ロープラクティス商法 問題32

ロープラクティス商法の問題32を解いていきます。

この問題は競業避止義務違反に関するものです。

 

Law Practice 商法〔第4版〕

Law Practice 商法〔第4版〕

  • 作者:黒沼 悦郎
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 単行本
 

 

 第一.①の請求について

1.会社法423条1項によれば、取締役が任務懈怠行為を行い、それによって会社に損害を与えた場合には損害賠償責任を負うとされる。この任務懈怠には、会社法356条1項1号の競業避止義務違反行為が含まれる。競業避止義務違反に該当するかどうかは事業の目的が同一であり、市場も同一であるかどうかによって判断されるこの市場や目的の同一性を判断するに際しては、その市場や事業を行うことを予定し、そのための具体的行為を行っているかどうかが考慮される。

(1)本件事案において、X社は関西地方一円でスナック菓子を販売する事業を行っている一方、A社は東海地区で揚げ物米菓を販売している。確かに、Y社とA社は関西地区と東海地区とで市場を同じくしていないものの、Y社は東海地区での事業拡大のために市場調査を行っていたのであるから、市場を同じくするということができる。また、スナック菓子と揚げ物米菓というものは菓子という点で同一のものであり、スナック菓子が揚げ物米菓の代わりに食卓に出ることを想定すると、目的も同一のものであるということができる。

 また、競業避止義務違反を行ったといえるためには、競業に属する事業を取締役が行ったといえなければならないものの、本件事案におけるA社の代表取締役はYではない。しかし、A社を実質的に主催しているのはYであり、代表取締役に妻のZを置いていることから、実質的に利益を得ているということが考えられる。そのため、A社の事業を行ったのはYであるといえる。

 したがって、Yは会社法356条1項1号の競業避止義務違反を行ったということができる。

(2)会社法423条1項によれば、任務懈怠行為と損害発生との間に因果関係がなければならないとされているものの、会社法423条2項によれば、損害の額は競業取引によって第三者の得た利益と推定されることから、A社の代表取締役であったAの報酬である5000万円が損害として推定される。また、この損害というものは、YがA車を経営することによって発生させたものであることから、因果関係も認められる。

(3)よって、XはYに対し、会社法423条1項に基づいて5000万円の損害賠償請求を行うことができる。

2.したがって、①の請求は認められる。

第二.②の請求について

1.会社法423条1項によれば、取締役の任務懈怠によって、損害が発生した場合、損害賠償責任を負うとされる。また、会社法355条によって、取締役は忠実義務を負うとされている。この忠実義務は会社に対して善管注意義務を負うことを内容とするものであることから重要な社員の引き抜きを行ってはならないとされる。そのため、会社法355条類推適用により、会社の重要な社員を引き抜いてはならない義務が発生しているといえる。

 本件事案において、YはX社の複数の熟練の技術を持つ従業員を退職させ、A社で雇用していることから、引き抜きを行ったということができる。また、Y社というスナック菓子メーカーにおいて、熟練の技術を持つ従業員は商品の味にもかかわるため、会社の重要な社員ということができる。したがって、Yは会社の重要な社員を引き抜いてはならない義務に違反したということができる。

 よって、Yは会社法355条類推適用により会社法423条1項の任務懈怠を行ったということができる。

 これによって、Y社は損害を被ったと考えられる。

2.よって、X社はYに対して、会社法423条1項違反を理由として損害賠償請求を行うことができる。

第三.③の請求について

1.会社法423条1項によれば、取締役が任務懈怠を行いそれによって、会社に損害を与えた場合には損害賠償義務を負うとされる。この任務懈怠の一つとして、会社法356条1項1号の競業避止義務違反があるとされる。取締役が競業避止義務に違反したかどうかは会社の目的と市場から判断され、市場を同じくするかどうかはその事業を予定していたかどうか、その事業の範囲に含まれるかどうかが考慮される。

 本件事案において、X社の事業は関西地区でのスナック菓子のメーカーであり、A社の事業は東海地区での揚げ物米菓のメーカーであることから、事業の目的は同一であるといえる。また、X社は東海地区での市場拡大に向けて市場調査を行っていたため、市場も同じくするといえる。また、X社としては東海地区での市場拡大のために本件土地を購入することが考えられることから、本件土地の購入についてもY社の事業の範囲に含まれていたということができる。

  したがって、本件土地の購入についても会社法356条1項1号の競業避止義務違反行為であるということができる。

 これによって、YはX社に損害を与えたと考えられる。

2.したがって、X社はYに対して、会社法423条1項に基づき損害賠償請求を行うことができる。