平成21年司法試験刑事訴訟法

平成21年司法試験刑事訴訟法を解いていきます。

 

 

 設問1

1.写真①の写真撮影の適法性

 刑事訴訟法上写真撮影というものは五官の作用により物の状態を認識可能な状態に置く性質を有することから、刑事訴訟法128条の検証としての性質を有すると考えられる。しかし、刑事訴訟法218条1項に基づく捜索差押えを行う場合、その捜索差押えの適法性を証明するために必要であることから、刑事訴訟法222条1項により準用される刑事訴訟法111条1項の必要な処分として捜索差押の際に写真撮影ができるとされる。また、捜索差押えに基づく処分として写真撮影が許容されているとされる。

 刑事訴訟法218条1項によれば、捜索差押えを行うためには、捜索差押許可状によらなければならない。本件事案において、乙に対する殺人、死体遺棄の被疑事実について捜索差押許可状が出ていることが認められる。

 また、捜索差し押さえを行う場合、刑事訴訟法110条によれば、処分を受ける者に対して呈示を行わなければならないと規定されている。本件事案において、T社事務所内にいたのはBであり、代表取締役で被疑者である乙ではないものの、乙社事務所を利用する者であることから、処分を受けるものということができる。そのため、Bに呈示したことは刑事訴訟法110条に基づくものということができ、適法であるといえる。

 さらに、事務所内におけるカレンダーの下の壁の写真撮影は、捜索差押えに伴うものであることから、刑事訴訟法218条1項に基づく処分であるということができるため、適法なものということができる。

 したがって、写真①についての写真撮影は適法なものということができる。

2.写真②、写真③の写真撮影の適法性

 警察官はA名義のX銀行、Y銀行の通帳を撮影しているが、この写真撮影が適法なものということができるか検討する。

 刑事訴訟法218条1項に基づく捜索差押えを行うためには、捜索差押許可状に基づかなければならないとされ、捜索差押許可状に列挙されていない対象物について捜索差押えを行うことはできないとされる。

 本件事案において、甲の殺人、死体遺棄事件に関する預金通帳は捜索差押えの対象物となっているということができる。このような物を捜索差押えの対象物としたのは、甲の殺人、死体遺棄事件についての背景事情や共犯者を調べるためであることから、甲や乙のものでない通帳についても捜索差押えの対象となっているということができる。本件事案におけるX銀行のA名義の通帳については平成21年1月14日の取引欄に「→T、K」と記載されていることから、これが甲野太郎のことを指すと考えられるため、甲の被疑事実に関する物として捜索差押えの対象とすることができる。

 一方、Y銀行の通帳に関しては電気代水道代の振り込みや、カードによる現金の引き出しについてしか記録がないことから、甲の被疑事実に関連するものとみることはできない。そのため、A名義のY銀行の通帳については捜索差し押さえの対象とすることはできない。

 よって、警察官はA名義の預金通帳のうちX銀行対するものについては捜索差し押さえの対象とすることができ、捜索差押えに伴う写真撮影をすることができるものの、Y銀行に対するものについては捜索差押えの対象とすることができないことから、捜索差押えに伴う写真撮影を行うことはできない。

 したがって、写真②についての写真撮影は刑事訴訟法218条1項に基づく適法なものということができるものの、写真③についての写真撮影は刑事訴訟法218条1項に基づくものといえず違法である。

3.写真4についての写真撮影の適法性

 刑事訴訟法218条1項に基づく捜索差押えに伴う写真撮影を行うためには、捜索差押許可状に基づかなければならないとされる。

 刑事訴訟法218条1項の捜索差し押さえを行うためには、捜索差押許可状の対象物に含まれていなければならない。

 本件事案における捜索差押許可状の対象物に、パスポート、名刺、はがき及び印鑑はいずれも含まれていない。そのため、これらに対して捜索差し押さえを行うことはできない。にもかかわらず、警察官はこれらの内容や、刻印部分について写真撮影を行うことによって、実質的に捜索差押えを行っているということができる。

 したがって、写真④についての写真撮影は刑事訴訟法218条1項に基づかない違法なものであるということができる。

設問2

1.刑事訴訟法320条1項によれば、原供述の内容の真実性を証拠とする証拠についての書面又は供述については伝聞証拠として証拠能力が否定される。伝聞証拠であるかどうかは要証事実との関係で決まるとされる。

 本件事案において、検察官は実況見分調書の記載から被告人が供述したとおりの犯罪を実行することができたことを立証しようとしているが、これは被告人が供述したとおりに犯罪が実行できたため、その通りに供述できるものは犯人しかいないことから被告人の犯人性を推認するものということができる。

 そのため、実況見分調書に記載されている通りの事実を立証するものではないといえるので、伝聞証拠には当たらないということができる。

 したがって、実況見分調書についての証拠能力が認められる。

2.仮に、被告人が本件車両を海中に沈めたことを要証事実としていると考えるならば、被告人が供述したように自分がこのような犯罪を実行したことを内容としていることになるため、実況見分調書に記載された内容通りの事実を立証することになり、被告人の原供述の内容の真実性を証拠とする書面に該当することになる。

 そのため、この場合は刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠に当たることになる。

 この場合、刑事訴訟法321条3項の検証の結果を記録した書面として伝聞例外が認められるかを検討しなければならない。実況見分調書は検証と同様に観察した内容を客観的に記載するものであることから、誤りが少ないため、刑事訴訟法321条の検証の結果を記載した書面として扱われるとされる。そのため、真正に作成されたものであることが認められなければならない。

 そのため、この場合であっても、警察官が真正に作成したものであることを立証すれば証拠能力が認められる。