司法試験平成22年刑事訴訟法

平成22年司法試験刑事訴訟法を解いていきます。

 この量を2時間で解ききることは何かを大幅に削らない限り無理でしょう。

 

 設問1

第一.捜査①の適法性

1.本件事案において、Pは公道上のゴミ袋の中からメモ片を発見し押収しているが、このようなPの行為が適法な捜査であるといえるか検討する。

(1)刑事訴訟法197条1項但書の強制の処分であるということができるためには、相手方の意思に反して憲法上保障された重大な権利を侵害したということが認められなければならない。

 本件事案において、Pは公道上のゴミ袋の中身からメモ片を発見しているが、黄道上のゴミ袋の中身については所有者のプライバシー権は放棄されていると考えられていることから、憲法上保障された重大なプライバシー権の侵害は認められない。

 したがって、強制処分には当たらない。

(2)上記の通りゴミ袋の中身を探したことは強制処分に当たらないものの、占有を放棄した物についての捜索を行うものであることから、刑事訴訟法221条の遺留したものについての領置と性質決定できる。

 刑事訴訟法221条の領置は任意処分と考えられていることから、適法な領置であるということができるためには、その捜査行う必要性や緊急性が認められ、その程度が被処分者の利益の侵害の程度に比して相当程度のものであるということが認められなければならない。

 本件事案において、Pがゴミの領置を行ったのは、拳銃密売に関する情報を得るためであり、拳銃密売の情報はあるものの、その証拠がない状態にあったため、A組の事務所前のゴミの領置を行う必要性が認められる。また、このような情報というものは時間の経過とともに失われるものであるため、緊急性も認められる。また、侵害される利益の程度も、ゴミ袋の中身についてのある程度のプライバシーの侵害であることから、必要性や緊急性に比較して相当程度のものであるということができる。

 したがって、Pのゴミ袋の領置は刑事訴訟法221条に基づく適法なものということができる。

2.したがって、捜査①は適法なものであるということができる。

第二.捜査②の適法性

1.Pらはマンション敷地内の倉庫に立ち入りその中のゴミ袋の中身からメモ片を発見しているが、このようなPらの行為が適法な捜査であるか検討する。

(1)刑事訴訟法197条1項但書の強制の処分であるということができるためには相手方の意思に反して憲法上保障される重大な権利を侵害したことが認められなければならない。

 本件事案における敷地内の倉庫という場所は少なくともマンションの管理人の住居の一部であることから、憲法35によって保障される住居権としてのプライバシー権が及んでいるということができる。そのため、本件事案において、Pらがマンションのごみについて捜索を行うことはマンションの管理人の憲法35条により保障された住居権としてのプライバシー権を侵害するものということができる。また、この捜査はマンション管理人の許可を得ずに行っていることから、相手方の意思に反するものであるということができる。

 したがって、捜査②は強制処分に当たるということができる。

(2)このように住居内のものを探す捜査というものは刑事訴訟法218条1項に規定される捜索と性質決定することができる。

 刑事訴訟法218条1項によれば、適法な捜索差し押さえを行うためには、捜索差押許可状をえて行われなければならない。にもかかわらず、Pらは無令状で捜索差し押さえを行っていることから、刑事訴訟法218条に反して捜索差し押さえを行ったということができる。

(3)したがって、Pらの捜査は刑事訴訟法218条に反する違法なものであるということができる。

2.よって捜査②は違法なものであるということができる。

第三.捜査③の適法性

1.Pらは死亡した乙の居住するマンションの一室に捜索差押許可状を得て立ち入り、携帯電話を押収し、データを復元しているが、このような捜査が、適法なものということができるか検討する。

 携帯電話は捜索差押許可状により適法に押収されていることから、データの復元行為にについて刑事訴訟法222条1項により準用される刑事訴訟法111条2項の必要な捜査として行うことができるかということが問題となる。

 刑事訴訟法111条2項の必要な処分を適法に行うためには社会通念上相当とされるものでなければならないとされる。

 本件事案において、Pは携帯電話内のデータの復元作業を行ったのみでありそこから他の電話やサーバーに対してのアクセスを行ったわけではないことから捜索差押に付随した社会通念上相当とされる処分ということができる。

 したがって、Pらのデータの復元行為は刑事訴訟法222条1項の準用する刑事訴訟法111条2項に基づくものということができる。

2.したがって、捜査③は適法なものということができる。

設問2

第一.録音①~③の適法性

 Pらは乙や丙の同意を得て、甲の音声を録音しているが、これらの録音行為が適法なものといえるか検討する。

1.録音①は乙の同意を得て甲の音声を録音しているため、適法な処分ということができるか検討する。

(1)刑事訴訟法197条1項但書の強制の処分であるということができるためには、相手方の意思に反して憲法上保障された重大な権利を侵害したということが認められなければならない。

 本件事案における甲の音声について甲の同意を得ていないものの、携帯電話の音声というものは録音可能であるため、乙の同意を得ていれば、少なくとも乙の意思には反しないということができる。そのため、仮に甲が住居内で通話をしていたとしても乙の意思に反することはないのであるから、強制の処分であるということはできない。

 したがって、刑事訴訟法197条1項但書の強制の処分であるということはできない。

(2)そのため、刑事訴訟法197条1項本文の必要な処分として適法といえなければならない。この必要な処分として適法であるということができるためには、その捜査を行う必要性、緊急性が認められ、権利侵害の程度に対して相当程度のものであるということができなければならない。

 本件事案において、Pらが乙の同意を得て甲の音声を取得したのは、拳銃の売買についての状況を保全するためであることからその捜査を行う必要性が認められる。また、乙は甲と敵対しており、乙の情報を察知して姿をくらます可能性があるため、緊急性も認められる。これに対して、秘密録音を行うと、甲の期待権を侵害するとともに、甲の会話の内容についてのプライバシー権を侵害しているものの乙の同意を得ていることから、プライバシー侵害の程度は低いということができる。そのため、相当程度のものであるということができる。

 よって、録音①は適法なものということができる。

2.録音②は乙の同意を得て喫茶店内の甲の音声を録音しているが、このような捜査が適法なものということができるか検討する。

(1)刑事訴訟法197条1項但書の強制の処分であるということができるためには、相手方の意思に反して憲法上保障された重大な権利を侵害したことが認められなければならない。

  本件事案において、甲の同意を得ずに録音を行っていることから、甲の意思に反するということができる。しかし、喫茶店内の会話というものは公共空間における音声であるため、このような音声を録音しても重大なプライバシーの侵害とはならない。

 そのため、刑事訴訟法197条1項但書の強制の処分には当たらない。

(2)刑事訴訟法197条1項本文に基づく任意処分ということができるためには、その捜査を行う必要性、緊急性に対して利益侵害の程度が相当程度のものであるということが認められなければならない。

 本件事案において録音を行ったのは、拳銃の取引の現場を押さえる必要があったからであり、この現場を押さえなければ甲と乙は取引をしない可能性があったことから緊急性も認められる。これに対して、甲の公共空間において自己の音声を録音されないという期待を侵害すること、公共空間における会話といえども喫茶店内における会話であることからプライバシーをある程度侵害するということができる。しかし、少なくとも乙に聞かせていることから、このような期待やプライバシーの程度は大きくないということができ、相当程度のものであるということができる。

 したがって、刑事訴訟法197条1項本文の必要な処分に当たるということができる。

 よって、録音②は適法なものということができる。

3.録音③は丙の同意を得て録音されているが、このようなPらの録音行為が適法なものということができるか検討する。

(1)刑事訴訟法197条1項但書の強制の処分であるということができるためには相手方の意思に反して憲法上保障された重大な権利を侵害したということが認められなければならない。しかし、少なくとも丙の同意を得ているため、刑事訴訟法197条1項但書の強制の処分には当たらない。

(2)刑事訴訟法197条1項本文に基づく任意捜査であるというためにはその様な捜査を行う必要性、緊急性が認められ、その捜査が被処分者の利益侵害の程度に対して相当程度のものであるということが認められなければならない。

 本件事案における処分は拳銃の譲渡の事実を証明するためのものであり、丙のもとに電話がかかってきており、丙との会話を録音しなければ同様の通話をしないと考えられることから、録音する緊急性が認められる。また、これによって侵害される利益というものは、乙の通話におけるプライバシーと乙の録音されないという期待権であるが、少なくとも丙に対して話している以上この要保護性は小さい。したがって、利益侵害の程度も相当程度のものであるということができる。

 よって、刑事訴訟法197条1項本文に基づく適法なものであるということができる。

第二.録音の証拠能力

1.捜査報告書全体について証拠能力が認められるか検討する。

(1)刑事訴訟法320条1項によれば、原供述の内容たる事実の真実性を証拠とする証拠に該当する場合伝聞証拠として証拠能力が否定される。

 本件事案における捜査報告書はKの認識した録音の内容を記録したものであることから、録音内容を原供述とし、原供述の内容を証拠とする書面に該当するということができる。しかし、録音情報というものは人間のように知覚記憶叙述という認識過程を得るものではないため、録音を原供述としても伝聞証拠には当たらない。

(2)したがって、刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠には当たらず、証拠能力は否定されない。

2.次に録音①についての証拠について証拠能力が認められるか検討する。

(1)刑事訴訟法320条1項により伝聞証拠に該当するためには、原供述の内容の真実性を証拠とする供述又は書面に該当するということが認められなければならない。また伝聞証拠に該当するかどうかは要証事実との関係によって決まるとされる。

 本件事案において、検察官は拳銃譲渡の事実を要証事実として録音①を利用しようとしているが、録音①は甲と乙との間の取引の事実についての内容が録音されており取引をしていたという事実によって証明可能であるため、録音内容の供述の内容の真実性を証拠としていない。

(2)したがって、原供述の内容の真実性を証拠としていないため、刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠に該当しない。

3.刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠に該当するためには原供述の内容たる事実の真実性を証拠とする供述又は書面に該当するということが認められなければならない。

(1)検察官は録音②の内容から拳銃の譲渡の事実を立証しようとしているが、これは取引の内容が録音されているため、この取引の事実を証拠とすることによって、証明しようとしているため、録音内容である原供述の内容たる事実の真実性を証拠としているということは認められない。

(2)したがって、録音②の利用は刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠に該当しない。

4.刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠に該当するためには、原供述の内容たる事実の真実性を証拠とする証拠に該当すると認められなければならない。伝聞証拠に該当するか否かは要証事実との関係で決まるとされる。

(1)検察官は録音③から甲と乙との間で拳銃の譲渡を行ったことを証明しようとしているが、この甲と丙との会話は甲と乙との間で取引をしていたということではなく、丙や甲の発言から、甲の送った物が乙のもとに届き、甲が乙との間で取引をしたと推認するものであることから、甲や丙の供述の内容の真実性が問題になっているということができる。

 そのため、録音③は甲と丙の原供述の内容の真実性を証拠とする証拠に該当するということができる。

 したがって、刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠に当たるということができる。

(2)そのため、甲の会話部分について刑事訴訟法322条1項の伝聞例外に該当し、丙の会話部分について刑事訴訟法321条1項3号に該当するということが認められなければならない。

 そのため、甲の供述については任意にされたものでなければならないが、甲の録音③における供述は任意に行っていると考えられることから、刑事訴訟法322条の要件を満たすということができる。

 また、丙の供述については供述が不能であるということと、その供述が犯罪事実の証明に欠かせないものであること、供述が特信情況において行われたということが認められなければならないものの、丙は生きているため、供述不能は認められない。

(3)そのため、録音③についての甲の供述を証拠とすることはできるものの、丙の供述については証拠能力が認められない。