平成22年司法試験民事系第二問

平成22年の民事系第二問は民法民事訴訟法の複合問題です。

この問題を解いていきます。

 

 

 設問1

1.民法99条1項の代理により契約を締約したということが言えるためには、代理人への授権、代理人との契約の事実を主張しなければならない。

 本件事案において、FはAとの間の本件消費貸借契約締約の事実を主張するために、FC間の本件消費貸借契約の締約の事実とAのCに対する授権を主張しなければならない。そのため、①のようにAがFに電話して、あとはCとの間でよろしく進めてほしいと述べているのは、Cに授権したことを示しているため、授権を行ったということが言える。

 では、この授権の範囲がどの範囲であるかということが問題になるものの、交渉の経過を話しているから、Cには交渉の過程で合意した1500万円についての授権しかないとも考えられるため、①の主張はAがCに借入れの代理兼でその限度を1500万円としたとの間接事実となるといえる一方、Cが理解しているのは交渉の過程であって、今後の交渉次第で金額の合意について変更することについても同意していると考えられることからすると、AはCに対して、借入れの限度額の定めのない授権を行ったとも考えられるため、①はこちらの間接事実ともなる。

 また、借入れの金額について1500万円と認識していなければFがAに融資額の変更を行うとは考えられないことから、②の事実は、AがCに授権した借入額は1500万円であるとする間接事実になる。また、このように推認できることから、②の事実は借入額の限度について定めがないとする主張に対してその信用性を減殺する方向での間接事実となっている。

 設問2

小問(1)

1.民法709条に基づき損害賠償請求を行うためには、故意または過失により抵当権を侵害し、財産上の被害を与えたことが認められなければならない。

 また、抵当権侵害のように直接財産上の被害を与えるものでない場合、故意が認められる場合でなければならないとされるため、抵当権侵害を理由とする損害賠償請求を行うことのできる場合は故意の場合に限られている。

 また、抵当権侵害を理由として被った損害額の算定に当たっては、不法行為に基づく損害賠償請求が損害額の填補を目的とするものであることからすると、担保された債権額を基礎として考えなければならない。一方で、担保不動産の価格を損害額として考えることも考えられるが、担保不動産の価格が被担保債権の価格より大きい場合があるため、不法行為により担保不動産の価格分だけ被害を被ることは考えられない。

2.したがって、抵当権侵害を理由とする損害賠償請求を行うためには、被担保債権額に留意しなければならない。

小問(2)

1.EはFに対して、丙建物に対する抵当権について登記が備えられていないため、その存在を第三者に対抗できないことから、抵当権侵害を理由とする損害賠償請求に当たって、財産上の利益の侵害は起こらないと主張している。

 しかし、抵当権の設定は抵当権設定契約によって行うことができることから、登記がなくても抵当権が財産上の利益として存在しているということができる。そのため、このEの主張は正当な理由があるものということはできない。

設問3

1.民事訴訟法上、訴訟行為の効力は原則として訴状に表示された者に対して及ぶとされる。しかし、氏名冒用訴訟の場合、訴状に表示された本人に訴訟参加の機会が与えられていないことから、この場合には訴状に表示されたものに対して訴訟行為の効力は及ばず、無効になるとされている。

 本件事案において、FはEに対して訴訟を提起しているものの、出廷してきた人物はEではなくGであるため、GがEの名前を冒用しているということができる。しかし、氏名冒用訴訟がこれまでの訴訟の効力を無効とするのは本人に訴訟参加の機会が得られないことを理由としているのであるから本人が自己の氏名の使用を許可していた場合には無効とすることはできないと考えられ、本件事案において、GはEと同居する者であり、EはGに対して、氏名の冒用を許可していたのであることからすると、Eには実質的に訴訟参加の機会があったということが認められるため、Gの訴訟行為の効力は無効とならず、Eに及ぶと考えられる。

2.したがって、Gの訴訟行為の効力はEに及ぶ。

設問4

小問(1)

1.民事訴訟法114条1項によれば、既判力は主文に包含する者に発生するとされる。そのため、訴訟物が何であるかということが問題となる。

(1)法律構成①は、債権の一部不存在確認訴訟について、審判の対象となっているのは、債権全額であるため、債権全額について既判力が生じるという考え方である。

 この考え方による場合、債権について一括した迅速な判断を得ることができる点に長所があるとされる。しかし、債権の全額ついて既判力を発生させることから、実際には一部認めた部分よりも債権が存在していないにもかかわらず、債権の一部不存在訴訟を提起した場合に後訴として、認めた部分についての訴訟を提起することができなくなる点で不合理であると考えられる。

(2)また、法律構成②は、債権の一部不存在確認訴訟について、審判の対象となっている物は認めた一部の額を超えた部分であることから、既判力は認めた部分ではなく、不存在を争う部分についてのみ発生するという考え方である。

 この考えによれば、認めた一部について後に争うことができるため、実態に適するということが長所であるとされるものの、同じ債権について二度も審理を行うことになるため、法的安定性を欠くだけでなく、審理の長期化という問題も発生する。

2.そのため、法律構成①、②には以上のような長所と短所があるということができる。

小問(2)

1.本件事案において、AはFに対してて所有権に基づく抵当権抹消登記請求を行っているが、これに対して、Fは被担保債権が残っているため、登記保持権原があるということを主張しようとしている。

 本件事案において、裁判所の審理の結果、被担保債権の元本が500万円残っていると判明しているが、これに対して、裁判所はAがFに対して500万円を支払うことを条件とする抵当権抹消登記請求をしようとしているが、抵当権抹消登記というものに民法533条の同時履行の抗弁を認めようとしても、双務契約の性質を有するものではなく物権行為であることから、民事執行法31条上認められる引換給付判決に適しない。そのため、全部棄却判決の方が実態に合致しており適切であると考えられる。

2.したがって、本件事案において、裁判所は抵当権設定登記抹消登記請求に対して引換給付判決をすることはできない。

設問5

1.民法882条に基づく相続が認められるためには、被相続人の死亡と相続人の地位にあることが認められなければならない。

 本件事案において、CはAの子であるため、相続人の地位が認められるものの、Eについては検討を要する。

 民法887条1項によれば、被相続人の子であると認められなければならないものの、子であると認められるためには、民法781条1項に基づいて認知を行う必要がある。この認知の届け出を行わなければ、認知の効力は発生せず、Eは子であると認められないことになる。

 しかし、民法787条上死後認知が認められていることから、死亡後に認知の届け出を行うことによっても認知が認められること、Aは認知として死の前にEに対して認知することにしたと言っていること、認知の届け出が出されていないにすぎないことから、EはAの子であると認められる。

 したがって、Eには民法887条1項により相続人として認められる。

2.次に遺言の解釈であるが、遺言は文言のみでなく、遺言の内容を合理的に解釈しなければならないと考えられる。本件事案において、AはEに対して認知を行う気であったことから、Aの遺言はEが相続人であることを前提とする相続分に関しての指定であると考えられる。

 そのため、CとEは2対1の割合でAの遺産を包括承継することになるため、Hの債務についてもCEは2対1の割合で相続することになる。

 したがって、CはHに対して400万円、EはHに対して200万円の債務を負うことになる。

 以上