事例演習教材刑法 事例41

今回の答案は、テスト前に、正当防衛の周辺をきちんとかけているか確かめた際に書いた答案を公開します。

本来、自招侵害についてきちんとかけていなければならなかったのですが、不十分なような気がします。

 

刑法事例演習教材 第2版

刑法事例演習教材 第2版

 

 

 

1.第一暴行

 刑法208条にいう暴行とは、人の身体に向けられた不法な物理力の行使を指す。本件事案において、甲は、Aという人の左ほおを手拳で殴打するという身体に対する不法な物理力を行使している。

 したがって甲の第一行為は刑法208条の暴行罪に該当する。

2.第二暴行

 刑法204条にいう傷害とは、人の生理的機能の傷害を指す。

 本件事案において、甲は第二暴行を行っているため、Aの身体に向けた不法な物理力の行使をしたといえる。さらに、顔面挫傷という生理機能の傷害も与えているため、傷害を行ったといえる。

 また、この第二暴行は、第一暴行がされた場所とは離れた場所で行われ、甲の第一暴行に次いでなされた一連の行為とみることはできない。

 そのため、第二暴行は、第一暴行と区別して論じられる。

 したがって、甲の第二暴行について刑法204条の傷害罪が成立する。

3.正当防衛

 刑法361項の正当防衛が成立するためには、①急迫不正の侵害が存在し、②防衛の意思で、③相当程度の行為を行ったといえなければならない。

(1) 急迫不正の侵害があったといえるためには、法益侵害が近接し、または現在の者となっていなければならないとされ、急迫不正の侵害があるかは、a侵害の予見b回避の可能性c侵害の場での態様から総合的に判断される。

 本件事案において、甲は、Aを殴打したため、Aから攻撃を受けているものの、Aが甲に対し、暴行に及んだ場所は、第一暴行から時間的にも近接した場所であるため、Aの暴行は、甲の第一行為に誘発された一連一体のものということができ、甲にとってAの暴行は予測可能であり、殴らなければ殴られなかったことから、回避可能性もあり、甲にとってその場を離れる余裕のあったものであることから、侵害が急迫していたということはできない。

(2) そのため、甲の第二暴行が刑法361項にいう正当防衛に当たるとして違法性阻却がされることはない。

4Bの所有地への侵入

 刑法130条の建造物とは、建物に付随したその建物と一体となった場所を指し、建造物侵入が成立するためには、そのような場所に住居権者の同意なく立ち入ったといえなければならない。

 本件事案におけるB所有の無人の倉庫の敷地は、Bが倉庫という建物に付随して使用する土地であるため、刑法130条の建造物に当たるということができる。

5.緊急避難

 刑法371項の緊急避難が成立するためには、①危難が現在していること、②緊急避難の意思のあること、③補充性、④相当性が認められなければならない。

(1) 危難が現在しているとは、危難が近接していること又は現実のものとなっていることを指す。

 本件事案において、Aがサバイバルナイフを取り出し、甲のもとに向かっていることから、Aが甲の身体に対する傷害を行う現実の危険がある。そのため、現在の危難が存在しているといえる。

(2) 緊急避難が成立するためには、避難の意思がなければならないが、甲Aは、Aによるナイフでの刺突行為を避けるために行為に出たため、避難の意思はあったということができる。

(3) 補充性を満たすためには、開扉するために他の取るべき方法がないと認められなければならない。

 本件事案において、甲は道路に立っているものの、逃走を続けたのでは自転車に乗るAに追いつかれる可能性が高く、左側にも逃げることができなかったのであるため、B方に逃走するよりほかはなかったものということができる。

 そのため、甲の行為は補充性を満たす。

(4) 相当であるといえるためには行為が必要最小限度のものであったといえなければならない。

 本件事案において、甲がよけることによって得ようとする法益は自己の生命、身体であり、Bの侵害された法益は住居の自由である。また、甲が命を守るためには、B方に侵入するよりほかなかったことからすれば、甲のB方への侵入は必要最小限度の行為であったということができる。

(5) したがって甲のB方への侵入について緊急避難が成立し、違法性が阻却される。

6.第三暴行

(1) 刑法205条の傷害致死罪が成立するためには、人に対する傷害行為を行い、人を死亡させたといえなければならない。

 本件事案において、甲はAの後頭部という人体の枢要部を特殊警棒で強く打つという暴行を行っており、Aの意識を失わせているため、生理機能の傷害を与えているといえる。

 そのため、甲はAに傷害を与えたということができる。

(2) 被告人の行為と結果発生について因果関係のない場合、その結果の発生は被告人の行為によるものということはできないため、構成要件該当性があるためには、因果関係が必要とされる。

 因果関係があるといえるためには、実行行為と結果の間に条件関係があり、その結果が実行行為の危険性から生じたものであるといえなければならない。

 本件事案において、甲が第三暴行を働かなければ、Aは死亡しなかったという女権関係が認められる。甲の実行行為は、Aの後頭部という人体の枢要部を特殊警棒という人を死亡させる危険のある物で殴っている。このような殴打行為の危険性から、A脳挫傷をおい、Aが死亡しているため、甲の実行行為の危険性が危険に現実化したということができる。

(3) したがって、甲は刑法205条の傷害致死罪に当たる行為を行ったということができる。

7.正当防衛

刑法36条の正当防衛が成立するためには、①急迫不正の侵害が存在し、②防衛の意思で、③相当性を有する行為を行ったといえればよい。

(1) 急迫不正の侵害とは、法益侵害が現在または間近に差し迫っているといえなければならない。

 本件事案において、Aは甲の顔面を切り付けており、甲の身体に対する危険が現実のものとなっている。そのため、急迫不正の侵害があるということができる。

(2) また甲の第三暴行は甲の身体を守るためのものであるため、防衛の意思はあったということができる。

(3) 相当性を満たすためには、最小限度の行為であったといえなければならない。

 本件事案において、甲は、ナイフをもって襲い掛かっている自身よりも体格のいいAからの法益侵害を防止しなければならない状態にある者であり、そのような者に対して、特殊警棒で殴るという行為は必要最小限度の者であったということができる。

(4) したがって甲の第三暴行には刑法361項の正当防衛が成立する。

8.したがって甲には刑法208条の罪と、刑法204条の罪が成立し、刑法45条によって併合罪となる。

 

 

 

 

 

刑法判例百選1 総論(第7版) (別冊ジュリスト 220)

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