平成30年司法試験予備試験刑法

平成30年司法試験予備試験刑法を解いていきます。

 

刑法総論の悩みどころ (法学教室LIBRARY)

刑法総論の悩みどころ (法学教室LIBRARY)

  • 作者:隆, 橋爪
  • 発売日: 2020/03/11
  • メディア: 単行本
 

 

 1.横領罪の成否

 甲は投資会社設立のための現金500万円をVより預かったにもかかわらず、同現金を乙からの借金の返済に充てているが、このような甲の行為が刑法252条1項の横領罪に該当するか検討する。

(1)横領罪が成立するためには、自己の占有する他人の財物に当たること、横領行為を行うことが認められなければならない。

 本件事案におけるVから預かった現金500万円は本来Vの所有物であるため、甲の占有する他人の財物に当たるということができる。

 横領行為とは不法領得の意思の実現であることから、所有者でなければすることのできない使用、収益、処分を行うことを指す。本件事案において、甲はVの現金を自己の借金の弁済にあてているがこれは、本来V西化することのできない処分行為であることから、甲は所有者でなければすることのできない処分を行ったということができるため、横領行為を行ったということができる。

(2)したがって、甲には横領罪が成立する。

2.強盗罪の成否

 甲は乙とともにVのもとに向かい、サバイバルナイフを用いて脅すことにより500万円の債権放棄書を書かせているが、このような行為が刑法60条の共同正犯による刑法236条2項の強盗罪に該当するか検討する。

(1)刑法60条によれば、共同正犯が成立するためには、共同して犯罪の実行を行ったということが認められなければならない。本件事案において、甲と乙はともにVに対する脅迫を行っていることから、刑法60条の共同正犯に当たるということができる。

(2)刑法236条2項の強盗罪が成立するためには、相手方の意思を制圧する暴行または脅迫を行い、財産的利益を得たということが認められなければならない。

 本件事案において、甲は乙とともにサバイバルナイフをもってVに示し、Vの喉元に刃を突き付けているが、これは、Vに甲、乙から刺殺されるという畏怖を生じさせるものであり、これによって、甲乙の要求を呑み念書を書かなければならないと思い込ませるものであることから、相手方の反抗を抑圧する程度の者であったということができる。

 さらに、これによってVは念書を書いているが、この念書というものは、債権放棄の意思を表示させるものであることから、債務の免除という財産的利益を与えるものであるということができる。

 したがって、刑法236条2項の強盗罪が成立する。

(3)よって、甲と乙には刑法60条の共同正犯による強盗罪が成立する。

3.強盗罪の成否

 乙は、甲から連れられてV方から出た後、再びV方に戻り現金10万円をVの財布から抜き取っているが、このような乙の行為に甲との共同正犯による強盗罪が成立するか検討する。

(1)刑法60条の共同正犯が成立するためには共同して犯罪を実行したということが言えなければならない。このように、共同正犯を処罰することにしているのは正犯者と因果を共有したためであるとされる。そのため、共同正犯が終了したということが言えるためには、心理的にも物理的にも因果が切断されたということが言えなければならない。

 本件事案において、甲は乙に対してVに手を出さないようにするよう言い、乙をV方から連れ出していることから、心理的にも物理的にもV方から連れ出して以降のことについては因果性が切断されている。

 そのため、乙が再びV方に戻って以降の行為について共同正犯は成立しない。

(2)刑法236条1項の強盗罪が成立するためには相手方の意思を制圧する程度の暴行または脅迫を加え財物の占有を移転させたということが認められなければならない。

 一度脅迫が行われた後に財物を奪取したとしても、その後の行為について暴行脅迫がなければならないとされる。本件事案において、乙は暴行も脅迫も行わずに10万円を奪取していることから、刑法236条1項にいう暴行脅迫はなかったということができる。

 したがって、10万円をVの意思に反し費消するとの目的のもと、自己の占有下に移転させたとして窃盗罪のみが成立する。

(3)したがって、乙には窃盗罪のみが成立する。

4.よって、甲には横領罪と乙との共同正犯による強盗罪が成立し刑法45条により併合罪となる。また、乙には甲との共同正犯による強盗罪と窃盗罪の単独正犯が成立し、刑法45条により併合罪となる。