刑法事例演習教材 事例5

事例演習教材の事例⑤を解きました。

住居侵入と事後強盗が問題となる事例です。何か気づいた点、ここがおかしいと思う点があれば、コメントにお願いします。

あと、著作権侵害になるので、問題文は問題集から引用したりしません。問題集を購入していただきますようお願いします。

 

刑法事例演習教材 第2版

刑法事例演習教材 第2版

 

 

 

1.本件事案において、甲と乙は倉庫の施設内に侵入しているが、このような甲と乙の行為が刑法130条にいう建造物侵入罪の共同正犯に該当しないか検討する。

(1)刑法60条の共同正犯が成立するためには、共同して犯罪を実行したといえなければならない。

 本件事案において、甲と乙はともに倉庫の丙を跳び越えて敷地内に侵入していることから、共同して犯罪を実行したということができる。

(2)刑法130条の建造物侵入罪が成立するためには、①人の監守すること、②建造物であること、③侵入したことが認められなければならない。

(3)本件事案における倉庫の敷地は塀に囲まれており警備員としてCもいたのであるから、倉庫の敷地はCが看取していたということができる。

(4)また、建造物とは人の出入りに供される建物及びそれに付随する土地を指すが、本件事案において甲・乙が立ち入った場所は倉庫の敷地であるが、この敷地というものは倉庫という人の出入りに供される建物に付随した土地である。そのため、建造物に含まれる。

(5)侵入する行為とは管理権者の同意なく立ち入る行為を指す。本件事案において、甲・乙は倉庫内のピカソの絵画を窃取するために立ち入っているが、このような盗み目的での立ち入りを倉庫の管理権者Aが認めるとは通常考えられない。そのため、甲・乙は侵入したということができる。

(6)よって、甲・乙には刑法130条の建造物侵入罪の共同正犯が成立する。

2.本件事案において、甲は乙から、見張りをしている間に倉庫に侵入するために鍵を壊そうとしているが、このような甲・乙の行為が刑法243条による窃盗未遂罪に該当しないか問題となる。

(1)刑法60条の共同正犯が成立するためには、共同して犯罪を実行したといえなければならない。

 本件事案において、甲は倉庫に侵入するに当たり、乙との間で、乙が見張りを行い、甲がピカソの絵画を盗み出すことを計画し、そのうえでおつは見張りという甲の窃盗を助ける行為を行っていることから、乙は甲とともに犯罪を実行したということができる。

 よって、甲と乙は刑法60条の共同正犯の罪責を負う。

(2)窃盗未遂罪が成立するためには、窃盗の実行に着手してこれを遂げなかったとのいえなければならない(刑法43条本文)。実行の着手があったといえるためには犯罪の結果発生のための現実的危険性のある行為を行ったといえなければならない。その体、犯罪の実現のために必要不可欠であること、時間的場所的近接性、傷害となるような特段の事情のなかったことが考慮される。

 本件事案において、甲が盗もうとしている絵画はA社のカギのかかった倉庫内にあるため、甲が倉庫のカギを破壊する行為は盗みのための必要不可欠な行為に当たるといえる。また、甲がカギを破壊したら、その場で盗みに入ると考えられることから、時間的、場所的近接性が認められる。また、鍵の破壊後は盗みを行うための特段の障害はない。

 よって、甲は鍵を破壊しに係ることにより窃盗の実行に着手したということができる。

(3)また、甲はこのように実行に着手したにもかかわらず、目的の絵画を盗み出すことができていないため、窃盗の目的を達しなかったということができる。

(4)したがって甲及び乙には窃盗未遂罪の共同正犯が成立する。

3.甲と乙はCに発見された後逃走するにあたって、甲が、威嚇射撃を行いCに擦過傷を与えているが、このような甲・乙の行為が刑法238条の事後強盗による刑法240条の強盗致傷罪に当たらないか検討する。

(1)刑法238条の事後強盗罪が成立するためには、①窃盗の罪を犯したものであること、②取り返されることを防ぐこと又は逮捕を免れること、罪責を隠滅することといった目的のあること、③相手方の反抗を抑圧するに足りる暴行脅迫を行ったことが認められなければならない。

(2)刑法238条にいう窃盗には窃盗未遂の者も含まれるとされる。本件事案において、甲と乙は窃盗未遂の罪を犯した者であるため、①の要件を満たす。

(3)本件事案において、甲は逮捕を免れるために発砲していることから、甲には逮捕を免れる目的があったということができる。

(4)また、甲の行った発砲行為というものは空に向けた威嚇射撃であるものの、Cに向けられた場合射殺されるおそれのある行為であることから、相手方の反抗を抑圧するに足りる脅迫行為であるということができる。

(5)刑法240条の傷害の発生は、暴行脅迫のいずれも区別していないことから、脅迫によって発生した傷害も含まれる。

 本件事案において、Cは甲の威嚇射撃に驚き身をかわす際に全治7日余りの擦過傷を負っていることから、Cは傷害を負ったということができる。

(6)強盗致傷の未遂は傷害の有無によって判断される。本件事案において、甲はピカソの絵画を奪取していないものの、Cに傷害を与えているため、甲の行為は刑法240条の強盗致傷罪に該当する。

(7)よって甲と乙は刑法243条の強盗致傷罪に当たる行為を行ったといえる。

4.本件事案において、乙は甲の銃所持の事実を知らなかったことから、刑法382項によって窃盗未遂罪の範囲で処罰されるか検討する。

 本件事案において、甲は刑法243条の強盗致傷罪に当たる行為を行っているが、これは甲が乙に何も言わず拳銃を所持した状態で、乙が逃走した後に行っている。そのため、乙には重い罪である強盗致傷罪に当たる事実の認識がなかったということができる。

 よって乙は刑法382項により窃盗未遂罪の範囲で罪責を負う。

5.よって甲と乙には建造物侵入罪と強盗致傷罪の共同正犯が成立し、これらは、刑法541項後段により牽連犯となるものの、乙は刑法382項により窃盗未遂罪の共同正犯の範囲で罪責を負う。