スポーツ法まとめメモ(6)

今回はスポーツと不法行為に関することについてまとめていきます。

この分野に関しては刑法分野と重なる部分はあるかと思いますが、民事的責任と刑事的責任とで異なるので別のものと考えてください。

 

標準テキスト スポーツ法学 第3版

標準テキスト スポーツ法学 第3版

  • 発売日: 2020/05/07
  • メディア: 単行本
 

 

 概説

 民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求を行うためには、①加害者の故意または過失、②権利侵害の存在、③損害の発生、④因果関係がなければならない。

 また、不法行為法 -- 民法を学ぶ 第2版に解説されるように、事例の積み重ねにより法が作られる分野であるため、判例をきちんと読んでおく必要がある。そのため、民法判例百選II 債権 第8版 (別冊ジュリスト238号)などを読んでおくとよい。

 ただし、スポーツ中のあらゆるけがについて責任を負うとすると、スポーツの活動を委縮させるため、損害賠償請求については一定程度制限される。

 この際、被害者の同意や、「許された危険」の法理が妥当する。

 

競技者の不法行為

 スポーツの際のけがについて、競技者がけがを負ったとしても、ルールやマナーを守っているならば、不法行為責任を負わないのが原則である。ただし、ルールが不合理な場合は、ルール制定者の責任が問われたりする。

 ルール逸脱を過失によって行った場合でも、ルールの目的が、危険の防止でない場合は、過失行為にはならない。また、危険の引き受けとして、通常よく生じる軽微なマナー違反、ルール違反については、過失があるとして損害賠償請求はできない。

 東京地裁昭和45年2月27日判決は、ママさんバレーの練習において、打球直後に反対側コートの競技者の右足に衝突して事件において、「競技中に生じた行為については、それがスポーツルールに著しく反することなく、かつ、通常予測され、許容された動作に起因するものであるときは、そのスポーツに参加したもの全員がその危険をあらかじめ受任し加害行為を承諾しているものと解するのが相当であり、加害行為の違法性が阻却される」として、損害賠償責任を否定している。

 一方、大阪地裁平成11年7月9日判決はダブルプレーの練習中に、捕球した三塁手が二塁ではなく、一塁手に投げてしまい、一塁手に失明のけがを負わせた事件である。この事件について裁判所は、「捕球した後、二塁に送球しなければならないことを認識していながら、監督や保守の支持を不注意で聞いていなかった過失がある」として、三塁手に損害賠償責任を認めている。

 また、競技者は競技者に対してだけでなく、第三者に対しても注意しなければならない。この場合、第三者にけがを負わせた場合には第三者に対して損害賠償義務を負う。競技者だけでなく施設管理者が工作物の安全を書いたとして、民法717条の工作物責任を負うこともある。

 

スポーツ指導者の不法行為

  スポーツには内在する危険があることから、指導者は、その危険から競技者を守る義務を負っている(義務に違反すると、過失有りということになる)。

 この注意義務の程度は、学校指導者、スポーツクラブの指導者、ボランティアの指導者とでほとんど変わらないようである。

  なお、事故防止策については、『公認スポーツ指導者養成テキスト・ワークブック共通科目Ⅱ』(これは、日本スポーツ協会のサイトから購入することができる)に「安全確保のための6つの指針」、「安全管理システムの構築」、「危険の予見回避能力の高め方」としてまとめられている(これらは、裁判の際も注意義務の程度にかかわる証拠として使えるだろう)。

 

施設管理者の不法行為

  民法717条1項によれば、工作物の占有者と、工作物の所有者について工作物の瑕疵(平たく言えば欠陥)によって損害が生じた場合には損害賠償責任を負うとされている。

 工作物の占有者の責任は、「その損害の発生を防止するために必要な注意をした場合」には責任を免れるが、工作物の所有者の責任は無過失責任である。

 こういった責任を負う例として、野球場のフェンスが低かったことにより観客がファウルボールによって負傷したときなどがこれに当たる。

 

スポーツ関係者以外の不法行為

  スポーツ関係者以外のものがスポーツ関係者に対して損害を与えることがある。

 この例としては、名誉毀損がある。メディアはゴシップとして記事を書き、それによってスポーツ関係者の名誉を毀損することがある。