平成22年司法試験民事系第一問

平成22年司法試験民事系第一問を解いていきます。

この年まで司法試験の民事系は民法、商法、民事訴訟法の範囲から第一問、第二問という形式で出されていました。

そのため、この年の民事系第二問は民法民事訴訟法が組み合わさった問題になっています。

 

 

 設問1

 1.甲社はA.Bに対して会社法52条に基づき、不足分の金銭の請求をしようとしているが、このような請求が認められるか検討する。

(1)会社法52条1項によれば、現物出資財産の価格が現物出資財産として定款に記載された価額より著しく不足する場合、設立時取締役は不足分額を支払う義務を有するとされる。

 本件事案において、甲は本件不動産の評価額を5億円として現物出資をAから受けているが、本件不動産の価格は土地に土壌汚染があったことから、1億円に過ぎなかった。そのため、現物出資財産の価額は定款に記載された価額より著しく低い価額になっていたということが認められる。

 そのため、甲社の設立時取締役であるA,Bは会社法52条1項に基づき不足分の額である4億円を連帯して支払う義務を負う。

(2)これに対して、Bは会社法52条2項に基づき支払義務を負わないと主張するため検討する。

 会社法52条2項1号によれば、現物出資について会社法33条2項の検査役の承認を得た場合、支払い義務を負わないとされる。しかし、本件事案において、甲社に対する現物出資の際、会社法33条2項の検査役の承認を得ていないことから、Bは会社法52条2項1号により支払い義務を負わないということはできない。

 会社法52条2項2号によれば、設立時取締役が注意を怠らなかったことを証明すれば、支払義務を負わないとされる。本件事案において、Bは土壌汚染の存在について認識すべきであったにもかかわらず、土壌汚染の事実について認識していないが、このように認識できなかったのは、Bは不動産評価の専門家ではなく、さらに、甲社設立の際に選任された公認会計士不動産鑑定士といった不動産評価の専門家によっても本件不動産の土壌汚染を認識できなかったのであるからである。そのため、仮にBに土壌汚染について認識すべき義務があるとしても認識することは不可能であり、認識していなくとも土壌汚染の事実について認識すべき義務に違反したことにはならない。

 したがって、Bは会社法52条2項2号に基づき支払い義務を負わない。

2.よって、Aは会社法52条1項に基づき4億円の支払い義務を負う。

設問2

第一.①について

1.会社法213条1項によれば、株式の引受人は支払い義務を負うとされる。しかし、仮装払込の場合その払込の効力は無効であるとされる。

 本件事案において、丙社は甲社から1000株の発行を受けるにあたり、丁銀行から9000万円を借り受け、その9000万円を含めた1億円によって支払い、株式発行後に9000万円を甲社から引き出すことによって、丁銀行の債務の弁済にあてている。このような預合いが行われると、発行した株式に対して会社の資本が増加しないことから、仮装払込を行っているとさいえる。

 そのため、本件事案における丙社の払込は無効であるということができる。

2.会社法213条1項によれば、株式の引受人は支払い義務を負うとされるものの、支払いが無効であった場合について新株の発行が有効に行われるかについて規定されていない。しかし、新株発行は会社の資本充実のために行われるものであることからすると、会社の資本の充実に資さない払い込みは無効であり、株式の発行も無効になると解される。

 本件事案において、丙社は900株について仮装払込により新株の発行を受けているが、この払込のうち900株は無効であるということができる。

第二.②について

1.会社法423条1項によれば、取締役の任務懈怠により会社に損害が発生した場合、当該取締役は損害賠償義務を負うとされる。

 本件事案において、甲社は仮装払込により9000万円の損害が発生している。この損害はAが丙社の仮装払込に関わったことと、Bが丙社からの融資について取締役会で同意したことによって発生している。

 本件事案において、Aは仮装払込に関わることによって、会社法355条上要求される法令順守義務に違反していることから、Aには任務懈怠が認められ、これによって甲社に損害が発生したことが認められる。

 また、Bは会社法357条1項により他の取締役に対する監視義務を負っているとされるにもかかわらず、Aの仮装払込の関与について見落とし、取締役会で反対していないため、会社法357条1項の監視義務に違反したということができる。そのため、Bには任務懈怠が認められる。また、BがAの本件募集株式発行の事実についての監視していれば、発見することができたものであることから、Bの監視義務違反と甲社への損害の発生について因果関係があるということができる。

 したがって、甲社は会社法423条1項に基づきA、Bに対して9000万円の損害賠償請求を行うことができる。

2.会社法213条の2第1項によれば、募集株式の引受人は払込について仮装した額全額について支払義務を負うとされる。

 本件事案において、丙社は9000万円について仮装払込を行っていることから、9000万円について支払い義務を負うということができる。

 したがって、丙社は会社法213条の2第1項に基づいて9000万円の支払い義務を負う。

第三.③について

1.会社法429条1項によれば、取締役が職務を行うについて悪意又は重大な過失によって任務を懈怠し第三者に損害を与えた場合、損害賠償義務を負うとされる。

 本件事案において、乙銀行は2億円を甲社に対して貸し付けているが、甲社の現物出資に問題のあったこと、甲社が仮装払込によって信用を偽ったことから2億円が回収不能となり、損害が発生している。

 このような損害が発生したのは、Aが土壌汚染の事実を認識しつつ本件不動産を現物出資したことと、仮装払込に積極的に関与したからである。そのため、Aは悪意で、適切な現物出資を行う義務や仮装払込に関与しないことによって、会社法355条上要求される法令順守義務に違反したということができる。さらに、これによって、Aは乙銀行に2億円の損害を与えているということが認められる。

 また、Bは土壌汚染について認識しておらず、さらに、仮装払込についても悪意と同視できるほどの重大な過失によって仮装払込の事実を見逃したということはできないから、重大な過失によって、第三者である乙銀行に損害を与えたということができない。

2.したがって、乙銀行は会社法429条1項に基づきAに対して2億円の損害賠償請求を行うことができるが、Bに対して損害賠償請求を行うことはできない。