平成26年司法試験刑事訴訟法

平成26年司法試験刑事訴訟法を解いていきます。

 

 

 設問1小問1

第一①の取り調べの適法性

1.Pは平成26年2月11日から12日まで宿泊を伴う甲に対するとしりらべを行っているが、このPの取り調べが適法であるか検討する。

2.刑事訴訟法198条1項本文に基づく適法な任意取り調べであるということができるためには、その取り調べが相手方の意思に反し憲法上保障された重要な権利を侵害するものでないといえなければならない。また、刑事訴訟法198条1項の取り調べは必要な範囲でしか行うことができないのであるから、被疑者の嫌疑の程度、事件の重大性、被疑者の態度等を総合考慮して、社会通念上相当とされるものであるといえなければならない。

(1)本件事案において、甲は、任意同行を求められて素直に応じていること、任意同行の際に甲の意思を制圧するような行為は行われていないこと、また、取り調べも甲を監禁するなどして移動の自由を奪うようにして行われたものではないため、甲の意思に反するものであるといえない。

 そのため、①の取り調べは、相手方の意思に反して憲法上保障された重要な権利を侵害するものであるとは言えない。

(2)本件事案において、甲がV殺害に関与していると疑ったのはWの供述などから、殺人・窃盗の被害にあったVのダイヤモンドを質入れしたとの疑いが強まっているからである。また、事件も殺人・窃盗事件であり、また、ダイヤモンドという金品が盗まれていることから、強盗殺人事件の可能性もあるのであるから、重大な事件であるということができる。さらに、平成26年2月12日の取り調べを開始するにあたって、Pは甲に翌日の取り調べに応じるか聞いているが、これに対して、「1日くらいなら仕事を休んで、取り調べに応じてもよい」と言っており、取り調べに応じる意思もあったといえる。さらに、Hホテルでの宿泊の際も甲の希望通りにPらが同室することはしていない。そのため、甲の取り調べに対する意思決定に反して任意取り調べを行ったということはできない。

 よって、甲に対する取り調べは社会通念上相当とされるものであるということができ、刑事訴訟法198条1項本文の必要な取り調べに当たるということができる。

3.よって、①の取り調べは刑事訴訟法198条1項本文に基づく適法なものということができる。

第二②の取り調べの適法性

1.刑事訴訟法198条1項本文によれば、任意取り調べとして必要な取り調べを行うことができるとされている。この必要な取り調べであるといえるためには、相手方の意思に反し、憲法上保障された重要な権利を侵害するものでないといえ、被疑者の嫌疑の程度、事件の重大性、被疑者の態度を総合考慮して社会通念上相当とされるものであるといえなければならない。

(1)②の取り調べを開始するにあたって、身柄拘束が行われたり、取り調べが施錠された密室で行われ移動の自由を奪っていたという事情はないため、②の取り調べは、甲の意思に反して憲法上保障された重大な権利を侵害して行われたということはできない。

(2)本件事案における甲の被疑事件はVに対する殺人・窃盗事件であり、重大な事件であるということができる。また、甲は前日にVに対する殺人と窃盗の事実について自白しているため、甲の嫌疑の程度は非常に高いといえる。

 しかし、甲は①の取り調べの前に1日だけなら応じてよいとして任意に取り調べに応じており、②の取り調べを行う前も、一度は仕事に出たいからとして拒む様子を見せている。確かに、Pから説得されて応じたように見える事情はあるため、適法でないかという可能性はあるものの、このように取り調べに応じたのは渋々ながらのものであり甲がPの取り調べに応じる意思があったといえるだけのものであるとは言えない。

 さらに、宿泊の態様もQら3名の警察官と同室であり、はじめ、甲はこのような宿泊を拒んでいたという事情もある。確かに、警察官の部屋と甲の部屋とはふすまで仕切られており別室であるため、甲の意思には反していないといえそうではあるものの、甲が宿泊した部屋は、一部屋の奥の部屋であり、通路などに出るためには、警察官のいる部屋を通過しなければならず、甲のプライバシーや移動の自由を制約する形での宿泊が行われていたということができるうえ、このような宿泊について甲の意思に反するということができる。

 したがって、②の取り調べは社会通念上相当とされるものではないといえる。

3.よって②の取り調べは刑事訴訟法198条1項本文に反する違法な取り調べということができる。

小問2

1.検察官Rは起訴後に甲に対する取り調べを行っているが、このような取り調べが、刑事訴訟法上適法であるか検討する。

(1)刑事訴訟法197条1項によれば、捜査の目的を達するために必要な範囲で取り調べを行うことができるとされていることから、起訴後についても取り調べを行うことができることを想定した規定であるということができる。

 しかし、起訴後の場合、検察官が被告人に対して接触し、証拠収集を行うことになるのであるから、当事者主義に反する可能性がある。

 そのため、刑事訴訟法197条1項に基づく取り調べを行うためには当事者主義に反する態様での取り調べでなかったということが認められなければならない。

(2)本件事案において、検察官が取り調べを行ったのは、乙の関与について取り調べるためである。また、甲がこの取り調べに応じ、盗品無償譲受の事実を主張することによって、窃盗の被疑事実よりも軽い罪の主張を行うことができるようになるのであるから、甲にとって不利益とならず、当事者主義に反することにもならない。

2.したがって、③の取り調べは刑事訴訟法197条1項本文に基づく被告人に対する取り調べであるということができる。

設問2

1.検察官は公訴事実第2の甲の窃盗の被疑事実について、乙からの盗品無償譲受の事実に変更しようとしているが、このような訴因の変更が刑事訴訟法312条1項に基づくものとして許されるか検討する。

(1)刑事訴訟法312条1項によれば、訴因変更を行うためには、公訴事実の同一性を害しないものでなければならないとされる。公訴事実が同一であるかどうかは基礎的事実の同一性によって判断され、非両立の事項であるか否かが考慮される。

(2)公訴事実の記載は甲がVのダイヤモンドを窃取したとの事実であるものの、訴因変更後の事実は乙がW宅から窃取してきたダイヤモンドを甲が盗品と知りながら譲り受けたとの事実であり、Vのダイヤモンドについての犯罪であるという点で犯罪の基礎的事実の同一性があるということができる。さらに、甲の窃盗の事実について有罪が確定した場合、甲の盗品関与の事実についても一事不再理効が及ぶのであるから、訴因変更後の事実は非両立の関係にあるということができる。

 よって、公訴事実第2の事実を盗品無償譲受にする訴因変更は公訴事実の同一性を害するということは言えない。

2.したがって、検察官は刑事訴訟法312条1項に基づいて盗品無償譲受の罪への訴因変更を行うことができる。

以上