『サラ金の歴史』(中公新書)を読みました

サラ金の歴史-消費者金融と日本社会 (中公新書)』 を読みました。

 感想を書いていきます。

 

サラ金の歴史-消費者金融と日本社会 (中公新書 2634)
 

  自分としては、アコムやレイクなどといった消費者金融暴力団を背景にした闇金による被害の歴史、こうした消費者被害に対する弁護士の活躍、過払い金返還請求訴訟による「過払い金バブル」の成立、東京ミネルヴァなどの債務整理を専門とした事務所の隆盛と衰退を学ぶために読み始めたのですが、この側面以外のサラ金の歴史を知ることができたと思います。

 この本は、サラ金の歴史について戦前に貧民街の知人のつながりから行われていた個人間融資やサラリーマンの間で行われていた個人間融資が始まりであるとして論じられています。

 さらに、戦後には民法上女性に行為能力が認められたことや三種の神器を持つことがステータスとされたことから団地金融が流行し、プロミス、レイク、アコムが誕生した。70年代にはいると、高度経済成長期が終わり、「セーフティーネット」としてサラ金が流行し、サラ金業者間での競争が激化し、信用の低い人への融資が盛んになっていった。80年から2000年代にかけて、サラ金の取り立てとして犯罪行為が行われるようになったり、サラ金からの借金に苦しみ自殺するものが増加したこと、これらの事情からサラ金に対する規制強化の声が強まり、ひとまずの規制がされた。そして、2000年代に入り、ようやく貸金業法による本格的なサラ金規制が始まり、アコム、プロミスなどの吸収合併、武富士の倒産なのが起こっていったことが書かれています。

 このような歴史を持つサラ金ですが、現代もそれ自体は違法ではないため、残っていますし、「ひととき融資」などの違法と考えられるような金銭の貸し借りが行われおり、サラ金の問題はいまだに残っていると考えられます。

 この本で興味深かったのは、サラ金業者が「夫は外で働き、妻は家で家計を守る」というジェンダーを利用していたこと、借りる側も「夫は出世のために行われる接待費用の捻出のために借り、妻は家計の不足を補うために夫の保険証を担保に金を借りていた」という事実です。このようなジェンダーを利用していたというのも興味深い知見なんですが、夫と妻との間のコミュニケーションが足りないと感じられること、サラ金業者が給料を得ていない妻にも貸し出してしまっていたこともサラ金問題が生じた原因でないかと考えさせられました。

 また、サラ金業者に対する規制が進まなかったのは経済活動や事業者の利益保護を主として考える自民党の政治体制の問題があり、問題を放置しがちなのは現在も変わらないと考えさせられました。

 ただ一方で、このような規制強化というのは憲法上の自由特に経済的自由の制約をもたらしますので、何を立法事実としていたのか、このような立法事実では憲法に違反するのではないかという疑問をわいてきましたし、貸金業法による規制強化が上手く行われたのだなあと感心しました。

 このあたりの歴史は弁護士の活動をしていくうえで避けて通れない気がしますし、弁護士、弁護士を目指す人にとっての必読の書になるのではないかと思います。