平成27年司法試験刑事訴訟法

司法試験平成27年を解いていきます。

 

 

 設問1

1.捜査①の適法性

 本件事案において、PはICレコーダーを使ってベランダにいる乙の音声を録音しているが、このようなPの捜査が適法といえるか検討する。

(1)刑事訴訟法197条1項但し書きによれば、強制の処分を行うためには法律の定めがなければならないとされている。この強制の処分について文言通りに解釈したのではあらゆる捜査が強制処分となりかねないため、法益侵害の程度の強度なものに限り限定されているとされている。

 そのため、強制処分に当たるといえるためには、相手方の意思に反して憲法上保障される重要な利益を侵害したといえなければならない。

 本件事案において、Pはベランダにいる乙の音声を甲に知らせることなく録取している。そのため、このPの捜査は甲の意思に反するものといえる。

 しかし、この甲のFマンションの5階の甲の部屋のベランダというものは、公道などから隔離された場所ではあるとしても、5階の部屋の周囲の部屋のベランダに聞こえることが考えられるのであるから、プライバシーの保護は憲法34条の住居兼に匹敵するほど高くはない。そのため、このような乙の声を録音しても住居に侵入しプライバシー侵害を行ったとは同視できず、憲法上保障される重大な利益を侵害しているとは言えない。

 したがって、捜査①は刑事訴訟法197条1項但書の強制の処分であるとはいえない。

(2)強制の処分でなかったとしても、刑事訴訟法197条1項本文によれば、任意捜査であっても適法なものといえるためには必要な捜査であったといえなければならない。

 必要な捜査であるといえるためには、捜査を行う必要性、緊急性など比較して相手方の利益の侵害の程度が相当程度のものであるといえなければならない。

 本件事案において、乙の声を録音しなければならなかったのは、甲の共犯者について甲の携帯電話の履歴から乙が共犯者ではないかと疑われる状況にあり、甲と乙が詐欺に関与していないか調べる必要があったといえる。しかし、甲の携帯電話の履歴から、甲と乙が関係している様子は分るのであるため、これ以上調査する必要性はなかったのではないかと疑われる。確かに乙は外出していないため、乙の音声を収集することはできないといえるものの、今回の捜査の目的はVへの通話の音声と乙の声が同じであるかを確かめるためでもないことから、乙の声を収集する必要はない。

 一方、甲は、5階のベランダという公道から相当程度隔離された場所におり、警察等の捜査機関に音声が収集されることは期待されないといえるうえ、住居のベランダも住居に準じてプライバシーが保障されるべきであるから、保護の必要もあるといえる。

 そのため、捜査①は必要性、緊急性等に比して法益侵害の程度が大きく、相当程度のものでないということができるため、刑事訴訟法197条に違反する捜査であるといえる。

(3)したがって、Pの乙に対する捜査①は違法である。

2.捜査②の適法性

 Pは本件機器を用いて乙の居室内の音声を収集しているが、このようなPの捜査が適法であるといえるか検討する。

(1)刑事訴訟法197条1項但書の強制の処分に当たるといえるためには、相手方の意思に反して憲法上保障される重大な利益を侵害したといえなければならない。

 本件事案において、Pは甲の承諾を得ずに捜査②を行ってることから、相手方の意思に反するものといえる。また、この乙の居室内の音声は壁に耳を当てても聞こえるものではなく、さらに、憲法34条によって住居権が保障された住居の中の音声であることから、プライバシー保護の必要性は高いといえる。本件機器は、壁に耳を当てても聞こえることのない音声を聞くものであることから、乙の居室に侵入し乙の声を聴いたのと同様の作用を果たす。そのため、Pは本件機器を用いることによって乙の住居に侵入したものといえ、憲法34条上保障される住居権を侵害したものといえる。

 したがって、Pの行為は相手方の意思に反して憲法上保障される重大な利益を侵害するものであることから、刑事訴訟法197条1項但書にいう強制の処分に当たるといえる。

(2)刑事訴訟法197条1項但書によれば、強制の処分を行うためには法律上の根拠がなければならないとされ、法律に基づかなければならないとされる。

 本件事案における捜査②は録音という五感の作用を用いて証拠を認識可能にする捜査であることから、刑事訴訟法218条1項の検証と性質決定することができる。

 刑事訴訟法218条1項によれば、検証を行うためには検証令状が必要であるとされる。しかし、捜査②を行うにあたり、Pは令状を取得していない。

 そのため、捜査②は刑事訴訟法218条1項に基づかない違法なものであるといえる。

設問2

1.本件文書及び本件メモが違法な自白に関連する証拠であること

 本件文書及び本件メモはQが甲に対して起訴猶予処分にするから自白するよう促したことによって得られた自白と関連したものであることから、このことを理由として証拠能力が否定されないか検討する。

(1)刑事訴訟法319条1項によれば、不任意の自白の証拠能力は否定されるものであると規定しているが、このような規定を置いたのは、虚偽の自白により不確かな事実認定が行われることを防止するためであると解される。そのため、虚偽の自白を誘発するような利益誘導を行い、自白を得たといえる場合にはその自白の証拠能力は否定される。

 本件事案において甲はQから自白すれば起訴猶予処分にするといわれているが、この起訴猶予の約束というのは、裁判に進まず甲にとって裁判の負担を避けることになるうえ、刑罰を受けないものであることから、刑罰を避けたい被疑者にとって虚偽の自白を行うだけの利益となっているといえる。また、甲はこのQの発言を期待して自白していることから、この虚偽の自白を誘発しかねないような行為によって自白を得たといえる。

 そのため、甲の自白の証拠能力は否定される。

(2)刑事訴訟法319条1項によれば、虚偽の自白は違法であるため証拠能力が否定されるものではないものの、このような虚偽の自白を誘発しかねないような取り調べを防ぎ将来の虚偽自白の誘発を防止する必要があることから、虚偽自白に関連した証拠についても将来の虚偽自白の誘発の防止の観点から証拠能力が否定される。

 本件事案におけるQの行為は虚偽の自白を誘発しかねないようなものであり、将来においてもこのような虚偽の自白を誘発するような取り調べを防止する必要はあるといえる。また、本件メモや、本件文書は甲の自白によって得られた捜索差押許可状によるものであることから、関連性もあるといえる。確かに甲が自白した後乙が同様の自白をしていることから、関連性を否定することも考えられるものの、乙は甲の自白によって逮捕されており、乙の供述についても甲の自白がなければ得られなかったことから、甲の自白がなければ乙の自白も捜索差し押さえもなかったといえることから、関連性を否定することはできない。

 そのため、本件メモ及び本件文書について証拠能力を否定するのが適切であるといえる。

(3)したがって、本件文書及び本件メモは刑事訴訟法319条1項の虚偽の自白に関連した証拠として証拠能力が否定される。

2.本件文書及び本件メモについて伝聞証拠に当たり証拠能力が否定されるとの主張を行うことも考えられる。

(1)刑事訴訟法320条1項により公判廷外の原供述の内容を証拠とする供述又は書面について証拠能力を否定しているのは、人間の知覚、記憶、叙述という認識過程において類型的に虚偽が入り込みやすく不確かな事実認定が行われる恐れがあるためである。

 伝聞証拠に当たるかは、要証事実との関係で相対的に決まるとされる。

(2)まず、本件文書の電話番号の筆跡や、指紋より本件文書の作成者は丙であり、乙に渡すことにより共謀の内容になっていたことを証明することが考えられる。

 この場合、本件文書の記載内容からではなく、本件文書の状態を証拠としているのであるから、公判廷外の現供述の内容を証拠とする書面に該当するとは言えない。

 したがって、この場合証拠能力は否定されない。

(3)次に、本件メモに、1/5丙からtelなどと記載されていることから丙は乙に1月5日に電話で指示を出すことによって共謀を行ったことを証明することが考えられる。

 この場合、原供述は本件メモの作成者である乙の供述であり、乙の供述内容通りの事実を認定しようとしているのであるから、本件メモを公判廷外の現供述の内容を証拠とする証拠をして使用していると考えらえる。

 そのため、刑事訴訟法321条1項3号の要件を満たさない限り乙の作成した本件メモを証拠とすることはできないが、乙は死亡したりなどしていないため、刑事訴訟法321条1項3号の特信情況にない。

 よってこの場合本件メモの証拠能力が否定される。

(4)さらに、本件メモが乙と丙とに回覧されたため共謀の内容となっていることを証明することが考えられる。しかし、本件メモは乙が作成したものであり、丙に見せたとの事実はないことから、このような事実認定はできない。

 したがって、関連性なしとして証拠能力が否定される。

(5)よって、本件文書に丙の指紋や筆跡があることから丙と乙は本件文書によって共謀を行ったと認定することはできるものの、それ以外の方法による場合、証拠能力が否定される。

以上