平成31年司法試験予備試験刑法

司法試験予備試験刑法を解いていきます。

 

捜査実例中心 刑法各論解説

捜査実例中心 刑法各論解説

 

 

 1.背任罪の成否

 甲は、Vが登記名義人である本件土地に抵当権を設定してVのために1500万円を借りてほしいとの依頼を受けたにもかかわらず、本件土地を売却しているが、この甲の行為が刑法247条の背任罪に当たらないか検討する。

(1)刑法247条によれば、背任罪が成立するためには、他人の事務処理者であることと、任務違背行為を行ったことと、本人への財産的損害の発生と、図利加害目的が認められなければならない。

 本件事案において、甲はVとの間で委任契約を締約しているが、この内容は本件土地に抵当権を設定してVのために1500万円を借りるというものであり、本件土地について甲へ占有権を移転させるものではなかったということができる。そのため、甲はVの事務処理を任されていたということができる。

 甲は、このように本件土地に抵当権を設定することを依頼されていたのであるが、抵当権設定登記を行わず、本件土地を売却している。そのため、Vの任務に背いたということができる。

 甲は、本件土地の売却を2000万円で行っているが、本件土地の時価は3000万円であることから、Vの財産が1000万円減少し、Vに財産的損害が発生しているということができる。

 図利加害目的とは本人のためにする意思のないことを裏側から規定したものであると解されている。甲がこのように任務違背行為を行ったのは、売却代金を自己の借金の返済に充てるためであったことから、自己の利益を図る目的があったといえ、図利加害目的がある。

(2)したがって、甲には刑法247条の背任罪が成立する。

2.殺人罪の成否

 甲はVの首を絞め海中に投棄することによって、Vを死亡させているが、この行為について刑法199条の殺人罪が成立するか検討する。

(1)刑法199条の殺人罪が成立するためには、人を殺したといえなければならない。

 人を殺したか否かは行為の危険性をもとに判断される。本件事案において、甲はVの首を絞め海中に投棄しているが、この行為は首を絞めること又は海中に投棄して溺死させることができるものであるから、人を死亡させる危険の高いものということができる。

 殺人罪が成立するためには行為と結果との間に因果関係が認められなければならない。因果関係が認められるか否かは実行行為の危険性からその結果が発生したといえるかによって判断される。本件事案において、Vは溺死しているが、この溺死の結果は甲が首を絞め海中に投棄したために発生していることから、甲の行為の危険性が結果に現実化したということができる。

 したがって、甲は殺人罪に該当する行為を行ったということができる。

(2)これに対して、甲は、Vの首を絞めた時点で死亡したと思っていることから、因果関係について故意がなく刑法38条1項により故意阻却がされると主張することが考えられる。

 刑法38条1項の罪を犯す意思とは違法な構成要件事実についての認識を指す。本件事案において、甲はVが首を絞められたことにより死亡していたと認識しているものの、甲の行為によってVが死亡したとの因果関係について認識を有していることに変わりはないことから、甲が因果関係についての認識を書いていたということはできない。

 したがって、故意阻却はされない。

3.死体遺棄罪の成否

 甲はVを海中に投棄しているが、この行為が刑法190条の死体遺棄罪に該当するか検討する。

(1)死体遺棄罪が成立するためには、死体を遺棄したということが言えなければならない。

 甲がVを海中に投棄した時点でVは死亡していないことから、死体を遺棄したということはできない。また、甲は病者であるとの認識を欠いていることから、刑法38条1項によって、保護責任者遺棄罪も成立しない。さらに、死体遺棄罪と保護責任者遺棄罪の保護法益は死体の扱いによる社会風紀と生命の危険であることから全く別のものとなっているため、構成要件的付合もなく、刑法38条2項により死体遺棄罪の範囲で保護責任者遺棄罪が成立することもない。

 しかし、Vの遺体を海中に投棄したまま回収せずそのままにすることにより甲は死体を遺棄したのであるから、甲には刑法190条の殺人罪が成立する。

(2)したがって、甲には死体遺棄罪が成立する。

4.罪数

 よって甲には背任罪と殺人罪死体遺棄罪が成立し、刑法45条により併合罪となる。