平成26年司法試験民法

平成26年司法試験民法を解いていく

 

 

 設問1

1.CはAに対して賃料の不払いを理由として民法541条に基づきCA間の甲建物1階部分の賃貸借契約を解除したことを主張しているが、これに対して、Aは信頼関係不破壊の事情を民法541条但し書きに基づいて主張しているため検討する。

(1)賃貸借契約は当事者間の信頼関係をもとに成立しているのであるから、信頼関係が破壊されていないとの事情がある場合、賃貸借契約の解除を主張することはできないとされる。

 本件事案において、Aは信頼関係不破壊の事情として下線部の事情を主張しているため、どの様な意味を持つか検討する。

(2)賃貸借契約において、賃貸人は賃借人に対して、賃貸の目的物の保存義務を負っているとされる。しかし、本件事案においてCはこのような義務を負っているにもかかわらず、CA間の賃貸借契約において予定されていた免震構造を備えておらず、取り壊しをするなどして免震構造を備えるような対応もしていないため、CはAに対する甲建物の保存義務を怠ったということができる。

 その結果として、Aはこれまで月5万円の損害を被っているということができ、平成20年9月30日からこれまでに合計120万円の損害を被っているということができる。

 そのため、Aは民法415条1項に基づき債務不履行に基づく120万円の損害賠償請求をCに対して行うことができる。

(3)Aはこれと月20万円の賃料を相殺することを主張しているため、Aが平成22年9月から平成22年3月1日まで不払いにしていた賃料は相殺されたといえそうである。

 しかし、AC間での賃貸借契約の賃料について新たな契約が締約されていない以上AC間の賃貸借契約の賃料はこれまで通り月25万円が相当であり、月20万円の6か月分の賃料が相殺されたとは言えない。そのため、少なくとも、平成22年9月30日からの4か月分ほどの賃料しか相殺されていないといえる。

 そのため、Cは2か月分の賃料について未払いであるといえる。

(4)以上のことから、Aは少なくとも4か月分は賃料を支払っているといえるため、債務の不履行の程度は大きくなく、AC間の信頼関係を破壊させるに足りるほどのものではないということができる。

2.そのため、Aは下線部分の事情を信頼関係不破会を基礎づける事情として主張することができる。

設問2

小問(1)

1.FはDに対してAに発生した不法行為に基づく損害賠償請求権の2分の1を相続したとして、不法行為に基づく損害賠償請求として2500万円の支払いを求めているため検討する。

(1)民法709条によれば、故意または過失によって他人の権利又は法律上保護された利益を侵害した場合に損害賠償請求を行うことができるとされている。

 本件事案において、Dはクレーンの操作について必要な注意を払うべき義務を負っているにもかかわらず、注意を怠り、Cを死亡させ、1億円の損害を発生させているため、AはDに対して不法行為に基づく損害賠償請求として、1億円の支払いを請求することができる。

(2)民法889条1項2号によれば、被相続人に子がいない場合被相続人の兄弟姉妹が相続権を有するとされ、相続分は民法900条3号により、4分の1であるとされる。

 本件事案におけるAの相続人はBとFであり、FはAの兄であるため、民法900条3号に基づき4分の1の相続分を有するとされる。そのため、FはCのDに対する損害賠償請求権のうち2500万円について相続したということができる。

(3)したがって、FはDに対して2500万円の損害賠償請求をすることができる。

小問(2)

1.DはBに対して本件和解は錯誤により取り消されるべきであり、民法703条の不当利得に基づく返還請求として8000万円の返還を請求することが考えられる。

(1)民法95条1項2号によれば、表意者が法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反するといえ、この事情が社会通念に照らして重要なものであり、表示されていたといえる場合には取り消しを主張することができるとされている。

 本件事案において、BD間で本件和解が締約されているものの、この内容は、本件胎児が出生することを前提としていたといえる。なぜなら、本来胎児は権利義務の主体とならないため、母親であっても代理をすることができないにもかかわらず、民法886条1項に基づいて相続人と認められることを前提としていたためであるとされているからである。

 また、この内容は、本件和解において本件胎児という文言が使われていたことから、少なくとも胎児の出生を前提とした文言になってたといえる。

 さらに、この胎児の出生というものは本件和解が、本件胎児と被相続人の配偶者であるBに4000万円づつしはらうこととされていたことから、社会通念上重要な内容になっていたものということができる。

 したがって、DはBに対して本件和解の無効を主張することができる。

(2)民法703条によれば、①他人に損失が発生したこと、②これによって利益を受けたこと、③法律上の原因がないこと、④因果関係があることが認められなければならない。

 本件事案において、Dには8000万円の損害が発生しており、一方Bは8000万円のりえきをうけているという関係にある。また、Bの受けた利益の原因である本件和解契約民法95条に基づいて取り消されており、法律上の原因もないといえる。また、Bが利益を受け、Dが損失を被ったのは、本件和解契約に従い8000万円を支払ったためであるため、因果関係もあるといえる。

2.したがって、DはBに対して民法703条に基づき8000万円の返還を請求することができる。

小問(3)

1.BはDに対してAのDに対する不法行為に基づく損害賠償請求権のうち4分の3を相続したとして7500万円の支払いを請求することが考えられる。

(1)AはDに対して、不法行為に基づく損害賠償請求として1億円を請求することができる。

(2)また、Bは民法900条に基づき4分の3の相続分を有しているということができる。

2.そのため、BはDに対して不法行為に基づく損害賠償請求権として7500万円の支払いを請求することができる。

設問3

1.HはKに対して丁土地所有権に基づき丙建物の収去及び丁土地明け渡しを請求しようとしているが、認められるか検討する。

(1)所有権に基づく建物収去土地明け渡し請求を行うためには、土地について所有権を有していることと、土地に対する占有の事実がなければならない。

 本件事案において、①、③の事実からHは丁土地所有権を取得したということができる。また、丙建物の所有権者は⑤の事実からKであるため、Kが丙建物によって丁土地を占有しているということができる。

(2)したがって、HはKに対して丁土地所有権に基づき丙建物の収去及び丁土地明け渡し請求を行うことができる。

(3)そのため、①③⑤の事情はHの請求原因を基礎づける事情として主張することができる。

2.一方、Kは以下のことを反論として主張することが考えられる。

(1)民法252条本文によれば、土地の管理権の行使については過半数によって行われなければならないところ、①、②、④よりHは丁土地の3分の1の持ち分権しか主張できないため、丁土地の管理権の行使である建物収去土地明け渡し請求を行うことはできないと主張することが考えられる。

 しかし、土地所有権に基づく明け渡し請求は民法252条但し書きにいう保存行為に該当するため、このKの抗弁は成り立たない。

(2)また、⑥の事実から、丙建物によって乙土地を占有しているのはCであり、Kではないと反論することが考えらえる。

 確かに、丙建物の所有権はKにあるものの、⑥の事実の通り登記を移転しておらず、Kが丙建物を占有していたという事情もないため、Kが占有者であると認めることはできない。

 そのため、Kは自己が占有者でないと否認する事情として⑥を主張することができる。

3.したがってHはKに対して丙建物の収去及び敷地の明け渡し請求を行うことができないといえる。

以上