平成30年司法試験予備試験憲法

平成30年司法試験予備試験憲法を解いていきます。

 

憲法の地図: 条文と判例から学ぶ

憲法の地図: 条文と判例から学ぶ

  • 作者:大島 義則
  • 発売日: 2016/04/27
  • メディア: 単行本
 

 

 1.法律上の争訟性

 まず、Xの提起しようとしている処分2の取り消しの訴えが法律上の争訟に該当するか検討する。

 裁判所法3条1項によれば、裁判所が審判件を有するのは法律上の争訟に限定される。法律上の争訟に該当するか否かは、権利義務又は法律上の地位について、法律を用いて終局的に解決可能なものであると認められなければならない。

 本件事案における処分2は、地方自治法135条1項4号に基づく除名の懲罰に基づく処分であるが、この処分というものは市議会議員の地位を奪うものであることから、法律上の地位に関するものであるということができる。また、この問題は地方自治法135条1項4号の要件に該当するか判断することによって終局的に解決可能であることが認められる。そのため、除名の懲罰は議会の内部的行為であるため審判の対象とならないと主張することはできない。

 したがって、処分2の取り消しの訴えは法律上の争訟に該当するということができる。

2.処分1の合憲性

 Xは処分1が憲法19条に違反することを理由として処分2が違法であると主張しようとしているが、この主張が認められるか検討する。

(1)憲法19条によれば、思想及び良心の自由は侵してはならないとされていることから、思想及び良心の自由は絶対的に保障されている。

 本件事案において、Xが処分1を受けることによって、陳謝文を公開の議場で朗読させられることになるため、Xの信条に反した行為をさせられることになり思想信条の自由を間接的に侵害すると主張することが考えられる。しかし、単に事実を告げ陳謝の意を表明することは信条に含まれないと解されることから、処分1によって、Xの思想、信条の自由が害されることはない。

(2)したがって、処分1は憲法19条に違反しない。

3.処分2の合憲性

 Xは処分2による除名は憲法21条1項により保証された議員としての活動の自由を侵害することから、処分2は憲法21条1項に違反し無効であると主張することが考えられる。

(1)憲法21条1項によれば、表現の自由が保障されているものの、この表現の自由が保障されるに至ったのは表現というものは民主主義的政治を行う上で必要不可欠なものであったからであるため、このような民主主義的活動を行うことというものも議員活動の自由として憲法21条1項によって保障されている。

 本件事案における処分2はXを議員でなくするのであるから議員活動の自由を侵害する行為であるということができる。

 そのため、除名処分自体が合憲であるということができるためには、除名処分についての規定が政治活動の公平性を害するなどやむを得ない必要のあるものであり、それに合理的な理由が認められなければならない。

 本件事案においてXは地方自治法133条の理由があり、それによって、地方自治法135条1項2号により陳謝を命じられたものの陳謝しなかったことから地方自治法135条1項4号に基づき除名処分を受けている。この除名処分となった理由はXが教科書採択の過程でDが市教委に圧力をかけたと虚偽の事実の告発を行ったからである。このような虚偽の事実の告発というものは議員の名誉を棄損するばかりでなく、虚偽の事実に基づき議会活動が行われることにもつながるのであるから政治活動の公正を図るやむを得ない事情があるということができる。また、その手段として除名することも合理的なものであるといえる。

(2)しかし、Xは新聞社の記者であるCからの情報提供を受けてこのような事実の告発に至っているとの事情がある。

 確かに、地方自治法133条の侮辱に関して文言通り解釈したのであれば、議員としての政治活動を委縮させることになることから、憲法21条1項の精神に照らし、限定的に解釈しなければならない。

 そうすると、地方自治法133条の侮辱について、もっぱら公益を図る目的で、公益に関する事実について、真実であると信じるにつき相当の理由の元行ったという事情があれば地方自治法133条の侮辱に該当しないと解釈すべきである。

 Xは新聞記者の情報提供をもとに教科書採択という公益に関する事実について、議会で調査するとの公共目的のもと発言したことが認められる。確かに、Xの主張するように新聞記者の情報をもとに公表したのであるものの、X自身は調査を行っておらず、XがCの情報のみをもとにDが教科書採択について圧力をかけたということのついて信用したことについて相当の理由が認められない。

(3)したがって、処分2を行うこと自体は憲法21条1項に違反せず合憲であるということができる。さらに、処分2を行うことは違法でないということができる。

 したがって、処分2は憲法21条1項に違反しない。