平成30年司法試験予備試験商法

平成30年司法試験予備試験商法の問題を解いていく。

 

商法判例集〔第8版〕

商法判例集〔第8版〕

  • 発売日: 2020/10/06
  • メディア: 単行本
 

 

 設問1

1.会社法298条1項などの規定によっても、株主の提案した議題について招集通知に記載しなければならない義務がないように読める。しかし、会社法303条1項によれば、株主による議題提案が認められていることから、株主による議題提案権が行使された際には株主総会の招集通知に株主提案の議題を記載しなければならないと考えられる。

 そのため、もし、株主による議題提案権が行使されているにもかかわらず招集通知に議題を記載しなかった場合その招集通知は会社法831条1項1号により株主総会の開催の招集方法についての違法に当たると解される。

 本件事案において、株主Dは監査等委員である取締役の選任を行おうとしているため、株主提案を行っている。会社法303条によれば、適法な株主提案であるということが言えるためには、総株主の議決権の100分の1以上の株式を有しており、6か月前から株式を有していると認められなければならないが、Dは1万株を平成24年から平成29年まで継続して保有していることから、この要件を満たす。

 そのため、招集通知を発する際にはDの提案した議題について記載しなければならないものの、本件事案において甲社は議題を記載していない。

 したがって、甲社のこのような行為は違法であるということができる。

2.会社法304条によれば、株主は株主総会の目的である事項について議案を提案することができる。この規定によれば、招集通知に記載しなければならないとされるものではなく、さらに、会社法298条1項にも記載されていないため、議案については招集通知に記載する必要はないと解される。

 本件事案において、甲社はDの議案について招集通知に記載していないものの、会社法上違法なものであるということはできない。

設問2

1.会社法423条1項によれば、取締役に任務懈怠行為があり、それによって損害が発生したということが認められる場合には損害賠償請求を行うことができるとされている。特に、会社法356条1項の利益相反行為があった場合、任務懈怠が認められる。

(1)会社法356条1項2号によれば、取締役が自己または第三者のため、株式会社と取引をする場合には利益相反となるため、重要な事実を開示し、株主総会の承認を得なければならないとされる。また、会社法399条の13第8号によれば、利益相反取引の承認は取締役会が行わなければならないとされる。

 本件事案におけるBは甲社取締役である一方で全部の持ち分を有する乙社の代表取締役でもあったことが認められる。そのため、乙社の利益はそのままBの利益となる関係が認められる。本件事案において、Bは甲社との間で本件土地の賃貸借契約を相場の2倍の値段で締約しているが、これによって、Bは乙社を介して利益を得ることができる。一方Bは甲社取締役でもあるため、甲社に対して善管注意義務を追っているということも認められる。そのため、Bは本件土地の賃貸借契約を締約することによって利益相反行為を行ったということができる。また、この際取締役会における承認を経ていないことから、会社法399条の13第8号に違反しているということが認められる。

 したがって、会社法423条1項の任務懈怠行為を行ったということが認められる。

(2)また、このような取締役Bの行為によって3600万円の損害が発生していることから、会社法423条1項のに基づく損害賠償請求を行うことができると解される。

2.しかし、Bは責任限定契約を締約していることから会社法425条に基づき限定された責任の範囲内でしか損害賠償義務を負わないと主張することが考えられる。

(1)会社法425条1項1号ロによれば、取締役の報酬の4年分については責任限定契約にがあったとしても損害賠償責任を負わなければならないとされる。

 本件事案におけるBは代表取締役以外の取締役であるため、4年分の報酬分については損害賠償責任を負わなければならないと解される。しかし、会社法426条1項によれば、責任限定を行うためには、定款に責任限定が記載されていなければならず、善意かつ重大な違法でない場合に該当することが認められなければならない。

 本件事案において、Bの責任限定について定款の定めがあり責任限定の範囲も会社法425条1項1号に規定される通りの額であるとされていることから、Bとの間の責任限定の定めは適法なものということができる。また、Bの年間の報酬は600万円であってことから、2400万円の範囲について損害賠償責任を負う。

 したがって、Bは後者に対して2400万円の損害賠償責任を負う。