平成24年司法試験商法

平成24年商法を解いていきます。

 

 

 設問1

1.会社法329条1項によれば、取締役は株主総会決議によって選任され、会社法309条1項によれば、株主の過半数の決議によって決するとされている。

 本件事案における、22年総会で出席株主の議決権の過半数以上の得票数を得たのは、B,C,D,P,Q,Rである。そのため、会社法309条1項によれば、この6人が選出されることになる。そのため、4名しか選出していないHの判断は会社法329条1項に反する。

 しかし、甲社定款によれば、取締役の数の上限は6名とされており、全員が選出されると、Hを含めた取締役の数が7人となり、定款に違反することになる。そのため、超過した数の部分である一名については、会社法329条3項の補欠の取締役として選出されると解される。この補欠であるか否かは、得票数が最も少ないものであるかによって決定する。なぜなら、株主の意見を忠実に反映させつつ、定款違反にならないようにするべきであると考えられるからである。

 本件事案において7名選出されることとなっていることから、1名は補欠の役員となることになり、最小得票数はBの39万株であるため、Bが補欠の取締役に選出されたことになる。

 そのため、CDPQRを全員取締役として選出し、Bを会社法329条3項の補欠取締役に選出するべきであると考えられる。

 確かに、取締役5名の選出は4名を選出する株主総会の目的となっていないため、違法な判断であるとも考えらえれるが、株主提案の中身は4名選出ではなく、取締役の選出であり、その候補者として甲社提案に4名しか記載されていないにすぎないから、違法であるとの主張は認められない。

2.したがって、22年総会においてB,C,D,Pを選出したHの判断は会社法329条1項に違反する。そのため、22年総会でC,D,P,Q,Rを取締役に選出し、Bを補欠の取締役に選出すべきであったと考えられる。

設問2

小問(1)

1.A及びFは本件貸し付けが違法であるため会社法360条の違法行為の差し止め請求を行って本件貸し付けの効力を否定しようとしているが、この主張が認められるか検討する。

(1)会社法360条1項によれば、6か月前から引き続き株式を有する株主は取締役が株式会社の目的の範囲外の行為や、法令定款違反の行為をする恐れがある場合に取締役に対して差し止めを請求することができるとされている。

 本件事案におけるAは甲社株式を一万株有する株主であり、この株式を6か月以上前から保有していたと考えられることから、会社法360条1項の6か月以上前から、株式を有する株主に当たるということができる。

 また、会社法356条1項2号、356条によれば、取締役が利益相反取引を行う可能性のある場合には、重要な事実を開示し、取締役会の決議を得なければならないとされている。本件事案において、甲社はPが唯一の株主であり取締役となっている会社である乙社に対して15億円の無担保貸し付けをしているが、この貸付を行った場合、乙社は15億円を得ることになり、Pの有する乙社株式の価値が上昇し利益を得るということが認められる。そのため、甲乙間の貸し付けはPの利益となるということができる。また、Pは甲社取締役であることから本件貸し付けは取締役が自己のために会社と取引をしようとしている場合に当たるといえる。

 そのため、本件貸付けは会社法356条1項2号の利益相反取引に当たるということができる。

 また、本件貸し付けを行う取締役会でPは重要な事実である利益相反の事実について説明を行っていないことから会社法356条1項柱書に違反しているということができる。

 また、監査役会設置会社である場合、会社法360条3項によれば、回復することができない損害である場合に限って差し止めを請求することができるとされている。

 本件事案において、本件貸付けが実行された場合、甲社は15億円を失う可能性が高いといえるものの、この損害は他の取締役に対する責任追及によって回復することが可能であるため、回復不可能な損害であるということはできない。

 したがって、会社法360条1項に基づいてAは本件貸付けの差し止めを請求することができない。

(2)会社法385条1項によれば監査役は取締役が会社の目的の範囲外の行為を行う恐れのある場合や、法令定款に違反するおそれのある場合に差し止めを請求することができるとされている。

 本件貸し付けは先述の通り違法な利益相反行為に当たるため、法令に違反する行為であるということができる。

 また、会社法385条1項によれば、著しい損害が生じる恐れがある場合でなければならないとされている。

 本件貸付けが実行された場合甲社資本金30億円の半分である15億円を支出し無担保貸し付けによってこの貸金をすべて失うことが考えられるから、著しい損害が生じる恐れがあると認められる。

 そのため、Fは会社法385条1項に基づいて差し止めを請求することができる。

 2.よって、Aは差し止めを請求することができないものの、Fは差し止めを請求することができる。

小問(2)

1.A及びFは会社法423条1項の損害賠償請求を行うと考えらえるため検討する。

(1)会社法423条1項によれば、取締役が任務懈怠によって会社に損害を与えた場合に損害賠償請求を行うことができるとされている。

 Hは甲社代表取締役であることから、会社法349条4項に基づき会社の業務のいっさいに関する権限を有していることから、違法な貸し付けを行わないよう監視する義務を負っているということができる。本件貸付けは先述の通り違法なものであることから、Hは会社法349条4項の義務に違反したということができる。

 また、会社法423条3項1号によれば、利益相反行為を行った取締役については任務を怠ったと推定されるとされている。本件事案におけるPは利益相反行為を行った取締役であるため、会社法423条3項1号によって任務懈怠が推定される。

 さらに、会社法423条3項3号によれば、利益相反行為について賛成した取締役についても任務懈怠が推定されるとされている。本件事案において、Dは利益相反取引に賛成しているため、会社法423条3項3号によって任務を懈怠したということができる。

 また、この利益相反取引によって甲社は15億円を支出し、その15億円を回収不能にさせていることから、15億円の損害が発生したということができる。

 したがって、会社法423条1項に基づいてHDPにたいして15億円の損害賠償請求をすることができる。

(2)会社法847条1項によれば、6か月以上前から株式を有する株主が責任追及として会社法423条の損害賠償請求を行うためには、監査役設置会社である場合には会社法386条1項1号により監査役に訴えを提起するよう請求し、訴えがない場合に会社法847条3項に基づいて訴えを提起することができるとされている。

  本件事案において、Aは6か月以上前から、株式を有する株主であるため、監査役に対して訴えを提起するよう請求することによって会社法847条1項の株主代表訴訟を提起することができる。

(3)会社法386条1項1号によれば、監査役は会社を代表して損害賠償堰給を行うことができるとされていることから、会社法386条1項1号に基づいて損害賠償請求を行うことができる。

2.以上の通りA及びFはHDPに対して会社法上の責任追及を行うことができる。

設問3

1.議案①について

 会社法831条1項1号によれば、株主総会の招集又は手続きが法令又は定款に違反した場合に株主総会決議の取り消しを主張することができるとされている。

 議案①は否決決議であるため、会社法304条によって再度の提案を行うことができなくなるという不利益を負うことになる。そのため、この不利益を取り除くため、A及びFは会社法831条1項に基づき取り消しを請求することができると主張することが考えられる。

 しかし、否決決議を取り消しても法律関係に変動を与えないことから否決決議は会社法831条1項の決議には当たらないと解されている。

 そのため、A及びFの議案①を取り消す訴えは却下される。

2.議案②について

 会社法831条1項1号によれば、株主総会の招集又は手続きが法令定款に違反する場合に株主総会決議の取り消しを求めることができるとされている。

 会社法354条4項によれば、監査役の選出について監査役は意見を述べることができるとされている。本件事案におけるFは甲社の監査役であるため、監査役の選任議案について意見陳述を行うことができるとされているにもかかわらず、意見陳述の機会が与えられていないことから、会社法345条4項違反の手続きがあったということができ、会社法831条1項1号に基づき取り消しを請求することができるということができる。

 これに対して、会社法831条2項により裁量棄却されるべきであるとの反論が考えられる。しかし、このFの意見陳述の機会の有無によって意見を変えることが考えられることから、重大な違法があるということができ、会社法831条2項によって裁量棄却されないということができる。

3.したがって、議案①の取り消しは認められないものの、議案②の取り消しは認められると考えられる。

以上