事例演習刑事訴訟法 事例7

捜索差押の範囲に関する問題です。

 

事例演習刑事訴訟法 第2版 (法学教室ライブラリィ)

事例演習刑事訴訟法 第2版 (法学教室ライブラリィ)

  • 作者:古江 頼隆
  • 発売日: 2015/03/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

1刑事訴訟法2181項に基づく捜索差し押さえを行うためには、憲法351項、刑事訴訟法2191項に基づき捜索差し押さえの範囲が明示された捜索差押許可状に基づいて行われなければならない。明示されたといえるためには、被疑者、捜査機関のみでなく、裁判官にとって範囲が明確なものであるといえなければならない。

 本件事案において、Kは捜索すべき場所の記載として「X事務所並びに同所に所在する者の身体及び所持品」と記載しているが、刑事訴訟法1項に捜索差し押さえのできる範囲は身体、住居、財産と記載されており、人の身体には場所のプライバシーに包摂されない人格的プライバシーが及んでいるため、場所に対する捜索差押として身体に対する捜索差し押さえを行うことはできない。そのため、「同署に所在する者の身体及び所持品」について被処分者個人ごとに判断されなければならないといえる。

 にもかかわらず、「同署に所在する者」について個人を識別するような形で記載し誰の身体についての捜索を行うか明らかにしていない。よって、裁判官に対して被処分者が誰であるかについて明示を行ったとはいえず、刑事訴訟法219条、憲法35条に違反するということができそうである。

 しかし、捜索差し押さえの場所について所在する者が明らかでなく、他のものが入ってこず、捜索差押の場所と所在する者との記載をしたのみで明示をしたといえるだけの特段の事情のある場合、明示を十分に行ったということができるといえる。

 本件事案において、X事務所にはA国人の犯罪グループがおり、構成員を把握することもできないのであるといった事情が認められる。しかし、X事務所内に犯罪グループ以外の者が立ち入ることを禁止されているという事情もないため、場所の明示とそこに所在する者との記載のみで明治がされたといえるだけの特段の事情はないといえる。

 したがって、例外となる場合にも当たらず、違法な捜索差押許可状が発布されたということができ、Kの捜索差し押さえは違法であるということができる。

2.したがってKの捜索差し押さえは違法である。