ロープラクティス民事訴訟法 発展問題15

ロープラクティス民事訴訟法発展問題15を解いていきます。

 

 

Law Practice 民事訴訟法〔第3版〕

Law Practice 民事訴訟法〔第3版〕

  • 作者:山本 和彦
  • 発売日: 2018/01/11
  • メディア: 単行本
 

 

 1.Xは前訴で請求棄却判決を受けたにもかかわらず、後訴として改めてYの債務不履行に基づく損害賠償請求権の残部分である2500万円を請求しているが、このようなXの残部請求が認められるか検討する。

(1)民事訴訟法114条1項によれば、確定判決の既判力は主文に包含するものに限り発生するとされる。また、明示の一部請求を行った場合、主文に一部請求であることが記載されることから、既判力は一部請求部分にのみ発生するとされる。

 本件事案において、Xは前訴において、債務不履行に基づく損害賠償請求権3000万円の一部である500万円と明示して損害賠償請求を行っていることから、前訴判決の既判力はこの500万円部分にのみ発生する。また、前訴判決はXの500万円の損害賠償請求権を認めないとの判決を下し、確定していることから、Xの3000万円の損害賠償請求のうち500万円の損害賠償請求権を認めないとの範囲で既判力が発生しているといえる。

(2)既判力は同一、先決、矛盾関係にある訴訟物に対して作用するとされる。

 本件事案における後訴の2500万円の残部請求はXのYに対する損害賠償請求権を訴訟物とするものであり、前訴の500万円の損害賠償請求権も同一の損害賠償請求権を訴訟物とするものであることから、前訴と後訴の訴訟物は同一関係にあるといえる。

 そのため既判力が作用する関係にある。

(3)既判力の消極的効力として前訴と矛盾する判断を遮断する作用が認められている。

 本件事案において、XのYに対する損害賠償請求権の一部である500万円の請求を棄却するとの判断と、XのYに対する損害賠償請求権の残部について請求を認めることとは何ら矛盾しないため、既判力の作用により遮断されない。

(4)既判力の作用により遮断されなくとも、訴訟を蒸し返し、不当に権利の形成を行っていると認められる場合、信義則上その請求は却下される。ただし特段の事情のある場合には信義則によって却下されない。

 本件事案の前訴においてXの請求は却下されていることから、残部部分について争うと、同一の訴訟関係について再び裁判所に審理させることとなるためXのYに対する損害賠償請求の訴訟が蒸し返されるといえる。また、これによって損害賠償請求が認められると、認められないはずの損害賠償請求が認められる結果となるため、権利を不当に形成しようとしているといえる。

 さらに、このような残部請求を認めるだけの特段の事情もない。

 そのため、Xの後訴は却下される。

2.よってXの後訴は却下されるため認められない。

以上

 

 却下する際の理由付けがおかしいかもしれない。

 最高裁平成10年6月12日判決は「一個の金銭債権の数量的一部請求は、当該債権が存在しその額は一定額を下回らないことを主張して右額の限度でこれを請求するものであり、債権の特定の一部を請求するものではないからこのような請求の当否を判断するためには、おのずから債権の全部について審理判断することが必要になる。」ことを前提として、「金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情がない限り信義則に反して許されないと解するのが相当である」との一般論を示している。

 このことから、金銭債権の一部請求訴訟について請求棄却判決を受けた場合、債権の全部について存在しないとの判断を下したと見るべきである。しかし後訴において残部請求を行うことは、紛争の蒸し返しになるし、判決の不当形成を行っているとみることもできるため、信義則に違反して却下すべきということになるのだろうか。