令和3年司法試験再現答案刑事訴訟法

令和3年司法試験刑事訴訟法の再現答案を上げておきます。

これでD評価でした。

 

設問1

第一.下線部①の捜査の適法性

1.刑事訴訟法218条1項による捜索差し押さえを行うためには、捜索差押許可状記載の物であると認められなければならない。本件事案において、捜索差押許可状の差し押さえるべき物の記載には名刺が含まれていることから、丙組の幹部丁の名刺1枚も捜索差押許可状の対象物に含まれているということができる。

 また、捜索差押を行うためには犯罪に関連したものであると認められなければならないとされる。この犯罪に関連したものということには犯罪事実の証拠だけでなく、情状に関する証拠も含まれる。本件事案における若頭丁の名刺というものは本件住居侵入強盗の事実に関する証拠となるものでないが、若頭丁との共犯関係について推認させる証拠となるものであることから、甲及び乙と丁の共犯という犯罪事実に関するものであるということができる。

 また、捜索差押を行うためには、捜索差押許可状の場所的範囲に含まれ、証拠存在の蓋然性がある場所について捜索したと認められなければならないが、Pらは捜索差押許可状記載のとおりのH県I市N町2丁目3番4号Aビル21号室で行っており、この場所は本件住居侵入強盗の共犯者の乙の借りている部屋であるため名刺などの証拠存在の蓋然性があったといえる。

 さらに、捜索差押許可状が発付されている。

2.したがって、下線部①の捜査は刑事訴訟法218条1項に基づいて適法なものであるといえる。

第二.下線部②の捜査の適法性

1.刑事訴訟法218条1項の捜索差押を行うためには、捜索差押許可状が発付され、その捜索差押許可状記載の物的範囲、場所的範囲の物に対して、捜索差押が行われ、その差押対象物が犯罪と関連するものと認められ、証拠存在の蓋然性があると認められなければならない。

 本件事案においてPらは乙による本件住居侵入強盗に関する捜索差押許可状を得ており、捜索を行う場所について乙名義で借りたビルの一室が記載され、その場所で捜索を行っている。さらに、捜索差押許可状には電磁的記録媒体が掲げられており、USBメモリ2本についてはこの電磁的記録媒体に含まれる。さらに、USBメモリには強盗のターゲットとなる者のリストなど本件住居侵入強盗に関する証拠が入っている可能性があるため、USBメモリは犯罪と関連するものと認められる。

 また、USBメモリの中に本件住居侵入強盗に関する証拠が含まれている可能性があることからUSBメモリについて証拠存在の蓋然性があるということができる。

 しかし、USBメモリなどの電磁的記録媒体には無関係の証拠が含まれている可能性があるため、無関係の証拠を除くために原則として内容を確認しなければならないとされる。しかし、証拠が破棄隠匿されるおそれがあると現実的に認められる場合、刑事訴訟法222条1項により準用される111条1項の必要な処分として記録媒体全体の差し押さえを行い必要な証拠を保管したうえで刑事訴訟法124条1項に基づいて還付することができると解されている。

 本件事案において、甲よりUSBメモリのパスワードは8桁であり、パスワードを間違えると初期化されるとの供述が得られているうえ、乙はパスワードは2222と4桁の数字を答えていることから、USBメモリの中の情報が消去される恐れが現実的に認められる状況にあったといえる。そのため、Pは刑事訴訟法222条1項の準用する刑事訴訟法111条1項の必要な処分としてUSBメモリの中身を確認することなく差し押さえ、後日還付することができる。さらにPはUSBメモリを後日還付している。

 そのため、下線部②の捜査は刑事訴訟法218条1項に違反しない適法なものであるということができる。

設問2小問(1)

1.検察官Qは本件メモ1から甲と乙の共謀を立証するため本件メモ1の証拠請求を行っているが、本件メモ1が刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠に該当し、証拠能力が否定されないか検討する。

 刑事訴訟法320条1項によれば、公判期日外における供述内容の真実性を証拠とする書面について証拠能力を伝聞証拠として否定している。このように証拠能力を否定するのは類型的に虚偽が入りやすいからであるとされる。また、伝聞証拠に当たるかどうかは要証事実との関連性で決まるとされる。

 本件事案において、Qは本件メモ1の存在から共謀があったことを推認させようとしている。しかし、このことから共謀を推認するためには本件メモ1が甲と乙とで回覧されたということが認められなければならない。本件メモ1が作成された時刻な令和2年8月4日の午前10時20分であり、V宅に電話がかけられる跡であるということができる。そのため、本件メモ1が甲と乙とで回覧されたということができず、本件メモ1を物証として利用することができない。

 そのため、本件メモの記載から甲が犯罪を実行したとの証拠として利用するこしか考えられないが、このように本件メモ1の記載から本件メモ1の記載通りの犯罪の実行を推認する場合、現供述の内容たる事実の真実性を証拠とする書面に該当することになるため、刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠に該当するということができる。

2.伝聞証拠に該当する場合刑事訴訟法322条1項の伝聞例外が認められなければならないが、本件メモ1には乙の署名も押印もないことから、刑事訴訟法322条1項の伝聞例外の要件を満たさない。

3.よって、本件メモ1に証拠能力は認められない。

設問2小問(2)

1.刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠に当たるといえるためには、公判廷外の現供述の内容たる事実の真実性を証拠とする証拠であるといえなければならず、伝聞証拠であるか否かは要証事実との関係で相対的に決まるとされる。

 本件事案において、検察官のQは本件メモ2に乙から指示されたことと記載されていることから甲と乙との間の共謀の事実を認定しようとしているが、これは本件メモ2に記載された通りの共謀の事実を本件メモ2の記載自体から推認しようとしているため、本件メモ2は原供述の内容たる事実の真実性を証拠とする証拠に該当するということができる。

 そのため、刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠に該当するということができる。

2.伝聞証拠に当たっても刑事訴訟法321条1項3号の伝聞例外に当たる場合証拠能力が認められるとされるため検討する。

 刑事訴訟法321条1項3号により証拠能力が認められるためには、供述書又は署名押印のある供述録取書に該当するといえ、作成者が供述不能の状態にあり、犯罪事実の証明に欠くことができないものであるということができ、特信情況下で作成されたといえなければならない。

 本件メモ2は甲が聞いた内容をメモしたものであるため、供述書に該当するということができる。

 また、供述不能であるとは他の尋問手段を尽くしても供述することができない状況にあることを指すとされる。本件事案において、甲は公判廷において、暴力団に不利なことを述べたとして殺害される危険を感じており、遮蔽措置を実施したうえで行っても傍聴席から供述者の声を聴き誰であるか暴力団が判断する恐れがあるため、供述を拒否したものと考えらえる。また、他の手段を使うことができないため、甲は供述不能の状態にあったということができる。

 また、本件メモ以外甲と乙の共謀を推認する証拠とすることができないため、本件メモ2は犯罪事実の証明に欠くことのできないものであるということができる。

 しかし、本件メモ2は覚書として書いたに過ぎないため、特信情況化で作成されたものとは言えない。

 そのため、刑事訴訟法321条1項3号の要件を満たさない。

2.したがって、Qは本件メモ2を証拠として用いることができない。