授業で公法系訴訟実務の基礎の問題を解くことがあったので、解いてみた僕の答えを置いておきます。
この回答は解説を読む前のものですので、正解ではありませんが参考になるかもしれないのでおいておきます。

- 作者: 中川丈久,石井忠雄,越智敏裕,村松秀樹,鶴岡稔彦,秋田仁志,岩本安昭,斎藤浩,淺野博宣
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設問A
(A1)
法2条の2の規定により3年を超えない範囲で在留資格が付与される。また、難民の場合、法61条の2の規定により在留資格が付与される。難民の場合の在留期間の上限は法律に規定がない。
(A2)
法20条の委任する規則20条3項によれば、法務大臣は在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限って許可することができるとされている。この相当な理由については規定がないものの、日本人との結婚などの自由がこれに含まれると考えられる。
この変更手続きを行う場合、法20条2項の委任する規則20条1項に従って、別記30号様式による申請書を地方入国管理局に出頭して提出しなければならない。
(A3)
甲は、平成X
10年に短期滞在の在留資格で日本に入国し、在留期間が満了したことにより、在留資格を失っているからある。
設問B
(B1)
法24条の違反事由がある場合、外国人は国外への退去を強制される。また、甲は、法24条4号ロの事由があるため、国外への退去を強制されている。
(B2)
法24条の違反事由があるかを調査し、違反事由があると疑うに足りる相当の事由があるときには収容令書により強制収容される。強制収容後には速やかに入国審査官による審査が行われる。法24条の違反事由がないと認められたときは放免されるが、違反事由があるとされたときは、違反事由があるとされる容疑者に対し通知を行う。この際、口頭審理により、容疑者が異議の申し出を行うことができることも通知される。異議の申し出がないとき、異議の申し出があったものの、入国審査官による審査に誤りがないと判断された場合には、被疑者に退去強制令書を示して、退去強制手続きを行う。
(B3)
収容手続きは、容疑者の身柄確保とその後の入国審査の実効性確保のための手続であり、入国管理局の主任審査官が収容令書を発付し、容疑者に対して示し執行を行う。
一方、退去強制は、退去強制令書により、出入国管理法違反の違反者に対して退去させることを強制するために行う。この際の退去強制令書は、入国管理局の主任審査官が発付し、入国警備官が外国人に対して示される。
(B4)
出入国管理法49条3項によれば、法務大臣が異議の申出に理由があるかを審査することができると規定しているが、法69条の2によって法務省令で定めるところにより地方入国管理局長に委任することができると規定していることから、法69条の2により、法務大臣の権限が地方入国管理局長に委任され、その権限に基づき地方入国管理局長が異議の申し出に対する審査を行うことができるからである。
(B5)
出国命令については、法55条の3に規定があるが、強制執行できる手続きではないとされている。一方、退去強制はこれと異なり、法律により強制執行を行うことができる。
また、上陸審査時の退去強制は、退去強制と異なり、違反事由があるか否かの審査を行うことなく、退去強制を行うことができる点で異なる。
設問C
(C1)
法50条によれば、法務大臣は、容疑者に50条1項各号の事由がある場合に特別在留許可を行う。この許可の判断というものは、外交的、政策的判断が要求されるものであるため、法務大臣に裁量がある。
また、ガイドラインがあるが、このガイドラインというものは裁量基準であるため、法務大臣の判断を規則しない。
(C2)
法50条によれば、法務大臣が特別在留許可を行うことによって、容疑者に在留資格が付与される。
(C3)
容疑者に対する特別在留許可は原則として、異議の申し出に対する裁決によって行われるが、例外的にこの意義の申し出に対する裁決に理由がなくとも法務大臣の特別許可により在留資格を与えることができる。
設問D
(D1)
処分性があるといえるためには、その作用について、法律に基づくものであり、国または公共団体が公権力の行使により、相手方の権利義務もしくは、法律上の地位の変動をもたらすことのできるものであるといえなければならない。
本件事案において、法52条3項に基づき国から甲に対して、退去強制令書が発付されているが、このような退去強制令書が発付された場合、甲は日本から強制的に退去させられる地位が付与されるため、甲に対する法律上の地位の変動をもたらすことができるといえる。また、この法律上の地位の変動は、国の一方的な意思表示によって行うことができるため、公権力の行使によるものであるということができる。
したがって法52条3項に基づく退去強制には処分性があるということができる。
本案主張において、甲は、甲に特別在留許可を与えない法務大臣の判断には裁量判断の誤りがあることを主張する。
法50条1項に基づく法務大臣の特別在留許可の付与というものは、外交的、政治的判断を必要とするものであるため、裁量が与えられている。
本件事案において、法務大臣は、異議の申出に理由がないことから、甲に特別在留許可を与えていないが、ガイドラインによれば、特別在留許可を与える積極的な事由として、日本人と間に婚姻生活があること、日本人との間の未成年の実子を扶養していることを考慮しなければならないとされているものの、これらの考慮すべき事由を考慮せずに甲に特別在留許可を与えないとの裁量権を逸脱し、社会通念上相当でない判断を行っている。
したがって、法務大臣の異議の申出に理由がないとの判断は裁量権の範囲を逸脱した違法な判断ということができ、法52条3項に基づく退去強制は取り消すことができる。
(D2)
行政事件訴訟法25条に基づく執行停止命令を発するためには、処分の取消しの訴えがあった場合で、重大な損害が発生するといえる場合でなければならない。
本件事案において、甲は、退去強制令書の取消しの訴えを提起しているため、処分の取消しを求める訴えはあったということができる。
また、甲が退去強制命令により退去強制がされた場合、法5条1項9号ハによって日本への入国の際に上陸の拒否がなされてしまう。この上陸拒否の処分というものは、日本に未成年の実子及び婚姻の相手がいる甲の日本での家族生活の基盤を破壊する結果となるため、重大な損害を発生させるといえる。
また、行政事件訴訟法25条4項によれば、執行停止を拒むことができる事由として、本案について理由がないとみえる場合であることが挙げられているが、本件事案における項にこのような事由はない。
したがって、裁判所は執行停止命令を発することができる。
(D3)
甲は、在留特別許可がされなかったことに対する不服を申し立てるため、在留特別許可を義務付ける義務付けの訴えを提起すると考えられる。
行政事件訴訟法37条の2に基づいて義務付けの訴えを提起するためには、①なされるべき処分に処分性があり、②その義務付けをすることに訴えの利益があり、③処分がされないことによって重大な損害を被る虞があることが認められ、④他に適当な方法がない場合でなければならない。
本件事案における在留特別許可というものは、法50条に基づき法務大臣が容疑者に対してする作用であり、容疑者に在留することのできる地位が与えられるため、法律上の地位に変動をもたらす。また、この作用は、法務大臣が一方的にすることができるため、権力的作用によるものであるということができる。
そのため、甲が求めようとしている。在留特別許可には、処分性があるということができる。
また、甲は在留特別許可によって直接法効果を受けることができるため、行政事件訴訟法9条1項にいう法律上の利益を有するものということができる。
甲に在留特別許可が与えられなかった場合、甲は、強制退去となり、日本から出国させられる。このように強制退去となった場合、法5条により上陸拒否が甲になされ、甲の配偶者や、子との家族関係が断ち切られることとなる。このような上陸拒否処分を受けることにより、家族関係が断ち切られることによる不利益というものは、回復困難な重大な損害であるといえる。
甲が日本に在留するための方法として、強制退去令書の取消しを求める訴えという方法も考えられるが、甲が、在留資格を争う方法としては、法務大臣の裁量判断の誤りを指摘した方が効果的であり、紛争の抜本的な解決に資するため、損害を避けるための谷適当な方法がない場合にあたるといえる。
したがって甲は、在留特別許可を求める訴えを国に対してすることができる。
(D4)
強制退去令書の取消訴訟中に甲がA国に強制送還されてしまった場合、強制退去令書の法効果が消滅し、付随する法効果も残らなくなるため、訴えの利益は消滅するということができる。