設定につき独特の意訳を加えていることから、この部分については新たな創作を加えているということができる。さらに、この部分に、思想又は感情を創作的に表現した、学芸の範囲に属するものであると認められることから、著作物性も認められる。
したがって小説bは、小説aの二次的著作物であるということができる。
(3)小説bはXが創作した者であることから、著作権法2条1項2号によってXが著作者であると認められる。
(4)著作権侵害行為を行ったといえるためには、依拠性、類似性、法定利用行為が認められなければならない。
Yは、小説a,bの内容を批判するとともに揶揄する目的で小説cを創作していることから、小説cは小説bに依拠していることが認められる。
類似性が認められるためには、原著作物の本質的特徴を直接感得することができなければならないところ、Yは小説aと小説bの全体の構成、各場面設定および物語の展開の特色を一見してわかるように残しているため、Xとしては、小説bの本質的特徴を直接感得することができると主張することが考えられる。
しかし、これに対してYはXの二次的著作物に対する権利は、Xが新たに創作性を加えた独特の意訳の部分にしか発生しておらず、Yの小説cは小説aの直訳としての日本語の表現において、小説bに類似しているにすぎず、Xの創意工夫を凝らした日本語の表現は使用していないため、類似性は認められないと主張することが考えられる。
確かに、小説bの本質的特徴はXの日本語としての工夫をからした部分にのみ認められるのであるから、Yの小説cから、Xの著作物の本質的特徴を直接感得することができないといえ、類似性が認められない。
(5)よって、Xは小説bの著作権侵害を主張することができない。
2.題号cについての主張
(1)著作権侵害が認められるためには、題号bに著作物性が認められなければならない。
(2)二次的著作物の著作物性が認められるためには、著作物を変形変更し、新たな創作性を加え、原著作物と一体となった物として、利用しているといえなければならない。
本件事案において、Xは小説aの題号aを日本語訳した題号bを創作しているため、題号bについての著作物性が認められる。
これに対してYは、題号bに著作物性が認められないとの反論を行うことが考えられる。
確かに題号bは題号aの直訳であることから、Xは題号aについて新たな創作を加えたということはできず、題号bに二次的著作物に関する著作物の著作物性は認められない。
(3)したがって、Xは著作権者であるということはできず、XはYに対して著作権侵害を主張することができない。
3.ブックカバーcについての主張
(1)著作権侵害が認められるためには、ブックカバーbに著作物性が認められ、Xが著作権者であるといえ、Yが著作権侵害を行ったといえなければならない。
(2)著作権法2条1項1号によれば、著作物性が認められるためには、思想又は感情を創作的に表現したものであり、学芸の範囲に属しているといえなければならない。
小説bのブックカバーはXが独自にデザインしたものであり、青と白を基調とし、左下から、右上に風が吹き抜けるような縞模様とともに、金色の題号が中央で渦を巻きながら点に上るように書かれているものであったことから、Xにとって小説bにあったブックカバーという思想が創作的に表現されており、学芸の範囲に含まれることから、小説bのブックカバーbに著作物性が認められる。
(3)著作権法2条1項3号によれば、著作物を創作した者が著作者とされることから、小説bのブックカバーbを創作したXが著作権者であるということができる。
(4)著作権侵害が認められるためには、原著作物に依拠し、類似性が認められ、法定利用行為を行ったということが認められなければならない。
Yは小説bを批判したり揶揄したりする目的で、小説cの作成に取り掛かっているのであるから、ブックカバーbについても当然接したことがあるといえる。そのため、依拠性が認められる。
また、類似性が認められるためには、原著作物の本質的特徴を直接感得することができなければならないとされる。Yの作ったブックカバーcは左下から、右下に風が吹き抜けるような縞模様とともに、題号が渦を巻く形でえがかれていることから、ブックカバーbの渦や全体の表現の本質的特徴を直接感得することができる。
これに対してYはブックカバーbの全体のデザインと異なるため、類似性は認められないとの主張をすることが考えられるものの、しま模様や、渦というブックカバーbの本質的特徴を直接感得することができることから、Yの反論は認められない。
(5)翻案権侵害をしたといえるためには、原著作物の本質的特徴を直接感得できる形で変形変更を行ったといえなければならないところ、Yはブックカバーbの変形を類似性の認められる形で行っていることから、著作権法27条の翻案権侵害を行ったといえる。
また、著作権法20条の同一性保持権侵害を行ったといえるためには、意に反する改変を行ったといえなければならないところ、Xの意に反してブックカバーbを変更していることから、Yは同一性保持権の侵害を行ったといえる。
(6)したがってXはYに対して、ブックカバーbの著作権、著作者人格権を侵害したことを理由として、差止及び損害賠償請求を行うことができる。
設問2
小問(1)
1.Z1はXの小説bを含めて購入者の依頼を受けて小説を電子ファイル化しているが、このようなZ1の行為を理由として、XがZ1に著作権侵害を主張できるか検討する。
(1)Xの小説bは著作物であると認められ、Xは小説bの著作者であると認められる。
(2)さらに、Z1は小説bも含めて、電子ファイル化していることから、原著作物に依拠して、類似性の認められるものを有形的に再製し、著作権法21条の複製権を侵害している。
(3)これに対して、Z1は私的使用のための複製であることから、著作権法30条によって著作権の制限を主張することができると反論することが考えられる。確かに、Z1は小説の購入者の私的利用のために複製を行っているものの、Z1は複製行為を事業として行っていることから、私的に使用するために複製を行っているということはできない。
2.したがって、XはZ1に対して著作権侵害を理由とする差止請求を行うことができる。
小問(2)
1.著作権侵害を行っているといえるためには、原則として侵害者本人が直接行ったといえなければならないものの、自己の支配領域下において営利のために利用させている場合には、支配領域下で著作権侵害を行わせている者が侵害主体となる。
本件事案において、Z2はスキャナーを店内に設置し、小説bを電子ファイル化したい者のために、裁断済みの小説bを店外に持ち出すことを禁止にするとともに貸し出したうえで、電子ファイル化させていることから、Z2の支配領域下において著作権侵害が行われている。また、Z2は事業のために、このような貸し出しを行っているため、営利目的があるといえる。
2.よって、XはZ2に対して、著作権侵害を理由として差止及び損害賠償請求を行うことができる。