平成22年司法試験刑法

平成22年司法試験刑法を解いていきます。

 

 

 第一.甲の罪責

1.甲はVがアレルギー反応を起こして苦しんでいるにもかかわらず、看護師を読んだりすることを避け、午後3時まで適切な治療を受けさせないようにしているが、このような甲の行為が刑法199条の殺人罪に該当するか検討する。

(1)刑法199条の殺人罪が不作為の形式によって成立するためには、行為者に作為義務が認められ、作為義務に違反したことと、作為可能性があったことが認められなければならず、これによって人の死亡が発生したということが言えなければならない。

(2)作為義務があるかということは法令上認められた作為義務だけでなく、先行行為があるか、排他的支配に入れているかという観点から判断される。

 本件事案において、甲は確かにVのアレルギー反応の発生に関与していないものの、甲はVの妻であるため、民法752条上扶助協力義務があることから、このような場面においても夫であるVを助けるべき義務を法律上負っており、更に、Vの病室には甲のみがおり、看護師などもいなかったことから、甲のみがVを助けることのできる状況にあったということができ、Vの死亡についての因果の流れを排他的に支配していたということができる。

 そのため、甲はVを究明すべき作為義務を負っていたということができる。

(2)また、病院内で看護師等もいることから、甲がVの救命を求めることも簡単であり、作為可能性があったということができる。

 にもかかわらず、このような救命を求めることも行っていないことから、作為可能性があったにもかかわらず、作為義務に違反していたということが認められる。

(3)また、このような甲の不作為によってVが死亡している。

(4)したがって、甲には不作為による殺人罪が成立する。

2.よって甲には殺人罪一罪が成立する。

第二.乙の罪責

1.乙は、2時半にVのもとを訪ねなかったことによって、Vのアレルギー反応の発見を遅れさせ、Vを死亡させているが、このような乙の行為が刑法211条の業務上過失致死罪に該当するか検討する。

(1)業務上過失致死罪が成立するためには、①業務上の行為であることと、②過失によって、人を死亡させたということが認められなければならない。

(2)業務上のものであるということが言えるためには、社会生活上の地位に基づき反復継続して行う人を死傷させる行為であるということが認められなければならない。

 本件事案における乙の看護活動というものは、患者の不具合を見逃したら人を死亡させる危険のあるものであり、さらに、看護師という社会生活上の地位に基づいて行われていることが認められる。

 したがって、乙の看護活動は社会生活上の地位に基づいて行われる反復継続した人を死傷させる危険のある行為であるということができる。

(3)過失があったということができるためには、注意義務違反があったということが認められなければならないが、注意義務違反が認められるためには、予見可能性を前提とした結果回避義務違反が認められなければならない。

 本件事案において、乙がVの容体を確認しなければVが発熱が原因で死亡する危険があったうえ、その他の原因を発見しなければVが死亡する危険はあったということができる。そのため、Vのアレルギーによる死亡について予見可能性があったということができる。

 そのため、乙には30分ごとのVへの訪問を行うべき結果回避義務を負っていたということができる。にもかかわらず、午後2時30分のVへの訪問を怠り、Vのアレルギー反応を見逃している。

 そのため、乙には過失があったということができる。

(4)因果関係があるというためには実行行為の危険性が結果に現実化したという関係になければならない。

 本件事案において、午後2時20分までにVの容体の変化に気づけていればVを救命できる可能性があったといえるものの、これ以降であれば、救命できる可能性が合理的疑いを超える程度に存在していたということはできない。そのため、Vの容体の変化を午後2時30分に見逃していたとしてもVが死亡したと合理的な疑いを超えることはできない。

 したがって、危険の現実化の前提となる条件関係が認められない。

(5)よって、午後2時30分にVを見逃した乙の行為は刑法211条の業務上過失致死罪に該当しない。

2.次に、乙は、甲に薬品を処方するにあたって、D薬かE薬かを確認することなく処方したため、Vにアレルギー反応を発生させ死亡させている。そのため、このような乙の行為が刑法211条の業務上過失致死罪に該当するか検討する。

(1)刑法211条により業務上過失致死罪が成立するためには、業務上のものであることと、過失による人の死亡が認められなければならない。

(2)業務上といえるためには社会生活上の地位に基づいて反復継続して行われる人を死亡させる危険のある行為であると認められなければならない。本件事案における乙のラベルの確認業務は看護師の看護活動に関連したものであり、確認を怠ると人を死亡させる危険があるため、乙の社会生活上の地位に基づいて行われる反復継続したものであるということができる。

(3)過失が認められるためには予見可能性を前提とした結果回避義務に違反したということが認められなければならない。

 本件事案において、薬品のラベルの確認を怠ると人を死亡させる危険があるということについてVにE薬を処方してはならないと聞かされていた乙には予見可能であったということができるため、乙には予見可能性があったということができる。

 そのため、乙には処方する薬品のラベルを確認する結果回避義務を負っていたということができる。にもかかわらず、薬剤師の丙が確認していると思い込みこの義務を怠ったということができる。そのため、乙には結果回避義務違反があるということができる。

 また、これについて丙を信頼すべき信頼の原則が主張されるものの、処方する薬品のラベルを確認する作業は乙と丙の両方が負っていたと考えられることから、信頼の原則により、乙の結果回避義務の程度が弱まることはない。

 したがって、乙には過失が認められる。

(4)また、この過失によって、Vが死亡していることから、因果関係と人の死亡が認められる。

(5)よって、乙には業務上過失致死罪が成立する。

3.よって、乙は業務上過失致死罪の罪責を負う。

第三.丙の罪責

1.丙はA病院の薬剤部の薬剤師として薬品のラベルを確認する義務を業務上追っているにもかかわらず、これを怠り、Vを死亡させているが、このような丙の行為が刑法211条の業務上過失致死罪に該当するか検討する。

(1)刑法211条の業務上過失致死罪が成立するためには、業務上のものであることと、過失によって人を死亡させたということが認められなければならない。

(2)業務上のものであると認められるためには社会生活上反復継続して行われる人を死亡させる危険のある行為であるということが認められなければならない。本件事案における薬品のラベルの確認は薬剤師である丙が薬剤師として負っており、さらに、薬品のラベルの確認業務を怠ると人を死亡させる危険がある。そのため、業務上のものであるということが認められる。

(3)過失があったということが言えるためには、予見可能性を前提とした結果回避義務違反行為が認められなければならない。

 本件事案において、丙が処方する薬品を間違えたら人が死亡するということを予見することは可能であったということができる。

 そのため、丙は薬品のラベルを確認し適切な薬品が処方されている確認する義務を負っていたということが認められる。にもかかわらず、このような作業を怠り間違えて、D薬を処方していることから、結果回避義務違反が認められる。

(4)これによって、Vが死亡していることから、因果関係と人の死亡結果が認められる。

(5)よって、丙には業務上過失致死罪が成立する。

2.丙には業務上過失致死罪一罪が成立する。