刑法事例演習教材 事例40

証拠偽造犯人隠避罪について手の問題を解きました。

証拠偽造罪、犯人隠避罪については、平成29年、平成28年に新しい判例が出ているので、それを反映しつつ書いたつもりですがどうでしょうか?

何か気になる点があればコメントお願いします。

 

刑法事例演習教材 第2版

刑法事例演習教材 第2版

 

 

 

第一.乙の罪責

1.乙は甲の捜査を担当するA検事に対し、虚構の事実を供述し、Aに供述調書を作成させているが、このような乙の行為が刑法104条の証拠偽造罪に該当するか検討する。

(1)刑法104条の証拠偽造罪が成立するためには、①他人の刑事事件に関する証拠であることと、②偽造したことが認められなければならない。

(2)他人の刑事事件に関する証拠とは、自己に関わらない確定判決を得る前の刑事事件にかかわる一切の証拠を指すとされる。

 本件事案における甲の覚せい剤の自己使用に関する乙の供述というものは乙の犯罪にかかわらない証拠とであるということができる。また、この甲の覚せい剤の自己使用罪というものは確定判決を得ていない事件であるため、他人の刑事事件に関する証拠であるということができる。

(3)供述調書に関しては、偽証罪があることから、原則として証拠偽造罪の対象とはならないとされている。しかし、新たな証拠を捜査機関と一体となって作り出したと評価できる場合には偽造を行ったと評価することができる。

 本件事案において、乙は、警察官と一体となって甲の事件に関する証拠を新たに作り出したと評価することができないため、乙は証拠を偽造したということはできない。

(4)したがって乙に刑法104条の証拠偽造罪は成立しない。

2.乙は甲の捜査を担当するA検事に対し甲を不起訴にしてもらうために虚構の事実を供述しているが、このような乙の行為が刑法103条の犯人隠避罪に該当するかが問題となる。

(1)犯人隠避罪が成立するためには、①罰金以上の刑に当たる罪を犯した者に対して、②官憲の逮捕発見を免れるべき隠匿場所の提供以外の一切の方法による行為を行ったということができなければならない。

(2)甲の罪というものは覚せい剤の自己使用の罪であり、覚せい剤取締法41条の311号によれば、10年以下の懲役に処せられる罪であり、罰金以上の重い刑であるということができる。

(3)本件事案において、乙は、甲の刑を免れさせるために覚せい剤を風邪薬として、ただで渡したということを検察官Aに供述しているが、このような行為が行われると、逮捕状態や、勾留状態から免れさせることになる。そのため、官憲の逮捕発見を免れるべき蔵匿以外の一切の甲を行ったということができる。

(4)よって乙には刑法103条の犯人隠避罪が成立する。

3.よって乙には刑法103条の犯人隠避罪一罪のみが成立する。

第二.甲の罪責

1.甲は自己の不起訴を得るために虚偽の供述を行うように持ち掛けているが、このような甲の行為が刑法103条の犯人隠避罪の教唆(刑法611)に該当しないか検討する。

2.刑法611項の教唆犯というものは他人に犯罪を行わせる促進的因果性を有する行為を行うことをさし、その結果として、犯人隠避罪を実行させたといえなければ犯人隠避罪の教唆犯は成立しない。

(1)本件事案において、甲は乙に対し、乙が甲に覚せい剤を使用させたように供述することを求めていることから、甲は、他人の犯罪を行わせる促進的因果性を有する故意を行っているということができる。また、その結果として、乙は犯罪を行っていることから、甲は犯人隠避の教唆を行ったということができる。

(2)刑法103条は、他人の犯罪に対して犯人を隠避させる行為を処罰する旨を規定しているが、この中に自己の犯罪を他人に隠避させる行為が含まれると解することができないか問題となる。

 しかし、刑法103条が他人の犯罪に限定しているのは、犯罪を行った犯人には防御権があるからであるとしていることに照らすと、他人を用いて隠避させるのは防御権の濫用であるため、教唆犯が刑法103条の処罰の対象とならないとすることはできない。

 そのため、甲の行為は、刑法103条により処罰することができない行為に当たると解することはできない。

3.したがって、甲には刑法103条の犯人隠避罪の教唆犯の一罪が成立する。