平成23年司法試験刑事訴訟法

平成23年刑事訴訟法を解いていきます。

 

 

 設問1

第一逮捕①の適法性

1.刑事訴訟法199条によれば、逮捕状に基づき逮捕するためには、罪を犯したと疑うべき相当の理由があり、刑事訴訟法199条1項但書に規定される犯罪に関するものであり、刑事訴訟規則143条の3に規定される通り逮捕の必要性が認められなければならない。

 本件事案において、甲はLコンビニで強盗を犯したという疑いがあり、被害にあったコンビニ店員Wも強盗を行ったのは甲で間違いないという供述をしていることから、罪を犯したと疑うべき相当の理由はあるということができる。

 また、強盗罪は刑事訴訟法199条1項但書に規定される犯罪である。

 さらに、逮捕の必要性が認められるためには、被疑者が逃亡するおそれがなく、かつ罪証隠滅の恐れがない等の事実が明らかでなければならない。本件事案における甲は、強盗という重大犯罪を犯したものであり、重大な犯罪を逃れるために逃走したり証拠隠滅を行う可能性が考えられることから、逃亡や罪証隠滅のおそれがあるということができる。

 そのため、刑事訴訟法199条1項の要件を満たすということができる。

 また、これに基づき逮捕状が発付されていることから、逮捕①は適法なものであったということができる。

2.刑事訴訟法207条1項に基づき勾留を行うためには、刑事訴訟法60条1項柱書の罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があり、刑事訴訟法60条1項各号のいずれかの事由があり、刑事訴訟法60条3項に規定される犯罪ではなく、勾留の必要性がなければならない。また、被疑者が勾留されていなければならない。

 本件事案において、甲は逮捕されていることが認められ、甲はLコンビニで強盗事件を行ったとの嫌疑が高い状態にある。また、甲には前記の通り罪証隠滅の恐れがあり、逃亡すると疑うに足りる事情もあるため、刑事訴訟法60条1項2号3号の要件を満たす。

 さらに、強盗罪は、刑事訴訟法60条3項に規定される犯罪より重いものであるから、刑事訴訟法60条3項の要件も満たす。

 勾留の必要性とは逃亡及び罪証隠滅の具体的可能性を指すが、本件事案において甲はメールに交友関係の記録などを残していたことから、これらのメールを消去し罪証隠滅を図ることが可能であることから、罪証隠滅の具体的可能性が存在するということができる。

 したがって、甲は刑事訴訟法207条1項に基づき勾留状によって適法に勾留されたということができる。

3.別件逮捕勾留とは、もっぱら逮捕勾留の要件のそろっていない本件について取り調べる目的で逮捕勾留の要件のそろっている別件で逮捕勾留を行うことを指す。この別件逮捕勾留は刑事訴訟法208条1項の厳格な勾留期間の定めを別の犯罪の嫌疑によって不当に潜脱するものであることから、別件逮捕勾留は違法であるとされている。

 本件事案において、警察官は甲を強盗事件で逮捕勾留しているが、この事件は目撃情報以外の情報がなく他の証拠にも乏しいものであった事件である。さらに、逮捕勾留後の捜索差押において、甲の携帯電話を差押え交友関係を調べているものの、これは事実上本件である殺人事件についての捜索差押になっている。さらに、勾留して4日後にはすぐに余罪についての取り調べに入っていることから、強盗事件について逮捕勾留する必要はなく、もっぱら殺人について取り調べを行う意図があったのではないかと推察される。しかし、一応強盗事件について取り調べは行われており、殺人事件については甲が自発的に話したことから取り調べが行われていることから、もっぱら本件についての取り調べの目的があったということはできない。

 したがって、逮捕①は違法な別件逮捕勾留であるということはできない。

第二逮捕②の適法性

1.刑事訴訟法212条1項の現行犯逮捕によって刑事訴訟法213条に規定される通りの無令状の逮捕を行うためには、現に犯罪を行ったということが認められるとともに、刑事訴訟法217条に規定される通り、逮捕の必要性が認められなければならない。

 本件事案において、乙は、警察官Qが尾行している最中に万引きを行ったことから、現に犯罪を行ったということが認められる。さらに、窃盗の罪は刑事訴訟法217条に規定される罪より重く、乙が逃亡するおそれがあることから、逮捕の必要性はあったということができる。

 したがって、刑事訴訟法213条に基づき乙を現行犯逮捕することができる。

2.刑事訴訟法206条1項に基づき勾留を行うためには、刑事訴訟法60条の要件を満たし、勾留の必要性が認められなければならない。

 本件事案において、乙は現行犯逮捕されたのであることから、罪を犯したと疑うに足りる相当な理由はある。また、窃盗というものは重い犯罪であり、この罪を逃れるために逃亡したり証拠隠滅を行う可能性があることから、刑事訴訟法60条1項2号3号の罪証隠滅の恐れと逃亡のおそれが認められる。さらに、乙の自宅には家計簿などの乙の経済状況に関する書類があり、これらの窃盗の背景事情に関する証拠について証拠隠滅を行うことが可能であることから、罪証隠滅の具体的可能性があり、勾留の必要性が認められる。

 したがって、乙を刑事訴訟法206条1項に基づき勾留することができる。

3.もっぱら証拠のそろっていない本件について取り調べる目的で逮捕勾留の要件のそろっている別件について逮捕勾留を行うことは違法な別件逮捕別件交流に当たるとされている。

 本件事案において、乙の窃盗の事実は、乙が被害弁償を行うことができるため公判請求をして罪に問う必要がないものであった。また、勾留されてから二日後に殺人事件についての取り調べを行い、甲と同様に殺人事件の証拠について捜索差し押さえを行っていることから、もっぱら本件について取り調べる目的があったと推察される。

 したがって、乙に対して行われた逮捕②は別件逮捕別件交流ということができ、刑事訴訟法208条1項の厳格な勾留期間の定めを潜脱する違法な逮捕勾留であったということが認められる。

4.したがって、逮捕②は違法な逮捕勾留であったということができる。

第三.逮捕③

 1.刑事訴訟法199条1項に基づいて逮捕をするためには、刑事訴訟法199条1項の要件を満たさなければならないが、本件事案において捜査報告書は作成されていないものの、甲は殺人について自白しており、甲に対する犯罪の嫌疑も高いものといえる。さらに殺人は重大犯罪であり、甲が逃亡する可能性もあることから、逮捕の必要性も認められる。

 したがって、刑事訴訟法199条1項に基づき甲を逮捕することができる。

2.刑事訴訟法206条1項に基づき勾留を行うためには、刑事訴訟法60条の要件と勾留の必要性が認められなければならない。

 本件事案において、甲には殺人罪の嫌疑があるため罪を犯したと疑うに足りる相当な理由はあるということができる。また、重大犯罪であることから、罪証隠滅や逃走を行う可能性が高いため、刑事訴訟法60条1項2号3号の要件を満たす。さらに、隠された証拠をさらに隠す可能性が高いため、証拠隠滅の具体的可能性があり、勾留の必要性が認められる。

 したがって、刑事訴訟法206条1項に基づき甲を勾留することができる。

3.刑事訴訟法208条2項によれば、勾留延長を行うためには、延長しなければならないやむを得ない事情がなければならないが、甲は殺人事件について一切黙秘しており、さらなる証拠が得られる可能性がなかったことからやむを得ない事情があったと認めることはできない。

 したがって、勾留の延長については刑事訴訟法208条2項に違反するということができる。

第四.逮捕④

1.刑事訴訟法199条1項に基づいて逮捕をするためには、刑事訴訟法199条1項の要件と逮捕の必要性が認められなければならないとされている。

 本件事案において乙は、殺人事件について逮捕②の段階から黙秘しており、乙が殺人事件に関与したと疑うに足りる新たな証拠はない。したがって、罪を犯したと疑うに足りる相当の事情はない。

 そのため、乙に対する逮捕は刑事訴訟法199条に基づかない違法なものであるということができる。

2.そのため、逮捕④に引き続く勾留も勾留延長も違法なものであるということができる。

設問2

第一資料1について

1.刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠に当たるということが認められるためには、公判廷外の原供述の内容たる事実を証拠とする証拠のことを指し、伝聞証拠に当たるか否かは要証事実との関係で相対的に決まる。

 本件事案において、検察官は殺人及び死体遺棄の犯罪事実の存在を立証趣旨としているため、要証事実は甲及び乙のVに対する殺人事件の存在である。資料1によれば、Bがメールに甲と乙がVに対する殺人事件を起こした旨の記載をしており、このメールの文言から殺人事件の存在について証明しようとしているため、資料1は伝聞証拠に当たるということができる。

2.伝聞証拠であっても、刑事訴訟法321条1項3号によれば、伝聞例外として証拠能力が認められるためには、供述者の死亡といった供述不能の事実があり、証拠として必要なものであり、絶対的特信情況の下書かれたといえなければならない。

 本件事案においてBは死亡しているため供述不能の状態にあるということができる。さらに、これ以外の証拠がないことから必要なものであるということができる。しかし、資料1のメールは、Bが付き合いのあるA女に対して送ったメールであるものの、絶対的特信情況のもの描かれたものということはできないため、刑事訴訟法321条1項3号の要件を満たさない。

3.したがって、資料1に証拠能力は認められない。

第二資料2について

1.刑事訴訟法218条1項に基づき捜索差押が行われた場合であったとしても、要件を満たしていない本件についての捜索を行う目的で、別件の捜索差押許可状に基づき捜索差し押さえを行った場合、別件捜索差押として違法となるとされている。

 本件事案において資料2を発見したのは甲に対する強盗事件についての捜索差押が行われている段階であった。しかし、これは強盗事件に関して甲の交友関係を調べるために行われた際に発見されたものであり、捜索差押の要件のそろっていない殺人についてもっぱら調べるために行われたということはできない。

 したがって、別件捜索差押ということはできない。

2.刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠に当たるということが言えるためには、公判廷外の原供述の内容を証拠とする証拠であると認められなければならない。

 本件事案において、検察官はメールの交信記録の存在と内容を立証趣旨としているが、これは共謀の事実を要証事実とするものであると考えられる。検察官はこのメールの存在自体から共謀の事実を立証しようとしていることから、メールの内容となっている事実からその内容たる事実についての証拠にしようとしていると認めることはできない。

 したがって、資料2は刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠には当たらない。

3.そのため、資料2について証拠能力が認められる。

以上