令和3年司法試験再現答案知的財産法第一問

令和3年司法試験の特許法の再現答案を上げておきます。

後の著作権法と合わせて48点でした。

 

設問1

1.XはAに対して、A製品がX発明の特許権を侵害すると主張しているが、このXの請求が認められるか検討する。

 特許法68条によれば、特許権侵害が認められるためには、業として特許発明の実施を行ったといえなければならない。

 業としてとは家庭内実施を除くという意味であり、Aは製品としてA製品を製造しているため、家庭内実施とは言えず、業としてA製品を作っているといえる。

 また、発明であるといえるためには、発明が特許権のクレームの範囲に含まれているといえなければならない。しかし、本件事案におけるAの発明はXの特許権が金属製の針を用いるものに限るというクレームであるのに対して、樹脂製の針を用いているため、Aの製品はXのクレームの範囲に含まれていない。

 しかし、クレームの範囲に含まれていなくても、進歩性を欠く発明は特許権が与えられないことから、進歩性が大きくない発明について独占を認める余地があるということができる。さらに、このようなわずかな差しかない発明について特許権の行使を認めないと特許権を認める意味がなくなるため、均等侵害による特許権侵害も認められていると解されている。均等侵害であるといえるためには、①非本質的部分の違いであること、②置換可能性があること、③容易想到性が認められること、④容易推考できないこと、⑤クレームの範囲から除外するなど特段の事情のないことが認められなければならない。

 本件事案において、樹脂製の針を用いることは2本の針を一体化させて同時穿刺可能な構造にするうえで必要なものでないことから、非本質的部分についての差異しかないということが認められる。また、硬い針であれば、針の材質を変えて技術的な課題を解決することが可能であるから置換可能性も認められる。さらに、このような変更は用意相当であり、容易推考可能であったとはいえない。

 確かに、Xは構成要件αにおいて、金属製の針と明示しているものの、明細書においては針の材質について硬い針を用いてよいと記載していることからすると、クレームの記載は金属製の針以外のものを除くことを内容とするものではないと考えられる。

 また、AはA製品を製造することによりX発明を生産していることから、特許法2条3項1号の実施を行ったということができる。

2.したがって、XはAに対してX発明の均等侵害を理由とすることができる。

設問2

1.Bは確かにX製品を再組立てし、販売を行っている。そのため、特許法68条にいう業としてのX発明の実施を行ったということができる

 これに対して、BはXの特許権は消尽したと主張することが考えられるため検討する。特許権者に二重の利得の機会を与える必要がないこと、取引の流通の安全性の確保の観点から、特許権者又は正当な許諾を受けた権利者から特許製品を譲り受けた場合、その特許製品について特許権を行使することができなくなるとされる。

 本件事案において、Bが再販売を行っているのは、Xが販売したものであるため、特許権者から譲り受けた特許製品であるということができる。そのため、特許権は消尽したということができる。

 しかし、再販売を行っているとしても、特許製品が新たに生産されたということが言える場合、特許権を行使することができるとされる。新たに生産されたということが言えるためには、特許製品によって達成されるべき課題を解決したかによって判断される。本件事案においてBはX製品の分解と洗浄、再組立てを行っているが、結局再組立てによって解決された課題は針を清潔にする点であり、達成されるべき課題の解決に向けられたものとは言えない意。よって、新たな生産を行っているということはできない。

2.したがって、Bの行為はXの特許権を侵害しているといえない。

設問3小問(1)

1.Xは一体化構造を備えたC製品がXの特許権を侵害するものであると主張しているが認められるか検討する。

 特許法68条の文言侵害が成立するためには、業として特許発明の実施を行ったといえなければならないが、本件事案におけるCは一体化構造を備えたに過ぎないC製品を製造しているに過ぎないから、X発明の特許請求の範囲に含まれていない。

 しかし、特許法101条によって、間接侵害が成立することが考えられるため検討する。

(1)特許法101条1号の間接侵害が成立するためには、業として物の生産にのみ用いるものの生産譲渡を行った場合、でなければならないとされる。この生産にのみというのは特許発明以外に用いることのできる用途がないことを指している。本件事案におけるC製品は一体化されていない針であり、廃棄するための一体化構造を備えた一本の針としての利用が可能であるから、X製品の生産にのみ用いるものということはできない。そのため、特許法101条1号の間接侵害は成立しない。

(2)特許法101条2号の間接侵害が成立するためには、発明による課題の解決に不可欠な物であり、その発明が特許発明であること及びその物が発明の実施に用いられることを知りながら業として生産譲渡を行った場合でなければならないとされる。

 本件事案におけるC製品は汎用クリップで留めることにより、X発明と同じものを生産することができるのであるから、C製品は発明による課題の解決に不可欠な物ということができる。また、CはXより警告を受けているのであるから、その発明が特許発明であることと、C製品が発明の実施に用いられていることを知っているということができる。

 また、CはC製品について製造することにより生産し、販売することにより譲渡している。

2.そのため、XはCに対して、特許法101条2号に基づき製造販売の差し止めを請求することができる。

設問3小問(2)

 本件事案において、Xは特許法102条2項に基づいてCの得た利益の額を損害額と推定しようと考えているが、これに対してCはどのような反論を行うことができるか検討する。

 特許法102条に基づく請求がなされた場合、利益を得た理由がCの営業努力であったためにCがより利益を得たといえることや、Xには販売経路の確保が不十分であるためCが得た分の利益を得ることができなかったことを理由として、損害賠償額の減額を請求することができる。