平成27年司法試験知的財産法 第2問

平成27年司法試験第二問について書いていきます。

 

著作権法〔第3版〕

著作権法〔第3版〕

  • 作者:中山 信弘
  • 発売日: 2020/06/30
  • メディア: 単行本
 

 

 設問1

1.XはYに対し著作権法112条1項に基づき差し止め請求を主張しようとしているため検討する。

 特許法112条1項に基づき差し止め請求を行うためには、著作権著作者人格権侵害があったといえなければならない。

(1)著作権侵害があるといえるためには、依拠性、類似性、法定利用行為が存在するといえなければならない。

 本件事案において、YはXの作成した本件映像フィルムを用いているため、Xの本件映像フィルムに依拠して作成したということができるうえ、本件映像フィルムを用いていることから、類似性も認められる。

 著作権法27条の翻案権侵害があるといえるためには、原著作物の本質的特徴を直接感得することができる程度に変更したといえなければならない。

 本件映画を作成するにあたり、Yは本件映像フィルムの映像を合成するなどして利用していることから本件映像フィルムの本質的特徴を直接監督できる程度に変更したということができる。

 これに対し、Yは本件映像フィルムは未編集状態であるものの、著作権法16条により映画の著作物の著作者であるYに帰属していたと主張することが考えられる。しかし、映画の著作物の著作者に著作権が帰属するのを認めたのは、著作権の許諾を得やすくするためと、資金回収を容易にするためであることから、完成していない以上未完成部分について映画の著作者に未完成部分の著作権を帰属させる必要はない。

 そのため、Yは本件映像フィルムについて著作権を有しておらず、Xに本件映像フィルムの著作権が帰属しているといえる。

 したがって、XはYに対して、翻案権侵害を理由に著作権法112条に基づく差し止め請求を行うことができる。

(2)著作者人格権侵害があったといえるためには、著作権法19条、20条に規定される侵害行為を行ったといえなければならない。

 著作権法19条1項によれば、著作者の意思に反し氏名を表示しないことを主張する権利を氏名表示権として有しているとされる。本件事案においてYはXに無断で本件映画においてXの氏名を表示させているため、著作権法19条の氏名表示権の侵害を行ったということができる。

 これに対し、Yは著作権法19条3項の公正な慣行に反しないことを主張することが考えられるものの、本件映画に本件映像フィルムを利用したのはXの意思に反して行われたものであるため、公正な慣行に合致しているとも言えない。

 また、著作権法20条1項によれば、意に反する改変があった場合、同一性保持権侵害を主張することができる。

 本件事案において、YはXの意思に反して本件映像フィルムを用いて本件映画を完成させていることから、同一性保持権侵害があったということができる。

 これに対し、Yは著作権法20条2項4号にいうやむを得ない改変であったことを主張することも考えられるが、そのような事情はない。

2.したがって、XはYに対し氏名表示権侵害と同一性保持権侵害を理由として、著作権法112条に基づく差し止め請求を行うことができる。

設問2

1.Zは本件能の著作権著作者人格権が侵害されたことを理由として著作権法112条に基づき本件映画の差し止めを求めているため検討する。

(1)著作権侵害を理由として差し止め請求を行うためには、依拠性、類似性、法定利用行為がなければならない。

 Yは本件能の映像を用いていることから、本件能の著作物に依拠しており、類似性も有していることができるといえる。これに対して、Yは、類似性がないと主張することが考えられる。

 本件映画における能が映った時間は3分間であり、能役者の動作もかろうじて監督できる程度のものであることから、本件能の本質的特徴を直接監督することはできないといえる。したがって類似性を有しておらず、著作権侵害は成立しない。

 また、Yは類似性を有しているとしても、著作権法30条の2第1項により著作権は制限されると主張することが考えられる。著作権法30条の2によれば、録画によって著作物を作成するにあたって分離することが困難であるために付随して利用されている場合には、著作権の制限を主張することができるとされている。

 本件事案において、能の写っている場面は定点撮影された映像の一部であり、分離して利用することも困難であることから、付随対象著作物として著作権法30条の2第1項に基づいて著作権の制限を主張することができる。

(2)著作者人格権のうち同一性保持権侵害があったといえるためには著作権法20条1項の事由がなければならない。

 著作権法20条1項によれば、意に反する改変が行われた場合に同一性保持権侵害があるとされる。本件事案において能の3分間の舞が利用されているため、本件能の同一性保持権が侵害されたということができる。

 これに対して、Yは著作権法20条2項4号のやむを得ない改変に当たり同一性保持権は侵害されていないと主張することが考えられる。

 本件事案において利用された本件能は3分間と短く、定点カメラで撮影されたため偶然撮られたに過ぎないことからすれば、やむを得ない改変に当たるといえる。

 したがって、Zは同一性保持権侵害による差し止め請求を主張することはできない。

以上