ロープラクティス民事訴訟法 基本問題27

ロープラクティス民事訴訟法の基本問題27を解いていきます。

この問題は職業秘密文書に該当する場合の文書提出義務の除外事由に関するものです。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第3版〕

Law Practice 民事訴訟法〔第3版〕

  • 作者:山本 和彦
  • 発売日: 2018/01/11
  • メディア: 単行本
 

 

 1.自己専利用文書についての主張

 民事訴訟法220条4号ニによれば、自己専利用文書に該当する場合文書提出命令を拒むことができるとされている。自己専利用文書に該当するためには、公開を予定していないこと、公開することにより不利益が生じること、公開すべき特段の事情が存在しないことが認められなければならない。

 本件事案における自己査定文書は金融庁に提出することが予定されているため、公開を予定していない文書であるとは言えない。

 そのため、民事訴訟法220条4号ニの自己専利用文書に該当しない。

2.職業秘密文書についての主張

 民事訴訟法220条4号ハによれば、職業秘密文書に該当する場合、文書提出命令を拒むことができるとされている。この職業秘密に該当するためには、公開されることにより不利益を受けるものであるといえなければならない。

 自己査定文書には債務者の財産状況、資金繰り、収益力等が記載されていることから、取引先の経営状況に関する情報が記載されている。そのため、Yの自己査定文書が公開されると取引先のプライバシーを侵害するのみでなく、取引先にとって公開されたくない情報が公開されることになり、Yが銀行としての信頼を失うため不利益が発生する。そのため、職業の秘密に該当するといえる。

 また、職業の秘密として保護されるためには、公開されることによる不利益と文書提出も命じる必要性、代替証拠の存在などを比較衡量して不利益が上回る場合であるといえなければならない。

 XのYに対する訴えは、Aの経営状況について正確な情報を公開するという注意義務を怠りXに損害を与えたということを理由とする損害賠償請求である。この訴訟において、YがAの信用状況をどのように考えていたのかということを証明するのにYの記録した自己査定文書は必要な証拠であり、代替証拠も考えられないことから、Yの自己査定文書は保護される職業の秘密に該当しないということができる。

 そのため、民事訴訟法220条4号ハの文書に該当しない。

3.よって裁判所は本件自己査定文書について文書提出命令を発令することができる。