平成23年司法試験商法

平成23年司法試験商法を解いていきます。

 

 

 第一.①の点について

1.会社法156条1項によれば、株式会社が株主との合意により自己株を取得するためには、会社法309条2項2号の株主総会の特別決議を経なければならないとされている。また、この自己株の取得が特定の株主からの取得による場合、会社法160条2項によれば、他の株主に対しても自己株の取得を請求することができるという旨の通知をしなければならないとされる。

 本件事案において、甲社は自己株の取得を行うことを定時株主総会において提案し、株主総会特別決議によって自己株の取得を行うことを決定したため、それに基づいて、自己株の取得を行うことができるものと考えられる。また、本件事案において、自己株の取得の効果が発生するのは、会社法184条1項によれば、基準日であるため、資料①の議案によれば、平成22年7月19日が基準日とされていることから、この日に自己株取得の効力が発生するといえる。

2.次に、会社法160条2項によれば、会社法施行規則29条定める株主総会の日の5日前まで自己株取得の際に自己の株式も気和得ることを請求することができるとの通知を発さなければならないとされているものの、本件事案において、甲社はB以外の甲社の株主に対して取得する相手方の株主に自己を加えた者を株主総会の議案とすることを請求することができる旨を通知していない。そのため、本件事案において、甲社は、会社法160条2項に違反して自己株の取得を行ったということができる。

 自己株の取得について違法があった場合、その自己株の取得は無効となることから、本件自己株式取得の効力は発生していないということができる。

3.したがって、Bは甲社に対して自己株式の取得を請求することができないということになる。

第二.②の点について

1.本件事案において、甲社は、会社法202条1項に規定される第三者割り当ての方法でCに自己株の処分を行おうとしているため、検討する。

 会社法202条1項によれば、会社法199条1項に基づき募集事項の決定を行い、自己株の第三者割り当てをすることができるとされているものの、会社法199条3項の有利発行に当たる場合には有利発行を行う必要があることの理由を説明し、株主総会において、会社法309条2項5号の特別決議を行わなければならない。

  有利発行とは、市場価格に比べて特に低い価格による発行のことを指す。本件事案において、甲社はCに対して1株について80パーセントの減額をした価格での自己株の処分を行おうとしているが、この20パーセント減額というものは第三者割り当ての際のプレミアを考慮しても低い価格ということができるため、会社法199条3項の「特に低い価格」に当たるということができる。

 そのため、本件事案において、株主総会の特別決議が必要となるが、本件事案において、出席した議決権の3分の2以上の賛成が得られている。

 また、募集をすることを必要とする理由について説明しなければならないが、本件事案において、甲社は自己株の処分が必要な理由について説明していることから、この会社法199条3項によって要求される説明は尽くしたということができる。

 したがって、本件自己株の処分は適法に行われたということができる。

2.これに対して、この株主総会決議が会社法831条1項によって取り消されるべきであるため、自己株処分の効力は無効であるとの反論が想定される。

 会社法831条1項1号によれば、株主総会の決議の方法に法令又は定款違反があった場合、株主総会決議は取り消されるものとなるとされる。

(1)会社法314条によれば、株主からの質問に対して説明義務を負うとされる。ただし、会社法314条但書によれば、会社法施行規則71条各号規定の理由や、株主総会の目的に関係のない場合、説明することにより株主の共同の利益を害する場合には、説明義務は負わないとされる。本件事案において、甲社は処分価格を市場価格の80%とした根拠の説明を企業秘密を理由として拒んでいるが、この価格算定の根拠というものは、会社の特許などの会社の企業秘密にかかわるものでもないうえ、これを説明することによって会社が損害を被るようなことはないため、会社法14条但書の説明義務を果たさなくともよい例外的な事由に当たらない。

 そのため、甲社は会社法314条本文の説明義務に違反したということが言える。

(2)甲社は、乙社が賛成したことから、会社法309条2項5号の過半数の賛成が得られたとしているが、賛成が得られたと確信したのは乙社が賛成していたことを理由としているため検討する。

 本件事案における乙社は甲社株式を30万株有する株主であり、これ単独によって過半数を超える議決権を有するほどの株式を有していない。そのため、本件事案において乙社が賛成していたからといって、出席した株主の3分の2が賛成しているということは明らかでない。

 したがって、議決権の3分の2以上の賛成が得られたと判断した甲社の判断は会社法309条2項に違反するといえる。

(3)よって、上記の株主総会決議の方法についての違法があることから、会社法831条1項1号によって取り消すことができる。

3.したがって、本件自己株の処分の効力は認められないと考えられる。

第三.③の点について

1.甲社は、本件自己株の処分及び自己株式の取得について損害が発生したことを理由としてCに対し会社法423条1項の責任を追及しようとしていることから、会社法423条1項に基づいて損害賠償請求を行うことができるか検討する。

(1)会社法423条1項によれば、取締役が任務懈怠を行い、会社に対して損害を与えた場合、会社は取締役に対して損害賠償請求をすることができるとされる。

 本件事案において、Cの違法な自己株の取得及び処分によって、9億円の損害が発生していることから、甲社は、Cに対して、9億円の損害賠償請求をすることができる。

(2)したがって、Cに対する会社法423条1項の損害賠償請求が認められる。

2.次に、甲社は、30億円の欠損が生じているにもかかわらず、自己株の取得を行ったことを理由として、会社法461条1項2号の理由があることを理由として、会社法462条1項1号イにいう取締役に当たるCに対して損害賠償請求をすることができるか検討する。

 会社法461条1項2号によれば、帳簿価格の総額を超えて自己株の取得をすることはできないとされており、会社法462条1項1号イによれば、この違法な配当を行った場合、この配当を提案した取締役は交付を受けた金銭等に対する相当額を支払わなければならないとされる。

 本件事案における平成23年3月31日時点の甲社の貸借対照表上30億円の欠損が生じており、甲社の剰余金の額は10億円となっている。にもかかわらず、甲社は、自己株の取得を行い、25億円を支払ったことから、この25億円について会社法461条1項1号に違反する剰余金の配当を行ったということができる。

 さらに、Cは甲社において、自己株の取得を株主総会に提案したものであることから、会社法462条1項1号イの取締役として25億円の損害賠償責任を負う。

3.よって、甲社は、Cに対して会社法462条に基づく損害賠償責任として25億円を、会社法423条1項に基づく損害賠償責任として9億円の損害賠償責任を追及することができる。

以上